ヤングケアラーの現状と支援体制について

ヤングケアラーは、家族のケアを担う18歳未満の子どもたちを指します。若くして重責を負うことで、家族を支えるという責任感や達成感を得られる一方、学業や進学、就職、健康、友人関係など、子ども本来の生活や成長に深刻な影響を及ぼすというデメリットがあります。ヤングケアラーになる主な原因は、親の病気・ケガ、ひとり親家庭、祖父母の介護などですが、周囲の理解不足から孤立しがちです。近年、行政や教育機関、民間団体が連携してヤングケアラー支援に取り組み始めていますが、まだ十分な支援とは言えない状況にあります。ヤングケアラーの現状、課題点などについて本文で詳しく見ていきましょう。

ヤングケアラーとは?

病気や障害、 アルコール・ 薬物依存や精神的問題などを抱えている家族の世話をするために、本来大人が担うような家事や家族の介護を日常的に行っている18歳未満の子どもや若者のこと。

なぜヤングケアラーになってしまうのか?

ヤングケアラーになってしまう原因は様々ですが、代表的なものを3つ紹介します。

1.親の身体的な病気やケガの場合

親の病気やケガによるものは、子供がヤングケアラーとなる大きな要因の一つです。脳卒中や心筋梗塞などの予測できない突発的な疾患により、親が寝たきりや要介護状態になる場合や、事故により体に麻痺等の後遺症が残る場合、親ががんを発症し、抗がん剤治療等の副作用が影響する場合など、長い期間日常生活を一人で過ごすことが困難になると,生活面で全般的なサポートが必要になります。もちろん、長期的な治療や介護を必要とする状況になった場合、病院などで世話をしてもらうことも可能ですが、入院費や医療費の負担が大きいことや患者が普段の生活リズムで生活ができないため、精神面でのストレスがかかることを考えると自宅での家族のサポートが重要になります。

2.ひとり親家庭等、家庭の事情による場合

お金に余裕がなく、親が長時間労働を余儀なくされる家庭では、子どもをヤングケアラーに追い込んでしまうことになります。毎日のように働き続ける親の姿を見て、子どもは「自分も家族のために何かしなければならない」という感情を抱くようになります。親が不在のとき、幼い兄弟の面倒を見たり、炊事や洗濯などの家事を手伝ったりするうちに、子どもが家庭を支える一員になっているという状況は珍しくはありません。また、共働きの家庭であっても、生活が苦しいというケースもあります。そのような場合も同様に、子ども自身がアルバイトをして稼がざるを得ない状況となってしまうのです。本来なら勉強や遊びに打ち込む、子供にとっての大切な時期に、家計を支えるために必死に働かなくてはならないという状況で日々を送ることになるため、子どもの心身に大きな負担やストレスがかかってしまいます。このような事態を減らすためにも、親の働き方を見直し、ワークライフバランスを実現できる社会を目指すことが重要です。そして、ひとり親家庭など、経済的に厳しい状況である家庭を支えていく必要があります。

3.家族の介護(祖父母)が長期化した場合

近年の日本の高齢化社会において、老老介護の問題が深刻になっています。祖父母の介護をしてきた親も年を取って高齢となり、介護を日常的に行うことが体力的に困難になり、次第に子どもにその役割を担ってもらうケースが増えてきています。仕事と介護を両立させながら日々を生活することを考えると、子供に頼ってしまう親の気持ちも否定はできません。

このような理由で、ヤングケアラーになってしまうケースが多いです。上記で説明したような状況が長く続けば、子どもの健康にも影響してしまう恐れがあります。また、進学や就職などのこれからの人生にかかわる時期でもあるため、将来への影響も懸念されます。

日本のヤングケアラーの現状

日本では、ヤングケアラーの存在が徐々に明らかになりつつありますが、まだ十分な理解が得られていないのが現状です。日本のヤングケアラーの実態はどのようになっているのか、内閣府の調査や文部科学省の調査による結果を参照しながら見ていきましょう。

ヤングケアラーの認知度

日本では近年、ヤングケアラーという言葉が徐々に浸透してきています。2022年に実施された内閣府の調査では、ヤングケアラーの認知度は約50%という結果が出ました。しかし、まだ十分な認知度とは言えず、多くの人がヤングケアラーの存在や抱える問題について理解していない現状があります。マスメディアでの報道や、学校教育での取り組みなどを通じて、さらなる認知度向上が求められています。

