ヤングケアラーは、家族のケアを担う18歳未満の子どもたちを指します。
若くして重責を負うことで、家族を支えるという責任感や達成感を得られる一方、学業や進学、就職、健康、友人関係など、子ども本来の生活や成長に深刻な影響を及ぼすというデメリットがあります。
ヤングケアラーになる主な原因は、親の病気・ケガ、ひとり親家庭、祖父母の介護などですが、周囲の理解不足から孤立しがちです。
近年、行政や教育機関、民間団体が連携してヤングケアラー支援に取り組み始めていますが、まだ十分な支援とは言えない状況にあります。ヤングケアラーの現状、課題点などについて本文で詳しく見ていきましょう。
ヤングケアラーとは?

ヤングケアラーとは、病気や障害、 アルコール・ 薬物依存や精神的問題などを抱えている家族の世話をするために、本来大人が担うような家事や家族の介護を日常的に行っている18歳未満の子どもや若者のことを指します。
ヤングケアラーになる理由としては、親や兄弟の病気や怪我、介護などがありますが、周りの大人から十分な理解を得られないことから相談したり支援を求めたりすることが難しく、子ども本人の生活や将来に悪い影響を与える可能性があり、深刻な問題となっています。
なぜヤングケアラーになってしまうのか?
ヤングケアラーになってしまう原因は様々ですが、代表的なものを3つ紹介します。
1.親の身体的な病気やケガ
親の病気やケガによるものは、子供がヤングケアラーとなる大きな要因の一つです。
脳卒中や心筋梗塞などの予測できない突発的な疾患により、親が寝たきりや要介護状態になる場合や、事故により体に麻痺等の後遺症が残る場合、親ががんを発症し、抗がん剤治療等の副作用が影響する場合など、長い期間日常生活を一人で過ごすことが困難になると,生活面で全般的なサポートが必要になります。
もちろん、長期的な治療や介護を必要とする状況になった場合、病院などで世話をしてもらうことも可能ですが、入院費や医療費の負担が大きいことや患者が普段の生活リズムで生活ができないため、精神面でのストレスがかかることを考えると自宅での家族のサポートが重要になります。
2.ひとり親家庭等、家庭の事情
お金に余裕がなく、親が長時間労働を余儀なくされる家庭では、子どもをヤングケアラーに追い込んでしまうことになります。毎日のように働き続ける親の姿を見て、子どもは「自分も家族のために何かしなければならない」という感情を抱くようになります。親が不在のとき、幼い兄弟の面倒を見たり、炊事や洗濯などの家事を手伝ったりするうちに、子どもが家庭を支える一員になっているという状況は珍しくはありません。
また、共働きの家庭であっても、生活が苦しいというケースもあります。そのような場合も同様に、子ども自身がアルバイトをして稼がざるを得ない状況となってしまうのです。本来なら勉強や遊びに打ち込む、子供にとっての大切な時期に、家計を支えるために必死に働かなくてはならないという状況で日々を送ることになるため、子どもの心身に大きな負担やストレスがかかってしまいます。
このような事態を減らすためにも、親の働き方を見直し、ワークライフバランスを実現できる社会を目指すことが重要です。そして、ひとり親家庭など、経済的に厳しい状況である家庭を支えていく必要があります。
3.家族の介護(祖父母)の長期化
近年の日本の高齢化社会において、老老介護の問題が深刻になっています。祖父母の介護をしてきた親も年を取って高齢となり、介護を日常的に行うことが体力的に困難になり、次第に子どもにその役割を担ってもらうケースが増えてきています。
仕事と介護を両立させながら日々を生活することを考えると、子供に頼ってしまう親の気持ちも否定はできません。
このような理由で、ヤングケアラーになってしまうケースが多いです。上記で説明したような状況が長く続けば、子どもの健康にも影響してしまう恐れがあります。また、進学や就職などのこれからの人生にかかわる時期でもあるため、将来への影響も懸念されます。
日本のヤングケアラーの現状
日本では、ヤングケアラーの存在が徐々に明らかになりつつありますが、まだ十分な理解が得られていないのが現状です。日本のヤングケアラーの実態はどのようになっているのか、内閣府の調査や文部科学省、子ども家庭庁の調査による結果を参照しながら見ていきましょう。
ヤングケアラーの認知度
日本では近年、ヤングケアラーという言葉が徐々に浸透してきています。2022年に実施された内閣府の調査では、ヤングケアラーの認知度は約50%という結果が出ました。しかし、まだ十分な認知度とは言えず、多くの人がヤングケアラーの存在や抱える問題について理解していない現状があります。マスメディアでの報道や、学校教育での取り組みなどを通じて、さらなる認知度向上が求められています。
