薬物依存症は、薬物をやめたくてもやめられなくなる病気で、近年日本でも大麻や市販薬の misuse(誤用・乱用)が増えています。最初は「一度だけ」「みんなやっているから」と興味や軽い気持ちで始めた場合でも、脳の働きが変化し、自分ではコントロールできなくなることがあります。薬物使用には、一時的に気分が高まる、現実逃避ができるなどの「メリットのように見える作用」があります。しかしその裏には、精神面の崩れや身体への深刻なダメージ、犯罪や人間関係のトラブル、社会からの孤立など、多くのデメリットが隠れています。
薬物依存症は治療や支援によって回復可能です。本記事では、症状、原因、診断基準、治療法、相談先などを整理し、「正しく知ること」から始められる支援の形をわかりやすく紹介します。
薬物依存症とは?
薬物依存症は、単なる「甘え」や「怠け」ではありません。意志が弱いからやめられないのではなく、脳の働きが変化することで、自分では薬物使用を止められなくなる病気です。薬物を繰り返し使うことで脳が影響を受け、「また使いたい」「使わないと辛い」という強い欲求が生まれます。ここでは、薬物依存症の定義や診断基準、心理的依存と身体的依存の違い、そして脳内で依存が進む仕組みについて解説し、「なぜやめようと思ってもやめられないのか」を理解していきます。
薬物依存症の定義と診断基準
薬物依存症とは、薬物の使用を自分の意思ではコントロールできなくなる慢性的な精神疾患です。これは「意志が弱いから」といった性格の問題ではなく、薬物の使用を繰り返すことで脳の報酬系(快感を感じる脳の仕組み)に変化が起こることが原因とされています。依存は、違法薬物だけでなく、処方薬や市販薬でも起こります。診断には「ICD-11(国際疾病分類)」や「DSM-5(精神疾患の診断マニュアル)」が用いられ、次の基準が評価されます。
- 渇望(Craving):薬物を強く欲し、思考が薬物中心になる状態です。
- コントロール障害:一度使い始めると使用量や頻度を自分で調整できなくなります。
- 耐性(Tolerance):同じ効果を得るために使用量が増えていく現象です。
- 離脱症状(Withdrawal):薬物をやめると震えや不安、吐き気などの苦痛が現れます。
- 生活への支障:仕事や人間関係が壊れても使用を続けてしまいます。
- 薬物優先:薬物の入手や使用が生活の中心になります。
これらは、薬物依存症が「意思の問題ではなく、脳の変化によって続く病気」であることを示しています。
参考:第 1 章 薬物依存症を理解しましょう
参考:薬物依存形成の脳内メカニズムの解明 – 研究紹介
参考:薬物依存症 | NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター
参考:薬物依存の神経生物学的基盤
薬物依存症の主な症状|心理的依存と身体的依存
薬物依存症には「心理的依存」と「身体的依存」の2つの側面があります。
まず、心理的依存とは、薬物で得られる気分の高揚、不安の軽減、現実逃避といった精神的な変化を求める状態です。快感を感じた経験が繰り返されることで、脳が「また使いたい」と学習し、強い渇望を引き起こします。これは感情や思考に影響するため、本人が「やめたい」と思っていても使用を続けてしまいます。
一方、身体的依存は、薬物を使うことが体の状態を維持するために必要になってしまう状態です。長期間使用すると、脳や神経が薬物があることを前提として働くようになり、薬が体内にないとバランスが崩れます。すると、震え・吐き気・不眠・発汗・頭痛といった離脱症状が現れます。この苦痛を避けるために薬物を再び使ってしまい、依存が深まります。
このように、心理と身体の両方に働く依存が形成され、本人の意思だけでは抜け出せない状況になります。
薬物依存症が進行するメカニズム