小学生によるヤングケアラーの現状

文部科学省により、全国の小学6年生を対象としたヤングケアラーに関する調査が実施されました。この調査は、全国の小学校350校から無作為に選ばれた約24,500人の小学6年生を対象としており、9,759件の回答が寄せられました。調査の結果、小学生の6.5%が「家族の世話をしている」と回答したことが明らかになりました。世話を必要としている家族の内訳は、「兄弟」が71.0%で最も多く、次に「母親」が19.8%と二番目に多いという結果でした。特筆すべき問題点は、世話を必要としている人が「父母」であると回答した児童の33.3%が、その状態について「わからない」と答えていたことです。このように回答した子どもたちは、理由を理解せずに現状を受け入れ、親の世話をすることが当然だと感じているという実態が浮き彫りになりました。 さらに、家族の世話を担う子どもたちのうち、就学前から世話を始めた人が17.3%、小学校低学年の時期から世話をしている人が30.9%にも達することが判明しました。子供が担うには負担が大きく、不適切な内容のケアであり、長期間にわたって年齢不相応の責任を負わされていることが明らかになったのです。このような状況は、子どもたちの健康状態や学校生活にも深刻な影響を与えています。家族の世話をしている児童は、そうでない児童と比較して、健康状態が「よくない・あまりよくない」、遅刻や早退を「たまにする、よくする」と回答する割合が約2倍になっています。学校生活においても、「授業中に寝てしまうことが多い」「宿題ができていないことが多い」「持ち物の忘れ物が多い」「提出物を出すのが遅れることが多い」といった項目で、世話をしている児童の該当割合が一様に2倍前後に達することが確認されました。 加えて、世話に費やす時間が長くなればなるほど、学校生活等に影響が出てしまい、本人の負担も重くなってしまいます。世話に関する相談先として、家族が78.9%で最多であり、学校の先生や養護教諭、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーへの相談割合は低い水準にとどまっています。家族へ相談するというのが78.9%という結果の見方を変えてみると、約5人に1人は家族以外の人に相談をしているということを意味します。この点から、学校の先生やスクールカウンセラーは、低い水準ではあるものの、ヤングケアラーの子どもたちの精神面でのサポートをする立場として欠かせない存在であると言えるでしょう。

大学生によるヤングケアラーの現状

また、小学生だけでなく、文部科学省が全国の大学3年生を対象に実施した調査によりヤングケアラー問題が大学生にも深刻な影響を及ぼしていることが明らかになりました。調査は、全国の大学396校から無作為に選ばれた約30万人の学生を対象に行われ、9,679件の回答が寄せられました。その結果、現在家族の世話をしている学生が6.2%、過去に世話をしていた学生が4.0%に上り、合わせて1割の学生がヤングケアラーの経験を有することが判明したのです。

家族の世話に携わる学生は、小学生の調査結果と同じく、そうでない学生と比較して健康状態が良くなく、欠席や遅刻・早退が多い傾向が見られます。さらに、授業への出席や予習復習、課題への取り組み、部活・サークル活動、アルバイト・仕事、趣味・娯楽・交友などに十分な時間を割くことができていないことが明らかになりました。彼らが抱える悩みとしては、学費などの経済的問題や家庭の経済状況、家庭内の人間関係、病気や障がいのある家族のことなどが主なものとして挙げられています。現在または過去に世話をしている家族がいる学生の6割が、世話が原因で何かを諦めたことがあると回答しているのです。特に、大学入学以前から世話を開始していた学生の50%以上が、進学の際に苦労や影響があったと答えています。学費等の経済的制約や不安、受験勉強の時間不足、通学面での制約などが主な理由として挙げられました。自由な時間を確保できないことや何かを諦めざるを得ないこと、進学先の学校の制約など、様々な分野で選択肢が狭められてしまうといった問題がこの調査によって明らかになりました。 また、家族の世話をしている学生の約50%が就職に関して不安を抱えており、約40%が精神的な苦痛を感じていることも判明しました。家族の世話のことを考えながら学生生活を送るとなれば、やはりこれからの人生に直結する就職活動や、生きていく上での精神的な不安は多くの方が抱えていることがわかります。彼らが求める支援としては、進路や就職の相談、学費への支援や奨学金等、自由に使える時間の確保などが上位に挙げられています。大学生のヤングケアラーは中高生と比べて、成長しているがゆえに母や祖母の世話を行っている割合が高く、ひとり親家庭で自分一人で世話をしている割合も高い傾向にあります。世話の頻度や時間も長くなっているのが特徴です。

