非感染性疾患(NCDs)とは、ウイルスや細菌に感染することなく発症・進行する病気の総称であり、がん、心疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患(COPD)などが該当します。現在、世界の年間死亡者数の約7割が非感染性疾患(NCDs)に関連しており、日本でも高齢化の進行とともに深刻な問題となっています。
メリットとしては、予防可能な要素が多く、早期発見・生活習慣の改善によって健康寿命を延ばすことができる点です。一方で、デメリットは自覚症状が出にくく、知らず知らずのうちに重症化するリスクが高いこと。また、喫煙・食生活・運動不足など、個人の行動変容が求められるため対策の難易度が高い点も課題です。本記事では、非感染性疾患(NCDs)の基本情報や種類、原因、死亡率、WHOの取り組みなどを総合的に解説していきます。
非感染性疾患(NCDs)とは?
非感染性疾患(NCDs/読み方:エヌ・シー・ディーズ)とは、ウイルスや細菌に感染することなく発症・進行する慢性的な病気の総称です。英語の “Non-Communicable Diseases” を略した言葉で、主にがん・心疾患・糖尿病・慢性呼吸器疾患(COPDなど)などが該当します。
これらの疾患は他人にうつることはありませんが、長期的に健康に影響を与える重大な病気であり、世界の死亡原因の約70%を占めているといわれています。
NCDsの特徴は、「生活習慣」や「社会的環境」、「遺伝的要因」などが複雑に関係して発症することです。喫煙・過剰な飲酒・運動不足・高カロリー食などがリスク要因とされており、早期に適切な対策することで予防や進行の抑制が可能です。
その重要性から、国連や世界保健機関(WHO)もNCDsを最重要課題の一つと位置付けています。とりわけ国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち、目標3「すべての人に健康と福祉を」では、NCDsによる早期死亡を2030年までに3分の1削減することが明記されています。
これは、NCDsが医療負担の増加をもたらすだけでなく、労働力の喪失や社会保障コストの拡大など、経済的にも深刻な影響を及ぼすためです。特に低・中所得国では医療インフラの整備が不十分なままNCDsが拡大し、深刻な健康格差を生んでいます。
つまり、NCDs対策は単なる健康問題にとどまらず、経済・福祉・教育などSDGs全体にかかわる根本的なテーマです。個人の意識改革とともに、政策レベルでの取り組みが今まさに求められています。
参考:SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは? 17の目標ごとの説明、事実と数字 | 国連広報センター
非感染性疾患(NCDs)と生活習慣病との違いとは?
日本では、非感染性疾患(NCDs)と「生活習慣病」という言葉が同義のように使われることがありますが、実際にはこの2つは完全に一致しません。
生活習慣病とは、主に食事、運動、喫煙、飲酒など日々の生活習慣の乱れが原因となる病気を指し、糖尿病・高血圧・脂質異常症などがその代表です。
一方、NCDsは生活習慣に限らず、遺伝的素因、環境要因、社会的ストレス、職業的影響なども含めた広範な疾患概念です。たとえば、先天性の心疾患や職業病由来の肺疾患もNCDsに含まれますが、生活習慣病には含まれません。
このように、生活習慣病はNCDsの一部であるが、NCDsは生活習慣病よりも範囲が広いというのが正しい理解です。
WHOも生活習慣病(Lifestyle-related diseases)とは異なる用語としてNCDsを定義しており、世界的な保健政策では、より包括的かつ多角的なアプローチが必要とされています。
日本では「生活習慣を改善すればNCDsは防げる」などの単純なメッセージが広がりがちですが、社会的・制度的な要因も含めて対策を行う必要があることが、国際的な共通認識となっています。
非感染性疾患(NCDs)の種類一覧