薬物依存症が進行する背景には、脳の報酬系と呼ばれる神経ネットワークの機能障害があります。薬物を使用すると、脳内でドーパミンという神経伝達物質が大量に放出されます。ドーパミンは快感や幸福感をつくる物質で、「もっと使いたい」という意欲を生み出します。この大量放出が繰り返されると、脳は刺激に慣れてしまい、ドーパミン受容体の数が減少します。その結果、薬物なしでは快感を感じにくくなり、さらに強い量や種類を求めて使用が増えていきます。
また、依存が進むと、判断力や衝動を抑える役割を持つ前頭前野の働きが低下します。そのため、薬物の危険性を理解していても、合理的な判断ができなくなり、「今は使わない方がいい」と思っても衝動を止められなくなります。
つまり、薬物依存症は脳の構造と働きが変化し、「意思ではコントロールできなくなる病気」であることが科学的に証明されています。
日本と世界の薬物依存症の実情
薬物依存症は、個人の問題にとどまりません。日本では特に若年層で市販薬や大麻の乱用が増えており、社会全体の課題として注目されています。世界でも薬物使用者は年々増加し、国際的な安全保障や医療財政にも影響を与える深刻な状況です。この章では、国内外の調査データをもとに、薬物の使用実態や年齢層、背景を整理し、現状を理解していきます。
日本国内の薬物依存症の患者数
2023年〜2024年にかけて厚生労働省の全国調査が公表されています。それによると、過去1年以内に大麻を使用した経験のある人は約20万人、覚醒剤の経験者は約11万人と推計されています。また、市販薬の乱用経験者は約65万人にのぼり、経験率は0.75%となりました(参照:薬物乱用・依存状況の実態把握のための全国調査 2024)。
精神科医療機関での薬物依存症患者数も増加傾向です。患者が直近1年で使用した薬物として最も多いのは覚醒剤(28.0%)で、次に市販薬(25.6%)、睡眠薬・抗不安薬(22.6%)が続きます。こうした薬物は、強い依存性を持つため治療が必要です。
また、違法薬物の生涯経験率を見ると、大麻が1.5%、覚醒剤が0.5%とされています。この数字は前回調査と比較して大きな変化はありませんが、市販薬を中心に若年層の増加が目立っています。特に10代〜20代で精神疾患を併発するケースが報告され、早期対応の重要性が指摘されています(参照:医薬品・医療機器等安全性情報 No.418)。
参考:薬物乱用・依存状況の実態把握のための全国調査と 近年の動向を踏まえた大麻等の乱用に関す
参考:薬物事犯データ「令和5年における組織犯罪の情勢 第2章
参考:薬物乱用・依存状況の 実態把握のための全国調査と 大麻等の乱用に関する研究
参考:医薬品・医療機器等安全性情報(No.418)の送付について
日本国内の薬物検挙数
警察庁の統計によると、令和5年(2023年)の薬物事犯による検挙人員は13,330人で、高い水準が続いています(参照:警察庁 麻薬情勢統計2024)。特に若者による大麻関連の検挙が急増しており、統計開始以来最多となりました。SNSを使った匿名取引の拡大が一因として挙げられています。
薬物犯罪は、健康被害だけでなく、幻覚や妄想による事件、交通事故、暴力団の資金源化など社会的な影響が大きい点が問題です。薬物別の状況を見ると、覚醒剤事犯は全体の44.4%を占めています。検挙人員は前年より減少したものの、押収量は1,342.9kgと大幅に増加しました。暴力団関係者や再犯者が多い点も特徴です。
一方、大麻事犯は全体の48.6%を占め、覚醒剤を上回りました。初犯者や20代以下の割合が非常に高く、「軽い薬」という誤解が背景にあると考えられています。
さらに、薬物密輸は増加傾向で、検挙件数は419件(前年比42.5%増)、検挙人員は495人(同31.6%増)となりました。来日外国人による薬物犯罪も増加し、国境をまたぐ組織的な流通網の存在が示されています。
参考:第1項 薬物情勢
世界的な薬物依存の問題と流行
国連薬物犯罪事務所(UNODC)の「世界薬物報告書2025」によると、世界の薬物情勢は悪化しています。2023年時点で薬物を使用した人は推定3億1,600万人に達し、世界人口の約6%に相当します。この数字は過去10年で28%増加しました(参照:World Drug Report 2025)。