ヤングケアラーであることが原因で生じる問題

ヤングケアラーの子どもたちには、家族の介護や世話を担うことで様々な問題があります。学校生活や就職、自身の健康、家族や友人との関係性など、多くの分野で困難を抱えているのです。この章では、ヤングケアラーであることが原因で生じる学業や就職面への影響、心身の健康面でのリスク、家族や友人とのコミュニケーションの難しさなど、直面する課題について見ていきましょう。

学校や就職における問題

先ほどの「ヤングケアラーの現状」でも述べたように、家族の介護や世話を日常的に行っているヤングケアラーの子どもたちが、学校生活や就職において様々な問題に直面しています。ヤングケアラーの子どもたちは、家族の世話で学校を欠席したり、授業に集中できなかったりと、学業に深刻な影響を受けています。宿題や課題に取り組む時間も十分に確保できず、成績が下がり、留年や中退のリスクが高まっているのです。

進学についても、受験勉強に割くことができる時間が限られ、志望校を諦めてしまうケースも少なくありません。世話との両立が難しく、経済的な理由から進学そのものを断念する子どももいます。就職活動においても同じく、ヤングケアラーであることが大きな問題となっています。世話と就職活動の両立が難しく、活動が制限されてしまうのです。面接や筆記試験に集中できず、内定獲得が困難になるケースも見られます。自分が就きたい職種があったとしても、介護との両立が難しい職種や勤務形態の場合は断念せざるを得ないという現実もあります。また、仮に仕事を始めたとしても、家族の介護による突発的な休みや早退が多くなり職場での評価が下がってしまうことも考えられます。ヤングケアラーが原因でキャリア形成が阻害され、将来的な収入や生活の不安定化につながる恐れもあるのです。

加えて、ヤングケアラーの子どもたちは社会的に孤立しがちです。家族の介護が中心になるため、学生であれば部活動やサークル活動に参加できなかったり、放課後に友人と遊んだりすることができず学校生活にもなじめません。社会人の場合も同様に、職場でも同僚との交流が持てず、孤立感を深めてしまうのです。

ヤングケアラー自身の健康・感情における問題

家族の介護や世話を日常的に行っている子どもたちは、心身の健康面で問題を抱えています。

ヤングケアラーの子どもたちは10〜20歳が多く、年齢不相応の重い責任とストレスを背負っています。家族の世話に追われ、十分な睡眠や休養が取れず、慢性的な疲労に悩まされているのです。1日中家族の世話のことが頭から離れず、心の休まる時がありません。自分の時間を犠牲にして世話を行うことへの苛立ちや、家族への複雑な感情を抱えることも少なくありません。責任感や義務感、怒りとストレスなど様々な感情が入り混じり、精神の安定を保つことが難しくなっているのです。

実際、ヤングケアラーの子どもたちはうつ病や不安障害などの心の病を発症する危険性が高いことが指摘されています。「世話を自分がしなければいけないんだ」という家族を思う気持ちと、「人生は一度きりだから、自分のやりたいことをもっとしたい」という自分の人生を歩みたいという気持ちの間で揺れ動き、精神状態が不安定になっていきます。

身体的な健康面でも問題は深刻で、日々の介護による腰痛や肩こりなどの慢性的な痛み、夜遅くまで介護が続き、寝る時間が遅くなってしまうこと、食事による栄養の偏り、運動不足など健やかな成長に必要な要素が阻害されています。

将来的にも、介護の長期化によって自身の健康を損ねるリスクは高く、社会的、経済的な不利益を受ける可能性は非常に高いです。

家族や友人とのコミュニケーション・関係性における問題

ヤングケアラーの子どもたちは、家族の中で特別な役割を担っています。親の代わりに家事や介護を行い、時には家計を支えるために働くこともあります。しかし、そうした役割の重さゆえに、家族内での立場は不安定なものになってしまいます。

親は、子どもに頼らなければいけないという状況に負い目を感じ、「ストレスを感じているのではないだろうか」「自分のせいで日々の生活が苦しくなっているのではないか」という思いが強くなり、子どもとの関係性に臆病になってしまうことがあります。一方で、子どもは親に対する愛情と、介護の重圧からくるストレスの間で揺れ動きます。ヤングケアラーの子どもたちは思春期を迎えた子どももいるため、思春期特有の親への反発心と家族を支えたいという気持ちが混ざり、感情の整理がつかなくなってしまうのです。

