民間シェルターは、住まいや支援を必要とする人々に一時的な避難場所と生活再建の足がかりを提供する大切な社会資源です。とくに東京では、路上生活や家庭内トラブル、DV被害など多様な事情を抱える人の受け皿として注目されています。メリットは、公的な施設と比べて柔軟な受け入れ体制が整っており、支援団体によっては自立支援や就労サポートなど手厚い支援が受けられる点です。一方、デメリットとしては費用が発生する場合が多く、運営主体によって受け入れ条件や滞在期間に差があることが挙げられます。また、生活保護との併用が可能かどうか、補助金の対象になるかどうかも施設によって異なるため、事前の確認が欠かせません。この記事では、そうした民間シェルターの基礎知識や制度、選び方を詳しく紹介します。
民間シェルターとは?
民間シェルターとは、行政とは異なる民間団体や個人が運営する避難施設であり、主に家庭内暴力(DV)や虐待、経済的困窮などによって安全な居場所を必要とする人に、一時的な住まいと支援を提供する場所です。行政の支援から漏れてしまうような状況の人々にも対応できる柔軟性があり、特に大都市圏を中心にそのニーズが年々高まっています。
民間シェルターと公的シェルターの違い

民間シェルターと公的シェルターの違いは、運営主体や対象者、支援内容の柔軟性にあります。公的シェルターは都道府県や市区町村が設置・運営し、主にDV被害者の緊急保護を目的としています。利用には警察や相談支援センターを通じた行政的な手続きが必要で、滞在期間は原則2週間と短期です。生活リズムは厳格に管理され、相部屋や共同生活が基本となります。
一方、民間シェルターはNPO法人や福祉団体、宗教団体、個人などが運営しており、行政の枠を超えて幅広い支援を提供しています。費用が発生する場合もありますが、利用者の自由度が高く、個室対応の施設や長期滞在可能なステップハウスもあります。生活困窮者だけでなく、障害者や高齢者、同伴の子どもなど、個別ニーズに合わせた柔軟な受け入れが可能です。
内閣府のマトリックス資料によれば、「生活困窮の有無」と「障害の有無」の2軸で必要な支援は異なり、公的・民間それぞれが役割を分担して機能しています。生活困窮かつ障害のある被害者には、公的シェルターに加えて障害福祉や高齢者福祉が連携します。一方で、生活困窮はないが障害を持つ人には、民間・公的の連携シェルターと福祉支援が組み合わされるなど、より多様な制度的対応が民間シェルターを通じて補完されています。
民間シェルターは公的支援の限界を補うのに大切な役割を担っており、今後も多様化するニーズに応じた支援が期待されています。
民間シェルターの運営元
民間シェルターは、国や自治体ではなく、主にNPO法人・一般社団法人・宗教団体・福祉団体・女性支援団体などが自主的に設置・運営しています。これらの団体は、DVや虐待、ホームレス状態など、さまざまな困難を抱える人々を支えるために、生活の場と支援を提供しています。
公的な設置義務がない分、民間シェルターは運営方針や支援内容が多様であることが特徴です。例えば、女性専用・親子専用・男性専用・LGBTQ+当事者向けなど、特定の背景を持つ人々に特化したシェルターも存在し、それぞれの事情に応じたサポートを展開しています。
運営資金は、寄付金・助成金・委託費・自己資金などが中心となります。施設によっては、利用者から滞在費(1泊あたり1,000~1,500円程度)を徴収することで運営を維持しているケースもあります。また、行政からの委託で一時保護を行うシェルターもあり、公的支援との連携が図られていることもあります。
スタッフは有資格の支援員や福祉関係者が多く、カウンセリング、生活指導、行政手続きの同行、就労支援など、単なる宿泊提供にとどまらない包括的な支援を提供するのが特徴です。
つまり、民間シェルターは**行政支援の空白を埋める「セーフティネットの最前線」として、大切な社会インフラの一部を担っていると言えます。
民間シェルターの歴史・必要とされる背景と現状

日本において民間シェルターが必要とされるようになった背景には、行政の支援が届かない「隙間」に取り残された人々の存在があります。家庭内暴力(DV)、経済的困窮、家族からの排除など、多様で複雑な事情を抱える人々に対し、緊急避難的な居場所と生活再建の支援を提供する場として、民間による自発的な支援活動が全国各地で始まりました。とくに東京などの都市部では、コロナ禍をきっかけにネットカフェ難民や若年無業者が急増し、「住まいの喪失」はもはや一部の人に限った問題ではなくなっています。こうした社会的背景のもと、行政の制度だけではまかないきれない部分を、民間シェルターが支え続けているのが現状です。