小学生によるヤングケアラーの現状
文部科学省により支援を受けた日本総研の調査によると、全国の小学6年生を対象としたヤングケアラーに関する調査が実施されました。
この調査は、全国の小学校350校から無作為に選ばれた約24,500人の小学6年生を対象としており、9,759件の回答が寄せられました。
調査の結果、小学生の6.5%が「家族の世話をしている」と回答したことが明らかになりました。

世話を必要としている家族の内訳は、「兄弟」が71.0%で最も多く、次に「母親」が19.8%と二番目に多いという結果でした。特筆すべき問題点は、世話を必要としている人が「父母」であると回答した児童の33.3%が、その状態について「わからない」と答えていたことです。

このように回答した子どもたちは、理由を理解せずに現状を受け入れ、親の世話をすることが当然だと感じているという実態が浮き彫りになりました。
さらに、家族の世話を担う子どもたちのうち、就学前から世話を始めた人が17.3%、小学校低学年の時期から世話をしている人が30.9%にも達することが判明しました。
子供が担うには負担が大きく、不適切な内容のケアであり、長期間にわたって年齢不相応の責任を負わされていることが明らかになったのです。
このような状況は、子どもたちの健康状態や学校生活にも深刻な影響を与えています。
家族の世話をしている児童は、そうでない児童と比較して、健康状態が「よくない・あまりよくない」、遅刻や早退を「たまにする、よくする」と回答する割合が約2倍になっています。
学校生活においても、「授業中に寝てしまうことが多い」「宿題ができていないことが多い」「持ち物の忘れ物が多い」「提出物を出すのが遅れることが多い」といった項目で、世話をしている児童の該当割合が一様に2倍前後に達することが確認されました。
加えて、世話に費やす時間が長くなればなるほど、学校生活等に影響が出てしまい、本人の負担も重くなってしまいます。
世話に関する相談先として、家族が78.9%で最多であり、学校の先生や養護教諭、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーへの相談割合は低い水準にとどまっています。
家族へ相談するというのが78.9%という結果の見方を変えてみると、約5人に1人は家族以外の人に相談をしているということを意味します。

この点から、学校の先生やスクールカウンセラーは、低い水準ではあるものの、ヤングケアラーの子どもたちの精神面でのサポートをする立場として欠かせない存在であると言えるでしょう。
大学生によるヤングケアラーの現状
また、小学生だけでなく、子ども家庭庁の支援によって日本総研が全国の大学3年生を対象に実施した調査によりヤングケアラー問題が大学生にも深刻な影響を及ぼしていることが明らかになりました。
調査は、全国の大学396校から無作為に選ばれた約30万人の学生を対象に行われ、9,679件の回答が寄せられました。
その結果、現在家族の世話をしている学生が6.2%、過去に世話をしていた学生が4.0%に上り、合わせて1割の学生がヤングケアラーの経験を有することが判明したのです。

家族の世話に携わる学生は、小学生の調査結果と同じく、そうでない学生と比較して健康状態が良くなく、欠席や遅刻・早退が多い傾向が見られます。
さらに、授業への出席や予習復習、課題への取り組み、部活・サークル活動、アルバイト・仕事、趣味・娯楽・交友などに十分な時間を割くことができていないことが明らかになりました。
彼らが抱える悩みとしては、学費などの経済的問題や家庭の経済状況、家庭内の人間関係、病気や障がいのある家族のことなどが主なものとして挙げられています。
現在または過去に世話をしている家族がいる学生の6割が、世話が原因で何かを諦めたことがあると回答しているのです。
特に、大学入学以前から世話を開始していた学生の50%以上が、進学の際に苦労や影響があったと答えています。
学費等の経済的制約や不安、受験勉強の時間不足、通学面での制約などが主な理由として挙げられました。
自由な時間を確保できないことや何かを諦めざるを得ないこと、進学先の学校の制約など、様々な分野で選択肢が狭められてしまうといった問題がこの調査によって明らかになりました。
また、家族の世話をしている学生の約50%が就職に関して不安を抱えており、約40%が精神的な苦痛を感じていることも判明しました。
家族の世話のことを考えながら学生生活を送るとなれば、やはりこれからの人生に直結する就職活動や、生きていく上での精神的な不安は多くの方が抱えていることがわかります。
彼らが求める支援としては、進路や就職の相談、学費への支援や奨学金等、自由に使える時間の確保などが上位に挙げられています。