非感染性疾患(NCDs)には、感染を原因とせず慢性的に進行する病気が含まれます。特に世界保健機関(WHO)が重点的に対策を求めている「4大NCDs」は、がん・心血管疾患・慢性呼吸器疾患・糖尿病です。これらは、いずれも死亡や障害につながる可能性が高く、長期的な医療介入や生活習慣の改善が必要とされます。
たとえばがんは、日本人の死因の第1位を占める重大な非感染性疾患であり、喫煙や食生活、運動不足などの生活習慣と強く関連しています。心血管疾患には、脳卒中や心筋梗塞などが含まれ、突然死のリスクもあることから、日頃の血圧管理や食塩摂取量の調整が欠かせません。
また、慢性呼吸器疾患の代表格であるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は、長年の喫煙が主な原因で、発症すると呼吸困難が慢性化します。高齢者に多く、進行を完全に止める治療法は確立されていません。糖尿病は、インスリンの作用不足により血糖値が上昇する病気で、長期にわたると腎症・網膜症・神経障害などの合併症を引き起こします。
さらに、上記の主要疾患以外にも、高血圧、脂質異常症、認知症、骨粗鬆症、うつ病なども非感染性疾患に含まれます。これらの病気はそれぞれ異なる特徴を持ちますが、多くが生活習慣の積み重ねや高齢化に伴って発症リスクが上昇する点で共通しています。
NCDsの対策では、「病名ごとの対処」だけでなく、「複数の疾患を同時に予防・管理する包括的アプローチ」が大切です。たとえば、食事改善や禁煙は、がん・心疾患・糖尿病・COPDのすべてに効果があることがわかっています。病気の個別管理にとどまらず、予防医療や健康教育の強化が、今後の社会的課題への対応に求められる視点です。
非感染性疾患が発症する原因
非感染性疾患(NCDs)は、感染性疾患と異なり、細菌やウイルスによる直接的な感染を伴いません。その代わり、発症には**多様な要因が複雑に絡み合っており、特に「生活習慣」「環境因子」「社会的要因」**が深く関係しています。世界保健機関(WHO)も、NCDsの発症を防ぐには個人の努力だけでなく、社会構造や政策的支援の変革が必要であると強調しています。
まず、最も影響力が大きいのが生活習慣の乱れです。喫煙、過度の飲酒、塩分や脂肪分の多い食事、野菜・果物不足、慢性的な運動不足などの行動は、NCDsの代表例であるがん・糖尿病・心疾患・慢性呼吸器疾患の発症リスクを大幅に高めます。たとえば、タバコはがんやCOPD、心筋梗塞のリスクを高める主要因であり、世界全体で年間800万人以上の死因とされています。
加えて、環境的要因として大気汚染や水質の悪化も無視できません。PM2.5などの微小粒子状物質は肺や気道を刺激し、慢性気管支炎やCOPDの発症リスクを高めることが証明されています。途上国では屋内での薪・石炭の燃焼による空気汚染が問題視されており、環境と健康の結びつきがより顕著です。
さらに、近年注目されているのが**社会的要因(Social Determinants of Health)**です。教育レベルの低さ、貧困、雇用不安、ジェンダー格差、都市部への過密集中などの社会構造の歪みが、NCDsの罹患率に大きく影響しています。所得の低い層ほど不健康な食品への依存度が高く、医療へのアクセスも限られるため、予防も早期治療も難しくなります。
つまり、非感染性疾患の発症は単なる「個人の責任」ではなく、「社会全体の問題」として捉える必要があります。
参考:非感染性疾患 | グローバルヘルス | 日本製薬工業協会
世界と日本の非感染性疾患(NCDs)の現状
非感染性疾患(NCDs)は、今や世界中の健康課題の中心に位置づけられており、先進国・途上国を問わずその影響は拡大の一途をたどっています。特に近年は、食生活の欧米化や都市化の進行、運動不足、ストレスの増加などのライフスタイルの変化が、NCDsの増加を後押ししています。
死亡率の高さだけでなく、就労不能や医療費の増大、貧困との悪循環を招くなど、経済的・社会的影響も深刻です。本章ではまず、世界のNCDsの現状を見たうえで、日本特有の課題を詳しく掘り下げていきます。
世界の現状