特に増加が目立つのはコカインです。2023年の生産量は3,708トンで前年比34%増、押収量も2,275トンと過去最多でした。使用者は推定2,500万人で、10年前から大きく増加しています。最も使用者数が多い薬物は大麻で、世界で2億4,400万人が使用しています。社会的な受容が広がっている国も多く、規制と治療の両立が課題です。
地域差も大きく、特にオーストラリアとニュージーランドではコカインの使用率が世界最高水準(人口の約3%)となっています。組織犯罪が新市場へ進出していることも報告されており、国際協力が不可欠とされています。
参考:World Drug Report 2025
参考:薬物使用、世界で3億人超える
薬物依存症になる原因
なぜ人は薬物に手を出してしまうのでしょうか。そこには、単なる興味本位だけではなく、ストレス、孤独感、家庭環境の問題、そしてSNSを通じた人間関係など、複雑に絡み合った背景があります。薬物依存症は、意志が弱いから起きるものではありません。むしろ社会全体が抱える課題と深く関わっています。この章では、薬物乱用に至る心理的・社会的な要因について、さまざまな視点から整理していきます。
ストレスによる薬物依存
現代社会は、競争、将来への不安、人間関係の悩みなど、数多くのストレスが存在しています。特に若い世代は、学校や職場、さらにはSNS上のつながりによって、常に誰かと比較され続ける環境に置かれています。こうした状況は、自分の存在価値を見失わせ、自己肯定感の低下につながります。
厚生労働省によると、薬物乱用の背景には「不安」「孤独」「現実逃避」が多く見られるとされています(参考:厚生労働省 薬物乱用|こころの病気について知る)。また、SNSでは自己表現の場が広がる一方、他者の成功や華やかな生活が強調され、現実とのギャップに苦しむ若者が増えています。この“見えないストレス”が、薬物への興味や依存を招くきっかけとなることがあります。さらに、インターネット上で薬物が手に入りやすくなっていることも問題です。匿名で購入できるケースもあり、「試してみるだけ」と軽く考えてしまう人が後を絶ちません。薬物乱用防止センターによる調査では、依存症の入口として「軽い気持ちで始めた」「ストレス解消のためだった」という声が多く見られます(参考:薬物乱用防止「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ)。
このように、薬物依存の根本には、社会が生み出すストレスや孤独感が深く関わっています。
薬物依存症を招く家庭・学校・職場の影響
薬物依存症に至る要因として、家庭や学校、職場などの環境が大きく影響することも知られています。親の離婚、家庭内暴力、育児放棄(ネグレクト)など、安心できる場所を失った子どもは、不安や悲しみを抱えやすくなり、薬物に逃げ込むリスクが高まります。
筑波大学の研究では、依存症と虐待経験には関連があると指摘されています(参考:TSUKUBA FUTURE #059)。幼少期の経験は、心の成長に大きく影響し、適切な支援がなければ、薬物やアルコールに依存しやすい体質をつくってしまうことがあります。
学校では、いじめや孤立が深刻です。「誰にも話せない」「助けを求められない」と感じる環境では、心のSOSが見逃され、薬物が支えのように見えることがあります。同じことは職場でも起こります。長時間労働や過度なノルマ、評価へのプレッシャーが積み重なると、心が追い込まれ、一時的な逃避手段として薬物に手を出してしまう場合があります。
そして、薬物使用が始まると、そのこと自体が罪悪感や恐怖心を生み、さらに孤立を深めてしまいます。こうした悪循環は、本人だけでは抜け出すことが難しく、周囲の理解と専門機関の支援が不可欠です。
ネットと交友関係による薬物依存症のリスク