大学生のヤングケアラーは中高生と比べて、成長しているがゆえに母や祖母の世話を行っている割合が高く、ひとり親家庭で自分一人で世話をしている割合も高い傾向にあります。
世話の頻度や時間も長くなっているのが特徴です。
参考資料:子ども家庭庁 ヤングケアラーの実態に関する調査研究
ヤングケアラーであることが原因で生じる問題
ヤングケアラーの子どもたちには、家族の介護や世話を担うことで様々な問題があります。学校生活や就職、自身の健康、家族や友人との関係性など、多くの分野で困難を抱えているのです。
この章では、ヤングケアラーであることが原因で生じる学業や就職面への影響、心身の健康面でのリスク、家族や友人とのコミュニケーションの難しさなど、直面する課題について見ていきましょう。
学校や就職における問題
ヤングケアラーの子どもたちは、家庭での介護や家事を担うことで、学校生活や進路選択に大きな影響を受けています。授業に集中できず成績が下がったり、進学や就職を諦めざるを得ないケースも少なくありません。将来の選択肢が制限され、社会的な孤立につながることもあるのです。
この章ではそんな問題について解説しましょう。
学校生活への深刻な影響
ヤングケアラーの子どもたちは、家族の介護やサポートを優先しなければならず、学校生活に大きな支障をきたしています。朝の支度に時間がかかって遅刻が増えたり、夜間の介護で十分に眠れないため授業中に集中できないことも珍しくありません。宿題や課題に向き合う時間も限られ、提出が遅れたり内容が不十分になってしまうこともあります。
また、「家のことを優先しなければいけない」という心理的な負担から、学校そのものが負担に感じられ、不登校や孤立につながる場合もあります。こうした状況が続けば成績は下がりやすく、留年や中退といった深刻な影響が現れるリスクも高まります。表面的には頑張っているように見えても、実際には限界に近い状態で学生生活を送っている子どもも多いのです。
進学をあきらめざるを得ない
ヤングケアラーの子どもたちは、受験勉強に十分な時間を割けないため、学力を伸ばすチャンスが限られています。家族の介護をするために予備校に通えなかったり、自宅での勉強時間がほとんど確保できないこともあります。また、進学した場合に家事や介護の負担が家庭内でどうなるのか不透明で、本人も家族も不安を抱えているケースは少なくありません。結果として、本来であれば挑戦できたはずの学校を諦め、家庭の事情に合わせて進学の夢を断念せざるを得ない状況が生まれます。
さらに、経済的な負担から進学に必要な費用を捻出できず、奨学金制度の利用が難しい場合には、進学自体を断念するケースもあります。このように、ヤングケアラーであることは、学ぶ権利や将来に向けた選択の幅を狭めてしまう深刻な社会課題です。
就職活動への影響
ヤングケアラーとして日常的に介護を担っている若者は、就職活動でも大きなハンデを背負っています。説明会や面接など重要な場面で家庭の事情によるスケジュール調整が必要になり、他の学生と比べて十分に準備できないことがあります。また、介護による慢性的な疲労や睡眠不足が原因で、本来の能力を面接で発揮できないケースもあります。企業側に事情を説明すべきか悩み、打ち明けた場合には不利になってしまうのではないかという不安を抱える若者も少なくありません。
さらに、希望する職種がシフト勤務や長時間労働を必要とする場合、介護と両立が困難になるため、選べる仕事の幅が大きく制限されます。このように、ヤングケアラーの負担は就職活動そのものに強い影響を与え、キャリアのスタートラインに立つ前から不利な状況に置かれています。
就労後の継続・評価への不安
ヤングケアラーが就職した後も、家庭での介護が続く限り、多くの不安を抱えながら働くことになります。急な体調変化や介護の必要性から欠勤・早退が増え、職場で「責任感がない」と誤解されてしまうこともあります。本人は必死に両立しようとしていても、周囲の理解が得られなければ評価が下がり、昇進や給与に影響してしまう可能性が高まります。また、疲労が蓄積することで仕事のパフォーマンスが低下し、精神的なストレスを抱えるケースもあります。場合によっては、介護の負担が増えたことで退職を余儀なくされ、非正規雇用への転換や収入減につながることもあります。
こうした負の連鎖が続けば、将来のキャリア形成や生活の安定が大きく揺らぐため、社会的な支援体制の強化が不可欠です。
社会的な孤立
ヤングケアラーの子どもたちは、家庭の介護が中心になる生活を送る中で、友人や同級生との関わりが極端に少なくなりがちです。部活動や放課後の遊び、休日のイベントに参加する余裕がなく、結果として学校でも孤立しやすくなります。また、「家庭の事情を理解してもらえないのでは」という不安から誰にも相談できず、悩みを抱え込んでしまうことも多くあります。社会人になっても同様に、介護の都合で飲み会や職場イベントに参加できず、同僚との関係が深まりにくい状況が続きます。