現在、NCDsは全世界の年間死亡者の約74%(約4,100万人)に影響しているとされ、そのうちの約85%が「低・中所得国」に集中しています。これは予防医療体制の遅れや医療アクセスの不平等、都市化とともに食生活・運動量が急速に変化していることが要因です。
特に深刻なのが、若年層のNCDs増加です。早くから加工食品に頼った食生活、アルコール・たばこの早期使用、SNSやゲームの影響による運動不足などが要因となり、「成人病」だったNCDsが10代・20代でも診断されるケースが世界的に増えています。
また、NCDsは家計にも打撃を与えます。慢性化した疾患の治療には長期的な医療費がかかり、貧困をさらに助長する「健康の格差の再生産」が国際的な課題となっています。
日本の現状
一方、日本では高齢化の進展に伴い、NCDsの割合がより一層高くなっているのが特徴です。厚生労働省の統計によれば、日本人の死因の約8割は非感染性疾患であり、特にがん・心疾患・脳卒中・糖尿病などが上位を占めています。
たとえば、2023年の日本のがんによる死亡者数は約38万人、心疾患は約21万人、脳血管疾患は約10万人。これらはいずれもNCDsに分類され、いずれも生活習慣やストレス、加齢が大きく影響する疾患です。
また、日本ではメンタルヘルス系のNCDs(うつ病や不安障害など)の増加も深刻です。社会的孤立や過労、家庭内問題が背景にあり、若年層や働き盛り世代に多く見られます。
さらに近年では、子どもの肥満や糖尿病予備軍の増加も警鐘を鳴らされています。これは学校での栄養教育や家庭での食習慣指導だけでなく、国や自治体レベルの介入も必要な段階に来ていることを意味します。
非感染性疾患に対するWHOの対策と国際的枠組み
非感染性疾患(NCDs)は、感染を伴わずに慢性化する病気であり、世界の死因の大部分を占める重大な公衆衛生上の課題です。この状況を受け、世界保健機関(WHO)は各国政府や関連機関と連携し、国際的な対策と枠組みを策定・推進しています。とりわけ、限られた財源の中でも高い効果を期待できる施策として、WHOが策定した「NCDs対策のためのベストバイ(Best Buys)政策パッケージ」は、世界各国の保健政策の中核的な手段として導入が進んでいます。
このベストバイ政策は、非感染性疾患の主要なリスク因子である喫煙、過度な飲酒、運動不足、栄養の偏りなどに対し、費用対効果が高く、国の制度に関係なく実施しやすい内容で構成されています。たとえば、たばこ製品への課税強化や広告規制、塩分・糖分摂取量の削減、食品の成分表示の義務化などが挙げられます。また、医療分野でも、がんや糖尿病などのNCDsに対する早期検診やスクリーニングの拡充が推奨されており、これにより重症化リスクを抑え、医療費の削減にもつながるとされています。
WHOはこうした取り組みに加え、国際社会全体で共通の行動目標を掲げる枠組みとして、持続可能な開発目標(SDGs)とNCDs対策を密接に結びつけています。なかでもSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」には、非感染性疾患による早期死亡を2030年までに3分の1に削減するという明確なターゲットが定められています。これは医療政策にとどまらず、教育、都市開発、環境、経済格差の是正などの広範な社会制度の変革を含むものであり、個人の行動変容とともに、政府や企業、地域社会を巻き込んだ包括的な対応が求められています。
さらに、NCDs対策は国連総会でも定期的に議題として取り上げられ、各国の進捗状況を共有し、政策的な連携を図る国際的な監視体制が構築されています。こうした動きの中で、WHOは技術支援やガイドラインの提供を通じて、各国が自国の社会構造や医療制度に合わせた対策を立案・実行できるよう支援しています。
特に中低所得国では、非感染性疾患の拡大が経済発展の障壁ともなっており、予防と教育を重視した政策導入が急務とされています。また、気候変動や都市化、食品のグローバル流通など、現代的な生活環境そのものがNCDsのリスクを高める構造を持つことから、環境政策との連携も欠かせません。
このように、非感染性疾患への対応は、単なる医療の枠を超えて、社会全体の持続可能性に直結する国際課題です。WHOの掲げる包括的なアプローチは、すべての人々が健康に生きる権利を保障するための土台であり、今後の世界的な連携の中でさらに深化していくことが期待されます。