薬物使用のきっかけとして最も多いのが「友人や知人からの誘い」です。「少しだけ」「怖くないよ」という言葉に背中を押され、軽い気持ちで始めてしまう人は少なくありません。しかし、一度使用すると脳が快感を覚え、次第にやめられなくなる危険性があります。
近年特に問題視されているのがSNSの影響です。警察庁の資料では、SNSを通じた薬物売買が急増していると報告されています(参考:警察庁 薬物乱用のない社会を目指して)。匿名で取引できる仕組みや、隠語を使ったやりとりが普及し、未成年でも薬物にアクセスできる環境が生まれています。
さらに、一部のSNSでは薬物使用を自慢する投稿が見られ、それが若者の好奇心を刺激するケースがあります。「みんなやっている」という誤った認識が、薬物への抵抗感を薄れさせ、危険性を軽く見てしまう原因となっています。こうした状況から、ネット社会が薬物依存へのハードルを下げている現実は無視できません。
薬物依存症は、決して一人の責任ではありません。社会、環境、メンタルヘルスの課題が重なり合って生まれる問題です。理解と支援、そして正しい教育が、再び健康な生活を取り戻すための鍵となります。
薬物依存がもたらす影響や社会的課題
なぜ人は薬物に手を出すのでしょうか。そこには、ストレス、孤独、家庭の問題、そしてSNSを通じた人間関係など、さまざまな背景が関係しています。一見すると「自分には関係ない話」と感じるかもしれません。しかし、薬物依存は個人の問題だけではなく、家族や社会全体に大きな影響をもたらします。
この章では、薬物依存がなぜ危険なのか、そしてそれが社会にどのような負担や課題を生むのかを、多角的に整理していきます。
健康被害と精神疾患のリスク
薬物乱用は、脳をはじめとする全身の臓器に深刻なダメージを与えます。特に脳は薬物の影響を強く受けやすく、判断力や記憶力、感情のコントロール機能が低下していきます。この状態が続くと、本人の意思ではやめられない「依存症」が進行します。
薬物使用による脳の変化は、認知機能の低下(ものの理解や判断が難しくなる状態)や感情の不安定化を招き、日常生活に支障が出ます。覚醒剤やLSDなどを使用した場合、「覚醒剤精神病」と呼ばれる幻覚や妄想を伴う精神症状が現れることがあります。また、使用をやめても、過去の薬物体験が突然再現される「フラッシュバック現象」が起こることも報告されています。
さらに、薬物の種類によっては心臓病や肝機能障害、腎疾患など、命に関わる身体障害が起こるリスクが高まります。特に注射型薬物の場合、注射器の使い回しを原因として、HIVやC型肝炎に感染する可能性が高くなります。このように、薬物依存は心身の健康を大きく損ない、回復には長い時間と専門的な治療が必要になります。
薬物依存症に伴う犯罪・家庭崩壊
薬物依存が進むと、生活の中心は薬物になります。仕事、人間関係、学業など、社会生活で果たすべき役割が徐々に放棄されていきます。その結果、生活費や薬物代に困窮し、盗みや詐欺、売春などの犯罪に関わるケースが多く見られます。判断能力の低下によって、暴行や強盗など重大犯罪に発展することも珍しくありません。
また、薬物による人格の変化や経済状況の悪化は、家族との関係を深刻に損ないます。暴言、家庭内暴力、育児放棄などにつながり、結果として家庭崩壊を引き起こすことがあります。家族は本人を支えようとしても、嘘や暴力、依存行動に苦しみ、精神的に追い詰められてしまう場合が多いと言われています。そのうえ、仕事の喪失や社会からの孤立が進むことで、本人は支援につながる機会を失いやすくなり、依存と孤立が悪循環として続きます。この結果、本人だけでなく周囲の人々も深刻な影響を受け続けることになります。
医療・福祉負担の増大
薬物依存症は、本人と家族の問題だけではありません。社会全体の医療費や福祉費用の増加につながる現実的な課題でもあります。依存症から回復するためには、専門的な医療機関での治療、長期入院、心理療法、グループ支援など、多くの時間と費用が必要です。
