青森県の豊かな田園地帯に囲まれた丘の上に、児童養護施設「ひまわりの里」はあります。季節ごとに咲き誇る花壇のひまわりが印象的なこの施設では、さまざまな事情で家庭で暮らすことが難しい子どもたちが、職員や地域の人々に見守られながら日々を送っています。
今回は、施設長の方にお話を伺い、子どもたちの“もう一つの家”としての「ひまわりの里」の姿を紹介していきます。
――まず、「ひまわりの里」の概要について教えてください。

「ひまわりの里」は2002年に設立され、現在は2歳から18歳までの子どもたちが40名ほど生活しています。建物は木の温もりを感じる造りで、子どもたちが安心して過ごせるよう、家庭的な空間を意識しています。
青森の冬は厳しいですが、薪ストーブの火を囲んで過ごす時間は、まるで本当の家族のように温かいんです。施設名の“ひまわり”には、どんな環境でも太陽に向かって力強く成長してほしいという願いが込められています。
――施設として大切にしている理念や方針を教えてください。
「子どもたち一人ひとりの個性を尊重し、心の根を育てること」を理念に掲げています。
私たちは、どの子にも“ありのままの自分でいていい”と感じてもらうことを大切にしています。過去に傷ついた経験がある子も少なくありませんが、ここで自分を信じられるようになることが、将来の大きな力につながります。
そのためにも、日常の中で小さな成功体験を積み重ねるよう、職員全員でサポートしています。
――子どもたちはどのような日常生活を送っているのでしょうか。
朝7時に起床し、朝食後はそれぞれの学校へ登校します。放課後は宿題をしたり、施設の庭で遊んだりと、笑顔があふれています。
夕食は調理スタッフと子どもたちが一緒に作ることもあり、「カレー当番」や「味噌汁当番」など、自主的に役割を担う姿も見られます。
また、週末は地元の公園での外遊びや、地域の方々と行う収穫体験なども実施しています。自然と触れ合うことで、五感を育て、命の大切さを感じてもらえるようにしています。
――職員の方々が日々心がけていることは何ですか。

「叱るのではなく、寄り添うこと」を意識しています。子どもが失敗したときに「どうしてそんなことをしたの?」と責めるのではなく、「どうしたの?」「一緒に考えようね」と声をかけます。
また、どんな小さな変化も見逃さないよう、職員同士で情報共有を欠かしません。夜の見回りや就寝前の会話など、何気ない時間の中で信頼関係が少しずつ築かれていきます。
――子どもたちの自立支援に向けた取り組みについて教えてください。
中学生以上には「自立支援プログラム」を用意し、金銭管理や調理、洗濯などの生活スキルを実践的に学んでいます。
高校生になると、アルバイトや進学相談を通して、社会に出るための準備を進めます。
卒園した子どもたちの中には、介護職や保育士として福祉の道に進んだ子もいます。「自分も誰かを支えたい」と言って戻ってきてくれる姿は、本当に頼もしいですね。
――地域との関わりについてはどのような取り組みをされていますか。

地域との関係は、施設運営の大きな支えです。地元の商店街が毎年開催する「夏まつり」に子どもたちが太鼓演奏で参加したり、近くの老人ホームを訪問して手作りのカードを渡したりと、地域に根差した活動を行っています。
地域の方々が「ひまわりの子たちは明るくて元気だね」と声をかけてくださることが、子どもたちにとって大きな励みになっています。
――ボランティアや企業との協力関係についてはいかがですか。
大学生のボランティアによる学習支援のほか、地元企業が食材や衣類を寄付してくださることもあります。また、冬には建設会社の方々が雪かきを手伝ってくださるなど、地域ぐるみの温かい支援があります。
毎年のクリスマス会には、企業からサンタクロース役の社員が来てくれて、子どもたちにプレゼントを配ってくださるんですよ。あの笑顔を見ると、支援の輪が確かに広がっていると実感します。
――子どもたちにとって、「ひまわりの里」で過ごすことの意味は何だと思いますか。

ここは、子どもたちにとって“もう一度スタートラインに立てる場所”です。家庭でつらい思いをした子も、ここで信頼できる大人と出会い、「自分は大切にされている」と感じられるようになります。
過去を消すことはできませんが、未来を描く力を取り戻すことはできます。その手助けをするのが、私たちの役目です。
――最後に、今後の目標やビジョンを教えてください。
今後は、地域と連携した「アフターケア支援」を強化していきたいと考えています。施設を出たあとも、悩んだときにいつでも戻ってこられる場所でありたい。
また、児童養護の現状を広く知ってもらうため、講演や情報発信の場も増やしていきたいです。
どんな環境でも、子どもたちが“自分らしく生きる力”を持てるよう、これからも職員一同、太陽のような笑顔で見守っていきます。
青森の澄んだ空の下で、今日も「ひまわりの里」には笑い声が響きます。
まっすぐに太陽を見上げるひまわりのように――ここで育つ子どもたちの未来への希望となることでしょう。
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