親だけでなく、兄弟との関係も複雑です。ヤングケアラーの子どもは兄弟がいる場合、兄弟の世話もしなければいけません。親の世話の方に時間をとられてしまうと、兄弟の世話の方がおろそかになってしまうため、兄弟からすれば、「あまり一緒にいてくれない」「全然かまってくれない」というように思われ、悪い印象を持たれるかもしれません。

友人関係でも、ヤングケアラーであることが壁になってしまうことがあります。家庭の事情を話せず、友人と心を通わせることが難しくなるのです。放課後や休日に友人と過ごす時間も確保できず、孤立感を深めてしまう子どももいます。

家族や友人との関係性の問題は、ヤングケアラーの子どもたちの心に大きな傷を残します。介護をする日々の生活だけでも、ストレスなどで精神が不安定になってしまうのにもかかわらず身近な人との関係まで悪化すると、疎外感に苛まれてしまいます。

日本のヤングケアラーに対する支援状況

日本でもヤングケアラーに対する支援の取り組みが少しずつ広がりを見せています。学校や教育現場、自治体や福祉機関など、様々な施設や組織が連携し、ヤングケアラーの早期発見と支援体制の強化に努めています。

学校や教育現場でのヤングケアラー支援の取り組み

文部科学省は2021年に、全国の小中高校にヤングケアラーの実態調査を行いました。その結果を受けて、教職員向けの研修会の開催や、スクールソーシャルワーカーの配置拡大など、学校現場でのヤングケアラー支援体制の強化を進めています。各地の学校では、ヤングケアラーの子どもたちが抱える悩みに寄り添い、適切な支援につなげる取り組みが始まっています。

例えば、東京都では「ヤングケアラー支援員」を各学校に配置し、当事者の生徒の相談に乗ったり、教職員への助言を行ったりしています。大阪府では、「ヤングケアラー専門家チーム」を結成し、スクールソーシャルワーカーや心理専門家が連携して、ヤングケアラーの子どもたちをサポートしています。

また、学校だけでなく、地域の福祉機関とも連携を強化し、ヤングケアラーの家庭環境の改善に取り組む自治体も増えてきました。福岡県では、「ヤングケアラー支援ネットワーク」を立ち上げ、学校、行政、NPO等が情報共有や協働支援を行っています。

教育現場の理解と支援は、ヤングケアラーの早期発見と問題解決に不可欠です。今後も、全国の学校で、ヤングケアラーの子どもたちが安心して学び、成長できる環境づくりが進められることが期待されます。

ヤングケアラーへの支援に対する今後の課題

日本では、ヤングケアラーの子どもたちを支援する取り組みが徐々に広がりを見せていますが、支援体制の整備や社会全体の意識向上など、まだ多くの課題が残されています。ヤングケアラー支援をさらに充実させていくために必要な取り組みについて、福祉制度の見直しなど、支援体制の整備に関する内容を紹介します。

支援制度の整備と法整備の必要性

日本において、ヤングケアラーで苦しんでいる方を支援するための法律や制度は、まだ十分に整備されておらず、現実的かつ即効性のある解決策が求められています。2022年に「ヤングケアラー支援法案」が国会に提出されましたが、継続審議となっています。ヤングケアラーの子どもたちが、適切な支援を受けられるようにするためには、法的な枠組みの確立が不可欠です。

また、福祉サービスの利用要件の緩和や、家族への経済的支援の拡充など、ヤングケアラーの家庭を支える制度の見直しも重要です。介護保険制度や障害者福祉制度など、既存の制度だけでは解決しない、新たな仕組みづくりが求められており、これらの解決策を組み合わせることでヤングケアラー支援の充実度が高くなるでしょう

社会全体でのヤングケアラー認知向上の重要性

ヤングケアラーへの支援を獲得するためには、社会全体の理解と協力が欠かせません。行政や福祉関係者だけでなく、企業や地域住民も含めて、ヤングケアラーの存在を知り、支援の輪を広げていくことが重要な解決策の一つです。メディアでの継続的な報道や、教育機関でのヤングケアラーにまつわる学習を導入すること、企業の社会貢献活動との連携など、様々な場面からのアプローチが必要です。ヤングケアラー当事者の声を社会に届け、支援の必要性への共感を広めていくことも大切です。一人一人が、ヤングケアラー問題を自分事として捉え、できる範囲で支援の一端を担う。そんな社会の意識改革が、ヤングケアラーの子どもたちの未来を変える解決策となるでしょう。