こうした孤立は、心の健康にも悪影響を及ぼし、自己肯定感の低下や将来的な社会参加の難しさにつながる恐れがあります。孤立を防ぐためには、学校・職場・地域全体が「見えにくい負担」を理解し、相談しやすい環境づくりを進めることが重要です。
ヤングケアラー自身の健康・感情における問題
ヤングケアラー自身も健康や感情における問題を抱えています。
慢性的な疲労と睡眠不足
ヤングケアラーの子どもたちは、家族の介護を優先する生活が続く中で、自分の休息時間を確保することが難しくなっています。夜間の見守りや体位変換、服薬管理などで睡眠が途切れたり、早朝から介護が始まることもあり、慢性的な睡眠不足に陥りやすい状況です。こうした疲労の蓄積は、学校の授業中に集中できない、判断力が低下する、といった日常への支障も招きます。
また、成長期に十分な睡眠が取れないことは心身の発達に悪影響を及ぼす可能性があり、長期的な健康問題のリスクを高める要因にもなります。周囲からは「疲れて見える」「元気がない」と指摘されることもありますが、本人はそれを介護のせいだと言いづらく、疲労を抱えたまま生活し続けてしまう現状があります。
心の休まる時間がないストレス状態
ヤングケアラーの子どもたちは、日々の介護に追われ、自分のために使える時間が極端に少なくなっています。「休みたいけれど休めない」「誰かに代わってほしいけれど頼れない」といった感覚が積み重なり、心の余裕を失っていきます。周囲の同年代が遊んだり趣味を楽しんだりしている姿を見ると、自分だけが違う生活をしているという疎外感や孤独感を抱えることもあります。また、介護中は常に気を張り、安全に気をつけなければならないため、精神的にゆとりのない状態が日常化します。
こうしたストレスは、集中力の低下や睡眠の乱れ、自律神経の不調といった形で現れることもあり、心身への影響は想像以上に大きいものです。適切に支援が届かなければ、ストレスが慢性化し、心の不調を引き起こす原因となってしまいます。
精神的な葛藤と感情の不安定さ
ヤングケアラーの子どもたちは、「自分がやらなければ家庭が成り立たない」という強い責任感を抱える一方で、同年代と同じように遊んだり学んだりしたい気持ちも持っています。この二つの気持ちの間で揺れ動く中で、「もっと自由でいたいのにできない」という不満や、「家族なのに嫌だと思ってしまう自分は悪いのではないか」という罪悪感に苦しむことがあります。こうした葛藤は、年齢が低いほど言語化が難しく、感情が爆発しやすくなる傾向につながります。怒りやイライラが周囲に向けられたり、逆に自分を責めて落ち込んだりするなど、感情の起伏が激しくなるケースもあります。
また、家庭の中で大人として期待される一方、社会ではまだ子どもとして扱われるというギャップも負担となり、アイデンティティの混乱を引き起こすことがあります。
心の病へのリスク
ヤングケアラーが長期にわたって強いストレスや不安を抱え続けると、うつ病、不安障害、適応障害などを発症するリスクが高まります。特に「誰にも相談できない」「自分が頑張るしかない」という思い込みが強い場合、問題を一人で抱え込み、心の不調が深刻化してしまう可能性があります。精神的な負担は、なかなか周囲に気づかれにくく、学校や職場では「黙って疲れているだけ」に見えることも多いのが実情です。また、慢性的なストレスは睡眠障害や食欲の低下、体調不良としても現れ、心の病をさらに悪化させる要因になります。
早期に支援につながれば改善が期待できますが、支援制度や相談先を知らないまま孤立し続けることも多く、社会的なサポート体制の強化が求められています。
身体の不調や成長への悪影響
ヤングケアラーは、介助の動作や家事を繰り返す中で、腰痛・肩こり・手首の痛みなどを抱えやすくなります。本来であれば大人が行うべき身体介助を子どもが担うことで、成長期の骨や筋肉に負担がかかることもあります。さらに、介護や家事の優先で運動する時間が減るため、体力の低下や肥満、筋力不足といった問題につながる可能性があります。食事の準備に時間を割けず、栄養が偏りがちになるケースも少なくありません。
生活習慣の乱れは免疫力の低下を招き、風邪を引きやすくなる、体調が回復しづらいといった影響を及ぼします。成長期に継続的な負担がかかることは、将来的な健康リスクにもつながるため、身体面のサポートは欠かせません。
将来にわたる健康と生活への不安