参考:非感染性疾患の予防と制御のためのベストバイとその他の推奨される介入 (第 2 版) | 公益社団法人 日本WHO協会
参考:SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは? 17の目標ごとの説明、事実と数字 | 国連広報センター
日本のNCDs対策|厚労省・自治体・企業の取り組み
日本では、非感染性疾患(NCDs)の増加が高齢化と相まって深刻な社会課題となっており、国・自治体・企業が連携してその予防と対策に取り組んでいます。医療費の増大、労働力人口の減少、健康格差の拡大など、NCDsが引き起こす問題は多岐にわたるため、単なる医療対応にとどまらず、社会全体での包括的なアプローチが求められています。本章では、日本のNCDs対策の現状を、「厚生労働省」「自治体」「企業」の三層に分けて詳しく見ていきます。
厚生労働省の取り組み
厚生労働省は、NCDs対策で中核的な役割を担っており、健康日本21(第二次)をはじめとする国の健康政策を通じて、予防重視の体制づくりを進めています。この政策は、生活習慣病を中心としたNCDsの発症を未然に防ぐことを目的に掲げ、具体的には、禁煙の推進、食生活の改善、運動習慣の定着、健診・保健指導の充実などが重点施策に位置づけられています。
特に注目すべきは「スマート・ライフ・プロジェクト」の推進です。これは国民一人ひとりが健康的な生活を意識し行動することを促すもので、運動、食事、禁煙、健診の4分野を軸に、個人・地域・企業の参加を広く呼びかけています。さらに、がん対策推進基本計画や脳卒中・心筋梗塞対策などの疾患別戦略も策定されており、NCDsによる重症化や早期死亡の抑制に向けた多角的な取り組みが展開されています。
加えて、2023年からは「健康寿命の延伸」に焦点を当てた「デジタルヘルス推進施策」も始動しており、個人の健康データを活用した予防医療の実現や、地域の医療機関・保健所との情報共有の強化が進められています。
自治体による取り組み
各自治体でも、地域の実情に即したNCDs対策が進められています。たとえば、特定健診や特定保健指導の実施体制を強化し、地域住民の生活習慣病リスクを早期に把握・介入する仕組みが整えられつつあります。また、地域包括ケアの視点から、保健師・管理栄養士・運動指導員などによる多職種連携が図られており、行政と住民が協働で健康づくりを推進する環境づくりが進んでいます。
特に先進的な自治体では、健康アプリやLINE公式アカウントを活用して、市民の歩数や体重、食事記録を自動集計し、ポイント制度と連動させて行動変容を促す仕組みを構築しています。こうした取り組みは、従来の紙ベースの健診管理から脱却し、若年層の参加率向上に繋がります。
また、NCDsと密接に関連するメンタルヘルスやフレイル(虚弱)予防にも自治体は力を入れており、地域サロンや交流事業を通じた孤立防止や、介護予防の観点からの運動教室など、住民の健康を生活環境ごと支える取り組みが広がっています。
企業の取り組み
近年、企業によるNCDs対策も重要性を増しており、いわゆる「健康経営」の考え方が多くの企業に浸透し始めています。経済産業省と東京証券取引所が連携して選定する「健康経営銘柄」や、協会けんぽによる「健康宣言」制度などを通じて、従業員の健康管理を企業成長の戦略と位置づける動きが加速しています。
具体的には、定期健診の徹底に加え、職場の禁煙の推進、ヘルシーランチの提供、階段利用の奨励、ウォーキングイベントの実施、ストレスチェックやカウンセリング体制の整備など、さまざまな形でNCDsリスクの軽減を図っています。これにより、労働生産性の向上、医療費の削減、離職率の低下などの企業にとってのメリットも顕在化しており、社会的責任と経営戦略が一致する好循環を生んでいます。
また、製薬会社や食品メーカーなどは、単に商品提供にとどまらず、NCDsの啓発や予防教育への参画も強めており、企業の枠を超えた社会的連携も広がっています。とりわけ、企業が自治体や医療機関と連携し、地域住民を対象にした健康セミナーや出張検診などを展開する例も増えており、産官民が一体となったNCDs対策が国内各地で進行しています。