自治体や政府のヤングケアラーへの支援取り組み具体例・相談先

ヤングケアラーの子どもたちを支援するために、政府や自治体レベルでも様々な取り組みが行われています。調査に基づく支援策の検討、相談窓口の設置、民間団体との連携など、様々な視点からアプローチをしています。

厚生労働省による実態調査と支援策の検討

厚生労働省は2021年に、ヤングケアラーの人数や年齢、介護の内容などを明らかにするために調査を行いました。調査結果を踏まえて、厚生労働省は関係省庁と連携し、ヤングケアラー支援策の検討を進めています。

具体的には、福祉サービスの利用要件の緩和や、家族への経済的支援の拡大、相談体制の強化などが検討されています。また、ヤングケアラーの実態や支援方法に関する調査研究も進められています。厚生労働省のウェブサイトでは、ヤングケアラーに関する情報が随時更新されているため、支援策について詳しく知ることができます。

各自治体における相談窓口の設置状況

ヤングケアラーの子どもたちが、身近な場所で相談や支援を受けられるようにするために、各自治体での相談窓口の設置が進められています。2022年の時点で、全国の約60%の自治体がヤングケアラー専用の相談窓口を設置しています。

相談窓口では、福祉や教育、心理カウンセラーが対応し、ヤングケアラーの子どもたちの悩みに寄り添います。家庭環境の改善に向けた支援や、学校生活の支援、将来の進路に関する相談なども行われています。相談する相手がいる、いないでは大きな違いです。相談相手がいることで、子どもの精神的な苦しさが和らぐことが期待できます。相談窓口の連絡先は、各自治体のウェブサイトや広報誌で確認することができます。

民間団体との連携によるサポート体制構築

行政だけでなく、NPOやボランティア団体などの力を活用したヤングケアラー支援の取り組みも各地で広がっています。例えば、東京都では、「ヤングケアラーサポートネットワーク」が結成され、行政と民間団体が連携して、ヤングケアラーの子どもたちをサポートしています。

民間団体では、当事者同士の交流会の開催や、学習支援など、行政では対応されないような支援が行われています。また、ヤングケアラー当事者の声を社会に発信する活動も行っています。行政と民間団体が互いの強みを生かし、協力することで、ヤングケアラーの子どもたちを支える体制づくりが進んでいます。

学校や医療機関との情報共有と早期発見の取り組み

ヤングケアラーの子どもたちを早期に発見し、適切な支援につなげるためには、学校や医療機関との情報共有が欠かせません。文部科学省と厚生労働省は、2022年に「ヤングケアラー支援のための連携指針」を策定し、学校と福祉・医療機関の連携を促進しています。

各地の自治体でも、学校と福祉部門の情報連携システムの構築や、医療機関へのヤングケアラー啓発の取り組みが進められています。

世界のヤングケアラーの取り組み具体例

ヤングケアラー問題は、日本だけでなく世界各国で共通の課題となっています。先駆的な取り組みを行っている国々では、ヤングケアラーの子どもたちの権利を守り、支援するための様々な施策が実施されています。

イギリスにおけるヤングケアラー支援の歴史と現状

イギリスはヤングケアラーへの支援の先駆けとなった国の一つであり、1990年代からヤングケアラーの存在が広まり、支援の取り組みが始まりました。2014年には、ヤングケアラーの権利を保障する法律「ケアラー法」が制定され、自治体にヤングケアラーの支援の提供が義務付けられました。

現在、イギリスには、全国に約300のヤングケアラー支援団体があり、ヤングケアラーの子どもたちに寄り添った支援が行われています。学校では、子どもたちに配慮した教育プログラムが実施され、進学や就職の支援も充実しています。また、ヤングケアラー当事者の声を政策に反映させる取り組みも積極的に行われています。

オーストラリアの「ヤングケアラー認定制度」と支援内容

オーストラリアでは、2010年に「ヤングケアラー認定制度」が導入され、ヤングケアラーの子どもたちが公的に認定を受けられるようになりました。認定を受けたヤングケアラーは、医療費の助成、教育の支援など、様々な支援サービスを受けることができます。