長期的に介護を担ってきたヤングケアラーは、心身の疲弊によって将来への不安を抱えやすくなります。勉強時間が確保できなかったり、進学・就職が制限されたりすることで、希望したキャリアにつけないリスクも高まります。また、若いころからストレスや身体への負担が蓄積されることで、大人になってから慢性疲労、メンタル不調、生活習慣病などの健康問題を抱える可能性もあります。さらに、「自立して生活できるのか」「家族の介護はいつまで続くのか」といった将来像が描きづらく、不安が慢性化することもあります。
社会的・経済的な基盤が弱くなることで、生活が不安定になりやすい点も大きな課題です。これらの問題を予防するためには、早期からの支援や環境調整が不可欠です。
家族や友人とのコミュニケーション・関係性における問題
家族や友人とのコミュニケーションや関係性において多くの問題を引き起こします。
家族内での「大人の役割」による関係の歪み
ヤングケアラーの子どもは、家族内で本来大人が担うべき役割を担っています。家事や介護、時には家計を支えることもありますが、その分だけ子どもらしい振る舞いや自由な時間が制限され、家族との関係性が一方的なものになりがちです。
親との感情的なすれ違い
親は「子どもに頼ること」への罪悪感を抱き、子どもとの距離を感じるようになることがあります。一方、子どもも「親の助けになりたい気持ち」と「自分の限界との葛藤」に苦しんでおり、愛情と負担の間で感情の整理がつかなくなっています。特に思春期の子どもでは、親への反発心と介護義務が入り混じり、関係性がより複雑になります。
兄弟との摩擦や距離感
兄弟がいる場合、ヤングケアラーの子どもはその世話も担うことがあります。しかし、親の介護に多くの時間を割かれるため、兄弟との時間が減り「かまってくれない」「疎外されている」と感じられることも。結果として、兄弟間の関係がギクシャクし、孤立感が家庭内でも強まる可能性があります。
友人関係における孤立と疎外感
家庭の状況を周囲に打ち明けられず、友人に心を開けないという悩みを抱える子どもも多くいます。放課後や休日の遊びを断らざるを得ないことが続くと、次第に誘われなくなり、疎外感を深めることになります。結果として、友人関係の構築が難しくなり、学校生活全体に孤独感が広がります。
支えが身近にないことによる心の傷
家庭内外の人間関係が希薄になることで、ヤングケアラーの子どもたちは「自分は誰にも理解されない」という感情に陥りやすくなります。介護そのものによるストレスに加えて、心の拠り所がない状態は、精神面に深刻なダメージを与え、長期的な心の傷となるおそれもあります。
日本のヤングケアラーに対する支援状況
日本の学校や自治体で行なっているヤングケアラーに対する支援や具体的な取り組みについて解説していきます。
学校や教育現場での支援の広がり
日本でも、ヤングケアラーへの支援は少しずつ広がっています。学校や教育現場、自治体、福祉機関などが連携し、早期発見と支援体制の強化に取り組んでいます。教職員が子どもの家庭状況を理解し、生活や学習の支援につなげることが重要とされ、研修会やスクールソーシャルワーカーの配置など、具体的な支援策が各地で進められています。こうした取り組みは、子どもたちが孤立せず学び続けられる環境づくりに直結しています。
文部科学省は2021年に全国の小中高校でヤングケアラーの実態調査を実施しました。その結果を受け、教職員向け研修の開催やスクールソーシャルワーカーの増員など、学校現場での支援体制を強化しています。教員が子どもたちの抱える負担を理解し、相談や学習支援につなげることが狙いです。調査と施策を通じて、学校が安心して相談できる場となることが期待されています。
都道府県での具体的な取り組み
東京都では「ヤングケアラー支援員」を学校に配置し、生徒への相談や教職員への助言を行っています。大阪府では「ヤングケアラー専門家チーム」を結成し、スクールソーシャルワーカーや心理専門家が連携して支援を行っています。地域や学校ごとに異なる課題に対応するため、専門家が協力して当事者の状況に合ったサポートを行う体制づくりが進められています。
また、福岡県では「ヤングケアラー支援ネットワーク」を立ち上げ、学校、行政、NPOなどが情報を共有しながら支援を行っています。家庭環境の改善や必要な福祉サービスの提供につなげることで、子どもたちが無理なく生活できる環境づくりを目指しています。地域全体で子どもを支える仕組みが重要です。
教育現場の理解・支援や自治体や福祉機関の連携は、ヤングケアラーの早期発見や問題解決に不可欠です。全国の学校で、相談しやすい環境や学習支援の体制が整えば、子どもたちは安心して学び、成長できます。今後も、自治体・学校・福祉機関が連携し、ヤングケアラーが孤立せず将来に希望を持てる社会づくりがさらに進むことが期待されています。
ヤングケアラーへの支援に対する今後の課題