NCDsと私たちの未来
非感染性疾患(NCDs)は、もはや個人だけの健康問題ではなく、社会全体の持続可能性を脅かす地球規模の課題です。医療費の増大、労働力の喪失、健康格差の拡大など、NCDsが与える影響は生活のあらゆる領域に及んでおり、私たち一人ひとりの行動が未来を左右するといっても過言ではありません。だからこそ、NCDsの予防と管理には、個人レベルの意識改革と社会全体の構造的支援の両輪が不可欠です。
私たちは、日々の選択が健康にも社会にも影響する時代を生きています。ここでは、NCDsと持続可能な社会のつながりを理解するために、まず国連が掲げるSDGsとの関係を確認し、続いて誰でも今日から始められる具体的な予防行動を紹介します。
SDGsとの関係
NCDsの克服は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成でも大切なテーマです。特に健康や国際連携に関する以下の2つの目標が密接に関わっています。
SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」
この目標の中には、2030年までに非感染性疾患による早期死亡率を3分の1に削減するというターゲット3.4が明確に定められています。がん、糖尿病、心血管疾患などのNCDsは、世界の死亡者の約74%を占めるにもかかわらず、多くは予防可能であることから、この目標は予防医療の拡充、健康教育、医療アクセスの平等化を通じて達成すべき大切な課題となっています。
SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」
NCDs対策は、政府だけでなく、企業、市民、教育機関、医療機関など、多様な主体が連携することで初めて実効性を持ちます。国際的な枠組みや民間セクターとの協働による知見やリソースの共有は、予防活動や啓発キャンペーンを効果的に推進するポイントとなり、SDGs目標17の「多様なパートナーシップを通じた実行力の強化」という理念に深く通じています。
日常で取り入れるNCDs予防行動

がんをはじめとした非感染性疾患(NCDs)の発症リスクを下げるために効果的な「5つの健康習慣」を視覚的に示したものです。それぞれの項目は、科学的根拠に基づいた予防行動であり、日々の生活に取り入れることで確かな効果が期待できます。
中央に向かって放射状に配置されている5つの習慣は、①禁煙する、②食生活を見直す、③適正体重を維持する、④身体を動かす、⑤節酒する、という5つの柱から構成されています。
「禁煙する」は、がんやCOPD、心筋梗塞などのNCDsのリスクを大幅に下げる最も効果的な方法であり、自分自身だけでなく受動喫煙から周囲の人の健康を守る意味でも大切です。
「食生活を見直す」は、塩分・糖分・脂肪の過剰摂取を避け、野菜や果物、魚介類を意識的に摂ることで、生活習慣病の予防に繋がります。
「適正体重を維持する」ことは、肥満に起因する糖尿病や高血圧、脂質異常症の予防に直結し、運動と食事の両面での自己管理がポイントとなります。
「身体を動かす」は、運動不足を解消し、血行促進や筋力維持に役立ちます。ウォーキングや軽いストレッチでも十分な効果があります。
「節酒する」は、アルコール由来の肝疾患や消化器系のがん、心臓病のリスクを下げる行動です。完全な禁酒が難しくても、量や頻度を意識することが予防につながります。
この図は、NCDsの予防は特別なことではなく、日々の生活習慣の選択から始まるというメッセージを伝えています。誰もが今日から始められる小さな行動が、未来の健康と社会全体の持続可能性につながっていきます。
参考:がん予防|厚生労働省
非感染性疾患(NCDs)に関するよくある質問
非感染性疾患(NCDs)は、私たちの生活に密接に関わる健康課題でありながら、誤解や不安が多い分野でもあります。ここでは、一般の方々から寄せられることの多い代表的な質問を5つ取り上げ、わかりやすく解説します。
NCDsは生活習慣病と同じ意味ですか?