また、オーストラリアには、ヤングケアラーの子どもたちが集まり、交流や学習ができる「ヤングケアラーセンター」という施設が各地にあります。その施設では、ヤングケアラー同士がお互いの経験を共有することで、成長できるような活動が行われています。学校と福祉機関の連携も強化され、ヤングケアラーの子どもたちを支える体制が整備されています。

ドイツの家族介護者支援法とヤングケアラーへの適用

ドイツでは、2008年に「家族介護者支援法」が制定され、家族の介護を担う人々への支援が強化されました。この法律では、ヤングケアラーも支援の対象に含まれています。ヤングケアラーの子どもたちは、介護に関する教育や相談、レスパイトケアという介護や育児など、誰かのケアを行っている人が一時的に休息できる支援など、様々な支援を受けることができます。

また、ドイツの学校では、ヤングケアラーの子どもたちに配慮した教育プログラムが実施されています。家庭の事情により通学が困難な場合には、オンライン学習の機会が提供されるなど、ヤングケアラーの学びを保障する取り組みが行われています。家族介護者支援法の適用により、ヤングケアラーの子どもたちの権利が守られ、成長と発達の機会が保障されています。

ヤングケアラーが抱える問題を解決するために私たちができること

ヤングケアラーの子どもたちは、家族の介護や世話に追われる日々の中で、様々な困難に直面していますが、その存在や実態はまだ十分に社会に知られていないのが現状です。

この章では、ヤングケアラーを支援するために私たちができることについて紹介します。

ヤングケアラーの存在を知り、理解を深める

ヤングケアラーの問題を解決するためには、私たち一人一人がヤングケアラーの存在を知り、理解を深めることが重要です。ヤングケアラーの子どもたちは、家族の介護や世話に追われているため、自分自身の学校生活や友人関係、進学や就職など、様々な面で困難を抱えています。しかし、ヤングケアラーの存在や実態は、まだ十分に社会に知られていません。私たちは、ニュースやウェブサイトなどを通じて、ヤングケアラーについて学ぶ機会を積極的に持つことが大切です。また、身近な子どもたちの変化に気づき、ヤングケアラーの可能性を意識することも大切です。一人でも多くの人がヤングケアラーの存在を知り、理解を深めることが、問題解決への第一歩となるでしょう。

身近なヤングケアラーのサインを見逃さない

ヤングケアラーの子どもたちは、自ら助けを求めることが難しく、周囲の大人たちもその存在に気づきにくいことがあります。私たちは、身近な子どもたちの変化や異変のサインを見逃さないようにすることが大切です。

例えば、学校への遅刻や欠席が増える、成績が急に下がる、友人関係が変化する、心身の不調を訴えるなど、ヤングケアラーの子どもたちには様々なサインがあります。このようなサインに気づいたら、子どもたちの話に耳を傾け、状況を理解しようと努めることが重要です。そして、一人で抱え込まずに、学校や福祉機関、カウンセラーなどに相談し、適切な支援につなげることが求められます。私たち一人一人が、身近なヤングケアラーのサインを見逃さず、支援を広げていくことが、問題解決への近道となるでしょう。ヤングケアラーの問題は、簡単には解決できません。しかし、社会全体で理解を深め、支え合う仕組みを作っていくことで、ヤングケアラーの子どもたちが、自分らしく生きられる社会を実現することができます。ヤングケアラーの子どもたちの未来を明るくするために、私たちにできることから始めていきましょう。

ヤングケアラーは、まだ世の中に馴染みのある言葉とは言えず、ましてや小学生がヤングケアラーという実態は大半の人が想像もできないようなことです。

まとめ

日本ではヤングケアラーの支援体制は十分とは言えず、実際に学生のヤングケアラーは、勉学や就職活動に時間を割くことができず、様々なことを断念せざるを得ない状況にあります。そのため、日本は法整備や社会全体での理解促進、学校や福祉機関との連携強化など、様々な課題を解決しなければなりません。

世界に目を向けると、イギリスやオーストラリア、ドイツなどの国々では、ヤングケアラーの権利を法律で保障し、当事者の声を反映した支援体制が整備されています。日本でも、これらの好事例を参考に、ヤングケアラーの子どもたちを支える仕組みづくりが必要です。

ヤングケアラーの問題解決のために、私たち一人一人ができることは、ヤングケアラーの存在を知り、理解を深めること、そして身近なヤングケアラーのサインを見逃さないことです。社会全体で理解と支援を広げていくことで、ヤングケアラーの子どもたちが、自分らしく生きられる社会を実現することができるでしょう。

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