民間シェルターの誕生と広がり
日本では民間シェルターの取り組みは、1990年代に急増したDV(ドメスティック・バイオレンス)被害者の支援から始まりました。当時は配偶者や家族からの暴力に対する公的な対応が乏しく、被害者が逃げ込む場所がないという深刻な課題が浮き彫りになっていました。こうした状況のなか、全国各地で有志の支援者や女性団体が自宅や教会、空き家を活用して被害者を保護し始めたのが民間シェルターの始まりです。2001年には「DV防止法」が施行され、国としても支援体制の整備が進みましたが、公的施設の数や予算には限界があり、民間の力が引き続き求められることとなりました。
さらに最近では、DV被害だけでなく、非正規雇用やコロナ禍で職を失った人々、高齢者、LGBTQなど、多様な困難を抱える人々が民間シェルターの対象になっています。都市部では行政機関に相談する前に、SNSや口コミでシェルターを探す若年層も増えており、情報の非対称性と支援のアクセス性に関する課題も指摘されています。
社会的背景とニーズの変化
近年、民間シェルターの必要性がますます高まっています。その背景には、孤立や貧困、住まいの不安定さなどの社会課題が複雑に絡み合っていることがあります。特に単身世帯の増加や非正規雇用の拡大、地域コミュニティの希薄化などの現象が進み、「住まいを確保すること」自体が困難な人が増えています。
国土交通省が実施した住宅・土地統計調査でも、若年層の持ち家率の低下傾向や、住まいの安定性に課題がある実態が浮き彫りとなっています。こうした状況では、住居を失うリスクは必ずしも特定の層に限られず、誰もが当事者になります。
特に都市部では、ネットカフェやファストフード店で夜を過ごす「ネットカフェ難民」と呼ばれる人々が存在し、彼らは統計上のホームレスとして扱われないため、行政支援の対象外となることもあります。こうした人々にとって、民間シェルターは一時的な避難先としてだけでなく、生活を立て直すための第一歩として大切な役割を果たします。
さらに近年では、家族関係の断絶や帰る場所のない若者、LGBTQ、外国人など、従来の制度の網からこぼれ落ちてしまう人々への支援の場としても、民間シェルターの役割が広がっているのが実情です。
参考:統計局ホームページ/平成30年住宅・土地統計調査 調査の結果
現状と課題
現在、日本全国には数百を超える民間シェルターが存在していますが、その多くはNPO法人や宗教法人、個人団体によって運営されており、財源や人材確保に大きな課題を抱えています。とくに地方ではシェルターの数自体が少なく、地域間で支援体制に大きな差があるのが実情です。2022年に内閣府男女共同参画局がまとめた「女性支援シェルターの実態調査」では、多くの施設が公的補助金に頼らず、寄付やボランティアに依存している現状が報告されました。
また、施設によっては滞在できる期間や条件が異なるため、利用希望者にとっては制度の分かりにくさが障壁となる場合もあります。特に生活保護との併用が可能かどうか、補助金の対象となるかどうかなどの制度周りの情報は、公式サイトや支援団体の説明を読んでも不明確なことが少なくありません。今後は、民間と行政の連携を強化し、運営の持続性と支援の公平性を高める取り組みが求められます。
民間シェルターの利用条件・費用
民間シェルターを利用するには、事前に知っておくべき条件や費用、滞在可能な期間についての理解が欠かせません。支援を必要とする人であれば誰でも入れるというわけではなく、一定の基準が設けられているケースもあります。また、運営団体ごとにルールや受け入れ方針が異なるため、希望する支援内容や状況に合った施設を選ぶことが大切です。ここでは、「利用条件」「費用」「期間」の3つの視点から解説します。
利用条件
民間シェルターを利用するには、いくつかの条件を満たす必要があります。主な目的は「一時的に住まいを失った人」や「家庭内暴力(DV)や虐待などからの避難が必要な人」を保護・支援することにあるため、対象者の優先順位が定められていることが多いです。