非感染性疾患(NCDs)と生活習慣病は密接に関係していますが、まったく同じ意味ではありません。生活習慣病とは、主に食生活の乱れ・運動不足・喫煙・飲酒などの習慣によって引き起こされる病気を指し、高血圧・糖尿病・脂質異常症などが代表例です。一方でNCDsは、それら生活習慣病を含む、感染を介さず慢性的に進行する疾患全体を指します。つまり、生活習慣病はNCDsの一部であり、NCDsにはがんや慢性呼吸器疾患、メンタルヘルス疾患なども含まれます。
NCDsは遺伝で発症するのでしょうか?
NCDsには、遺伝的要因が影響するケースもありますが、ほとんどの疾患は生活習慣や環境要因によって発症リスクが左右されます。たとえば、家族に糖尿病の既往がある場合、一定の遺伝的リスクは存在しますが、適切な食事・運動習慣を維持することで、発症を防ぐ、あるいは遅らせることが可能です。NCDsは「予防可能な病気」ともいわれており、自分の体質を知ったうえでの行動選択が、健康維持に大きな影響を与えます。
若い世代でもNCDsになる可能性はありますか?
はい、若年層でもNCDsのリスクは確実に存在しています。特に現代社会では、運動不足や高カロリー食の常態化、睡眠の質の低下、SNSによるストレスの増加などが背景にあり、20〜30代で糖尿病や高血圧、うつ病などのNCDsを発症する人も増えています。また、喫煙や過度な飲酒などの習慣を若いうちから続けていると、将来的ながんや心血管疾患のリスクが高まるとされています。若い世代こそ、将来の健康のために予防行動を意識することが大切です。
日本ではNCDs対策が進んでいるのですか?
日本では、厚生労働省による「健康日本21(第二次)」や「スマート・ライフ・プロジェクト」などを中心に、NCDsの予防と重症化防止を目的とした政策が進められています。また、多くの自治体が特定健診や生活習慣病対策に力を入れており、企業でも「健康経営」の導入が加速しています。ただし、課題も残されています。たとえば、健診の受診率や若年層の健康意識の低さ、地域による格差など、改善すべき点は多く、継続的な取り組みと支援が求められています。
自分でできるNCDs予防は何ですか?
NCDs予防は、特別な医療や高額なプログラムを必要としません。日々の習慣を少し見直すことから始められます。まずは「禁煙」「バランスのよい食事」「週に150分程度の中程度の運動」「適正体重の維持」「定期的な健診受診」などの基本的な行動を意識してみてください。特に大切なのは、継続することです。完璧を目指す必要はなく、できることから少しずつ取り組むことで、将来的なNCDsリスクを大きく軽減できます。また、家族や周囲と一緒に取り組むことで、楽しみながら健康習慣を身につけることも可能です。
まとめ
非感染性疾患(NCDs)は、がん・糖尿病・心疾患・慢性呼吸器疾患など、感染を伴わずに発症する慢性疾患の総称であり、世界の死亡原因の大多数を占めています。日本でも、高齢化社会の中でNCDsは大きな課題となっており、その対策は私たち一人ひとりの生活、社会制度、経済の持続性にも関わる大切なテーマです。
しかし、NCDsの多くは予防可能であり、早期発見と生活習慣の改善によって進行を遅らせることができます。禁煙や節酒、栄養バランスの取れた食事、定期的な運動、適正体重の維持などの行動は、医療に頼らずとも私たちの手の中でできる“未来の健康への投資”です。健康を守ることは、自己実現の基盤となるだけでなく、家族や社会全体への責任でもあります。
そのためには、個人だけでなく、国・自治体・企業・地域社会などのあらゆるレベルでの協力が欠かせません。SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」社会の実現には、NCDsという静かに広がる脅威に、社会全体で目を向け、支え合う姿勢が求められています。
健康とは、明日の自分を守る力であり、社会の持続可能性を支える柱です。小さな行動の積み重ねが、大きな未来を変える力になる──その意識を胸に、NCDs予防に一歩踏み出していきましょう。