日本では、ヤングケアラーの子どもたちを支援する取り組みが徐々に広がりを見せていますが、支援体制の整備や社会全体の意識向上など、まだ多くの課題が残されています。ヤングケアラー支援をさらに充実させていくために必要な取り組みについて、福祉制度の見直しなど、支援体制の整備に関する内容を紹介します。
支援制度の整備と法整備の必要性
日本において、ヤングケアラーで苦しんでいる方を支援するための法律や制度は、まだ十分に整備されておらず、現実的かつ即効性のある解決策が求められています。2022年に「ヤングケアラー支援法案」が国会に提出されましたが、継続審議となっています。ヤングケアラーの子どもたちが、適切な支援を受けられるようにするためには、法的な枠組みの確立が不可欠です。
また、福祉サービスの利用要件の緩和や、家族への経済的支援の拡充など、ヤングケアラーの家庭を支える制度の見直しも重要です。介護保険制度や障害者福祉制度など、既存の制度だけでは解決しない、新たな仕組みづくりが求められており、これらの解決策を組み合わせることでヤングケアラー支援の充実度が高くなるでしょう
社会全体でのヤングケアラー認知向上の重要性
ヤングケアラーへの支援を獲得するためには、社会全体の理解と協力が欠かせません。
行政や福祉関係者だけでなく、企業や地域住民も含めて、ヤングケアラーの存在を知り、支援の輪を広げていくことが重要な解決策の一つです。
メディアでの継続的な報道や、教育機関でのヤングケアラーにまつわる学習を導入すること、企業の社会貢献活動との連携など、様々な場面からのアプローチが必要です。
ヤングケアラー当事者の声を社会に届け、支援の必要性への共感を広めていくことも大切です。
一人一人が、ヤングケアラー問題を自分事として捉え、できる範囲で支援の一端を担う。
そんな社会の意識改革が、ヤングケアラーの子どもたちの未来を変える解決策となるでしょう。
自治体や政府のヤングケアラーへの支援取り組み具体例・相談先
ヤングケアラーの子どもたちを支援するために、政府や自治体レベルでも様々な取り組みが行われています。調査に基づく支援策の検討、相談窓口の設置、民間団体との連携など、様々な視点からアプローチをしています。
厚生労働省による実態調査と支援策の検討
厚生労働省は2021年に、ヤングケアラーの人数や年齢、介護の内容などを明らかにするために調査を行いました。調査結果を踏まえて、厚生労働省は関係省庁と連携し、ヤングケアラー支援策の検討を進めています。
具体的には、福祉サービスの利用要件の緩和や、家族への経済的支援の拡大、相談体制の強化などが検討されています。また、ヤングケアラーの実態や支援方法に関する調査研究も進められています。厚生労働省のウェブサイトでは、ヤングケアラーに関する情報が随時更新されているため、支援策について詳しく知ることができます。
各自治体における相談窓口の設置状況
ヤングケアラーの子どもたちが、身近な場所で相談や支援を受けられるようにするために、各自治体での相談窓口の設置が進められています。2022年の時点で、全国の約60%の自治体がヤングケアラー専用の相談窓口を設置しています。
相談窓口では、福祉や教育、心理カウンセラーが対応し、ヤングケアラーの子どもたちの悩みに寄り添います。家庭環境の改善に向けた支援や、学校生活の支援、将来の進路に関する相談なども行われています。相談する相手がいる、いないでは大きな違いです。相談相手がいることで、子どもの精神的な苦しさが和らぐことが期待できます。相談窓口の連絡先は、各自治体のウェブサイトや広報誌で確認することができます。
民間団体との連携によるサポート体制構築
行政だけでなく、NPOやボランティア団体などの力を活用したヤングケアラー支援の取り組みも各地で広がっています。例えば、東京都では、「ヤングケアラーサポートネットワーク」が結成され、行政と民間団体が連携して、ヤングケアラーの子どもたちをサポートしています。
民間団体では、当事者同士の交流会の開催や、学習支援など、行政では対応されないような支援が行われています。また、ヤングケアラー当事者の声を社会に発信する活動も行っています。行政と民間団体が互いの強みを生かし、協力することで、ヤングケアラーの子どもたちを支える体制づくりが進んでいます。
学校や医療機関との情報共有と早期発見の取り組み
ヤングケアラーの子どもたちを早期に発見し、適切な支援につなげるためには、学校や医療機関との情報共有が欠かせません。文部科学省と厚生労働省は、2022年に「ヤングケアラー支援のための連携指針」を策定し、学校と福祉・医療機関の連携を促進しています。
各地の自治体でも、学校と福祉部門の情報連携システムの構築や、医療機関へのヤングケアラー啓発の取り組みが進められています。