DV被害に遭っている女性や子ども、高齢者や障がい者、生活困窮者などが主な対象者とされるケースが一般的です。逆に、安定した収入がある人や犯罪歴がある人、薬物依存の症状が重い人などは、施設によっては利用が制限されることもあります。また、男性の受け入れに関しても、女性専用や母子専用の施設が多く、男性は限定的な施設に限られる傾向があります。
さらに、入居にあたっては面談や書類審査が行われることもあり、緊急性や支援の必要度によって受け入れが判断されることがあります。運営母体がNPO法人や宗教団体、福祉団体など多岐にわたるため、利用条件に違いがある点にも注意が必要です。
費用
民間シェルターを利用する際の費用は、無料の場合もあれば、一定の金額がかかるケースもあります。特に公的支援を受けていない完全な民間運営の施設では、運営資金を確保するために利用者に対して宿泊費や食費を求めることがあります。
たとえば、1泊あたり1,000円〜3,000円程度の費用がかかる施設もあれば、月額で30,000〜50,000円前後を設定しているところも存在します。ただし、生活保護を受給している人に対しては、施設側が行政と連携し、保護費から費用をまかなえるよう調整してくれる場合もあります。
また、地域によってはシェルター利用者向けの補助金制度が整備されており、自治体や福祉団体を通じて申請が可能な場合もあります。東京など大都市ではニーズが高いため、支援体制も比較的整っている一方、地方では選択肢が限られているのが現状です。
費用面での負担を抑えたい場合は、事前に「費用補助が受けられるか」「生活保護との併用が可能か」などを確認することが大切です。
期間
民間シェルターに滞在できる期間は、施設によって大きく異なります。基本的には「一時的な避難場所」としての役割が中心であり、数日〜数週間の短期利用を想定している施設が多い傾向にあります。
ただし、再就職や住居確保などの次のステップに向けた支援が必要な場合は、1か月〜数か月の中期滞在を認めているところもあります。中には、最長で半年〜1年の長期滞在が可能なケースもありますが、その場合は「生活再建支援プログラム」や「就労支援」の参加が条件となっていることがほとんどです。
また、滞在期間の延長を希望する場合には、定期的な面談や生活状況の確認が必要となる場合もあります。施設の受け入れ枠には限りがあるため、他の支援を必要とする人に順番を譲るために、滞在期間が厳密に管理されているのが実情です。
そのため、シェルターはあくまでも「緊急時の一時的な場所」と認識しつつ、次の生活ステップを意識した行動計画を立てることが求められます。
民間シェルターを利用するメリット
民間シェルターの最大の利点は、行政に比べて柔軟かつ即時的な支援が受けられる点です。生活困窮や家庭内暴力などの急を要する状況で、公的機関を通した申請や審査には時間がかかることが多く、支援までの空白期間が生じるリスクがあります。その点、民間シェルターはNPO法人や宗教団体、個人事業によって運営されており、申し込みから入居までが比較的スムーズであることが特徴です。たとえば福岡市の「D・Vもらい隊」では、電話一本で即日受け入れ可能な場合もあり、特に緊急性の高いDV被害者の避難先として効果的です。また、生活支援や就労サポート、子どもとの同居が可能な施設も存在し、公的支援だけでは手の届かないニーズを拾い上げています。柔軟性のある受け入れ体制と、民間ならではの支援の幅広さは、危機に直面する人にとって大きな安心材料となります。
民間シェルターを利用するデメリット
民間シェルターには公的基準がないため、施設ごとに支援内容や居住環境に差があります。食事提供の有無や相談支援の体制、職員の対応などが運営団体によって異なり、サービスの質にばらつきがあるのが実情です。また、財政的な基盤が不安定な施設も多く、長期的な運営が難しいケースもあります。人手不足や専門的支援の継続が難しい点も課題です。地域によってはシェルターの数自体が限られており、希望してもすぐに入所できないこともあります。こうした背景から、民間シェルターを利用する際は、事前に支援内容や環境をよく確認することが大切です。
参考:原構成員提出資料
民間シェルターに入居したあとにやるべき事項
民間シェルターに入居したからといって、安心して何もせずに過ごしているだけでは、自立にはつながりません。入居後は、次の生活に向けた準備を着実に進めることが大切です。