世界のヤングケアラーの現状と取り組み具体例
ヤングケアラー問題は、日本だけでなく世界各国で共通の課題となっています。先駆的な取り組みを行っている国々では、ヤングケアラーの子どもたちの権利を守り、支援するための様々な施策が実施されています。
イギリスにおけるヤングケアラーへの支援状況
イギリスはヤングケアラーへの支援の先駆けとなった国の一つであり、1990年代からヤングケアラーの存在が広まり、支援の取り組みが始まりました。2014年には、ヤングケアラーの権利を保障する法律「ケアラー法」が制定され、自治体にヤングケアラーの支援の提供が義務付けられました。
現在、イギリスには、全国に約300のヤングケアラー支援団体があり、ヤングケアラーの子どもたちに寄り添った支援が行われています。学校では、子どもたちに配慮した教育プログラムが実施され、進学や就職の支援も充実しています。また、ヤングケアラー当事者の声を政策に反映させる取り組みも積極的に行われています。
オーストラリアのヤングケアラーへの支援状況
オーストラリアでは、2010年に「ヤングケアラー認定制度」が導入され、ヤングケアラーの子どもたちが公的に認定を受けられるようになりました。認定を受けたヤングケアラーは、医療費の助成、教育の支援など、様々な支援サービスを受けることができます。
また、オーストラリアには、ヤングケアラーの子どもたちが集まり、交流や学習ができる「ヤングケアラーセンター」という施設が各地にあります。その施設では、ヤングケアラー同士がお互いの経験を共有することで、成長できるような活動が行われています。学校と福祉機関の連携も強化され、ヤングケアラーの子どもたちを支える体制が整備されています。
ドイツのヤングケアラーへの支援状況
ドイツでは、2008年に「家族介護者支援法」が制定され、家族の介護を担う人々への支援が強化されました。この法律では、ヤングケアラーも支援の対象に含まれています。ヤングケアラーの子どもたちは、介護に関する教育や相談、レスパイトケアという介護や育児など、誰かのケアを行っている人が一時的に休息できる支援など、様々な支援を受けることができます。
また、ドイツの学校では、ヤングケアラーの子どもたちに配慮した教育プログラムが実施されています。家庭の事情により通学が困難な場合には、オンライン学習の機会が提供されるなど、ヤングケアラーの学びを保障する取り組みが行われています。家族介護者支援法の適用により、ヤングケアラーの子どもたちの権利が守られ、成長と発達の機会が保障されています。
ヤングケアラーが抱える問題を解決するために私たちができること
ヤングケアラーの子どもたちは、家族の介護や世話に追われる日々の中で、様々な困難に直面していますが、その存在や実態はまだ十分に社会に知られていないのが現状です。
この章では、ヤングケアラーを支援するために私たちができることについて紹介します。
ヤングケアラーの存在を知り、理解を深める
ヤングケアラーの問題を解決するためには、私たち一人一人がヤングケアラーの存在を知り、理解を深めることが重要です。
ヤングケアラーの子どもたちは、家族の介護や世話に追われているため、自分自身の学校生活や友人関係、進学や就職など、様々な面で困難を抱えています。
しかし、ヤングケアラーの存在や実態は、まだ十分に社会に知られていません。
私たちは、ニュースやウェブサイトなどを通じて、ヤングケアラーについて学ぶ機会を積極的に持つことが大切です。
また、身近な子どもたちの変化に気づき、ヤングケアラーの可能性を意識することも大切です。
一人でも多くの人がヤングケアラーの存在を知り、理解を深めることが、問題解決への第一歩となるでしょう。
身近なヤングケアラーのサインを見逃さない
ヤングケアラーの子どもたちは、自ら助けを求めることが難しく、周囲の大人たちもその存在に気づきにくいことがあります。私たちは、身近な子どもたちの変化や異変のサインを見逃さないようにすることが大切です。
例えば、学校への遅刻や欠席が増える、成績が急に下がる、友人関係が変化する、心身の不調を訴えるなど、ヤングケアラーの子どもたちには様々なサインがあります。このようなサインに気づいたら、子どもたちの話に耳を傾け、状況を理解しようと努めることが重要です。
そして、一人で抱え込まずに、学校や福祉機関、カウンセラーなどに相談し、適切な支援につなげることが求められます。私たち一人一人が、身近なヤングケアラーのサインを見逃さず、支援を広げていくことが、問題解決への近道となるでしょう。
ヤングケアラーに関するよくある質問
ヤングケアラーとはどんなものなのか、ここでは改めてよくある質問を紹介、回答をまとめました。
ヤングケアラーとは、どんな子どもを指しますか?
ヤングケアラーとは、家族の介護や世話を日常的に行っている18歳未満の子どもを指します。例えば、病気や障害を抱える親やきょうだいの世話をしたり、家事や買い物、兄弟の面倒などを一人でこなしているケースが該当します。
見た目では分かりにくいため、周囲の大人や学校の先生も気づきにくいのが実情です。そのため、本人も「自分がヤングケアラーだ」と意識しないまま過ごしていることが多く、支援につながりにくいという課題があります。
ヤングケアラーになる原因は何ですか?
ヤングケアラーになる背景には、家族の病気や障害、ひとり親家庭、生活の困窮、精神的な問題など、さまざまな要因があります。例えば、家族の中に要介護者がいて、周囲に支援を頼れる大人がいない場合、自然と子どもがその役割を担うことになります。
また、介護や家事が「家族の助け合い」として当然のように受け止められ、本人の負担が見過ごされてしまうケースもあります。地域の支援体制が不十分だったり、家庭が孤立していることも、ヤングケアラーを生みやすい環境となっています。
ヤングケアラーの問題点は何ですか?
ヤングケアラーの大きな問題は、子どもであるにもかかわらず、大人のような責任や役割を背負わされていることです。そのため、学業に集中できなかったり、友人関係が築きづらくなったりと、心身ともに大きな負担がかかります。中でも思春期の子どもにとっては、自分の時間を持てないことが大きなストレスとなり、将来の進路や夢をあきらめてしまう場合もあります。
また、支援につながらず、孤立してしまうことで、精神的な不調や自己肯定感の低下にもつながる恐れがあります。
ヤングケアラーはどうやって支援を受けられますか?
まずは学校の先生やスクールカウンセラーに相談することが大切です。地域の子ども家庭支援センターや福祉の窓口、NPO団体などでも、ヤングケアラーに対する支援を行っているところがあります。
また、自治体によっては相談窓口や専用の支援制度を設けている場合もあるため、お住まいの地域の情報を確認してみてください。日本財団の「相談して変わること・相談先など」のページでも、具体的な相談先が紹介されています。
一人で抱え込まず、まずは誰かに話すことが支援につながる第一歩です。
ヤングケアラーに気づいたとき、大人ができることは?
ヤングケアラーに気づいたとき、まず大人ができることは「その子の話を聞く」ことです。「助けが必要だよね」「いつも頑張ってるね」と声をかけるだけでも、その子にとっては大きな救いになります。その上で、学校や地域の福祉機関、相談窓口などに連絡し、支援につなげていくことが大切です。
また、子どもに必要以上の責任を背負わせないよう、家庭や周囲の大人ができる範囲で分担し合うことも重要です。小さな気づきが、その子の将来を守る第一歩につながります。
まとめ
日本ではヤングケアラーの支援体制は十分とは言えず、実際に学生のヤングケアラーは、勉学や就職活動に時間を割くことができず、様々なことを断念せざるを得ない状況にあります。そのため、日本は法整備や社会全体での理解促進、学校や福祉機関との連携強化など、様々な課題を解決しなければなりません。
世界に目を向けると、イギリスやオーストラリア、ドイツなどの国々では、ヤングケアラーの権利を法律で保障し、当事者の声を反映した支援体制が整備されています。日本でも、これらの好事例を参考に、ヤングケアラーの子どもたちを支える仕組みづくりが必要です。
ヤングケアラーの問題解決のために、私たち一人一人ができることは、ヤングケアラーの存在を知り、理解を深めること、そして身近なヤングケアラーのサインを見逃さないことです。社会全体で理解と支援を広げていくことで、ヤングケアラーの子どもたちが、自分らしく生きられる社会を実現することができるでしょう。
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