まず行うべきは、支援スタッフとの面談やカウンセリングを通じて、現状を整理し、今後の方向性を明確にすることです。民間シェルターでは、福祉制度の申請支援や就労サポート、住まい探しのサポートを行っているところもあります。自分一人で情報を集めるのではなく、運営団体の支援を積極的に活用する姿勢が大切です。
たとえば、配偶者暴力相談支援センターでは、一時保護の手続きや各種制度(生活保護や就労支援など)への橋渡しを行っています。また、民間シェルターをめぐる制度の在り方;を内閣府の検討会資料でも「民間シェルターは支援の中継点として大切」と明記されています。これらの公的な仕組みをフル活用し、退所後の住まいや仕事の目星を早めにつけることで、自立への道筋が見えてきます。さらに、地域の居住支援法人やNPOと連携することで、退所後の住居確保支援を受けられる場合もあります。
このように、民間シェルターは一時的な避難所であると同時に、次の生活を築くための「中継点」です。入居中から積極的に公的支援や民間支援ネットワークを活用することが、自立への第一歩となります。
参考:「DV等の被害者のための民間シェルター等に対する支援の在り方に関する検討会」による報告書
民間シェルターに関するよくある質問
民間シェルターは、まだ十分に知られていない支援制度の一つです。特に費用面や利用条件に不安を持つ方が多く、以下ではよくある疑問についてわかりやすく解説します。
民間シェルターの利用に補助金はある?
一部の民間シェルターでは、利用者向けに補助金制度が活用できます。理由としては、自治体やNPOが生活困窮者の住まい支援として運営費を補助しているためです。たとえば東京都では、生活困窮者自立支援制度を通じて家賃相当額が支給されることがあります。ただし、すべての施設が補助金対象ではないため、事前に支援団体や市区町村に相談することが大切です。
民間シェルターは子どもと一緒の利用も可能?
施設によっては、子どもと一緒に入居できる民間シェルターも存在します。家庭内暴力や離婚などで親子が同時に避難を必要とするケースがあるためです。具体的には、母子専用シェルターや個室完備の施設が、生活環境を整えたうえで親子の生活を支援しています。入居可否は施設の方針によるため、事前に受け入れ体制を確認しましょう。
男性でも利用できる?
男性も利用できる民間シェルターはあります。背景には、DVや家庭内トラブルによって住居を失った男性の支援ニーズが高まっている現状があります。たとえば、東京や大阪などの都市部では、男性単身者向けに自立支援付きの民間シェルターが開設されています。女性専用の施設が多い中で、男性向けの選択肢も徐々に広がってきています。
民間シェルターは生活保護は対象外?
民間シェルターの利用中でも、生活保護を受給できる場合があります。なぜなら、生活保護は住居の有無に関わらず支給要件を満たせば対象となる制度だからです。たとえば、生活困窮者がシェルターに滞在中に福祉事務所と連携して申請し、住居確保給付金や医療扶助を受けている事例もあります。制度の詳細は自治体の窓口で確認が必要です。
東京で利用できる民間シェルターはある?
東京都内には複数の民間シェルターが存在し、緊急避難や生活再建を支援しています。都市部では住居喪失やDV被害などのリスクが高く、シェルターのニーズも集中しています。例として、NPO法人が運営する宿泊施設付き支援住宅や、自立支援プログラムを備えた団体運営型シェルターなどがあります。定員や受け入れ対象が異なるため、複数の団体に問い合わせるのが安心です。
まとめ
民間シェルターは、さまざまな困難を抱える人が一時的に安心して過ごせる「命綱」となる存在です。
公的支援では受け入れが難しいケースにも柔軟に対応できる点が、民間シェルターの大きな強みです。運営団体の多くはNPOや宗教法人、民間事業者などで構成されており、女性や子ども、高齢者、さらには男性や性的少数者など、背景に応じた多様な受け入れ体制が整備されつつあります。利用には費用がかかることもありますが、生活保護との併用や補助金制度が利用できるケースもあります。特に東京のような都市部では需要が高く、利用条件や滞在期間も施設ごとに異なるため、事前の情報収集が大切です。
緊急時に頼れる場所があることは、心理的にも社会的にも大きな支えとなります。孤立せず、一歩を踏み出すための準備として、民間シェルターの存在を知り、選択肢に加えておくことは大きな意味を持つでしょう。