さらに、薬物依存症はうつ病や不安障害などの精神疾患を引き起こすことがあり、それらの治療負担も増加します。また、身体的な障害として肝疾患、感染症、循環器疾患などを同時に発症するケースも多く、医療現場は多くの資源を必要とします。長期の治療が必要になることで、医療費や福祉費用が増加し、社会保障制度全体に負担が広がります。結果として、薬物依存症問題は社会の持続可能性にも関わる重要な課題と言えるのです。
参考:薬物乱用・依存等の実態把握に関する研究
参考:アルコール・薬物依存症と その回復支援について 依存(症)からの回復をめざして
薬物依存症の課題解決のための取り組み
薬物依存症は、本人だけでなく家族や社会全体に深刻な影響を与える問題です。近年、日本では行政や医療機関、教育現場が連携し、治療や社会復帰を支えるための仕組みが進められています。特に、「ダメ。ゼッタイ。」運動をはじめとした啓発活動や、オンライン相談、専門医療体制の整備など、支援方法は多様化しています。本章では、社会がこの問題にどのように向き合っているのか、治療から予防までの取り組みを詳しく解説します。
医療機関での専門的な治療
薬物依存症は「意思が弱いから起こるもの」ではなく、脳の働きが変化してしまうことでやめられなくなる病気です。そのため、自力で克服することは難しく、専門的な治療が必要になります。
治療はまず、薬物をやめた際に起こる「離脱症状(強い不安、震え、眠れないなど)」のコントロールから始まります。この段階では、医師や看護師が身体状態を管理し、安全に薬物を断てるよう支援します。
次に、再び薬物を使いたいという衝動や、依存に至った背景と向き合う治療へ進みます。ここでは主に以下の心理療法(心の治療)が用いられます。
認知行動療法(CBT):薬物使用につながる考え方や行動の癖を見つけ、薬物に頼らない習慣に変えていく方法です。
動機づけ面接(MI):本人が「治したい」と思える気持ちを引き出すために行われるコミュニケーション技法です。
集団療法(グループワーク):同じ経験を持つ仲間と話すことで孤立感が減り、回復への希望が生まれます。
こうした支援を組み合わせることで、患者が薬物のない生活を再び築けるようサポートします。
国や自治体による予防・啓発活動
薬物依存症を防ぐためには、治療だけでなく事前の予防が欠かせません。そのため国や自治体では、若い世代を中心に薬物の危険性を伝える取り組みが行われています。代表的なのが厚生労働省が行う 「ダメ。ゼッタイ。」普及運動 です。この運動はテレビCMやポスター、学校での講話などを通じ、薬物の危険性や違法性を分かりやすく伝えています。また、単に恐怖を与えるだけではなく、科学的根拠に基づき「なぜ危険なのか」を説明している点が特徴です。近年はSNSやオンラインコミュニティを通じ、薬物を誘う情報や売買が行われるケースも増えています。そのため、警察や行政はインターネットの監視(サイバーパトロール)を強化し、違法な販売情報を見つけた場合は削除要請や摘発を行っています。
このような取り組みにより、「薬物との接点を作らせない」「誤った知識で薬物に興味を持たせない」という環境づくりが進められています。
教育現場での指導
子どもや若者が薬物に近づかない環境づくりのためには、教育現場の役割が重要です。学校では授業や特別活動を通じて薬物乱用防止教育が行われています。
薬物の恐ろしさだけでなく、依存症のメカニズムや健康への影響など、実例や科学的データを交えて学ぶことで、薬物への理解が深まります。また、「誘われたときに断る方法」や「悩んだ際は周囲に相談する姿勢」を育てる教育も行われています。これにより、単なる知識教育ではなく、行動選択力や自己防衛力を身につけられるよう工夫されています。
さらに、スクールカウンセラーや専門相談窓口と連携することで、早期発見・早期支援につながる体制も整えられています。薬物依存は早い段階で気づき、支援を受けることで回復の可能性が大きく高まります。教育現場での取り組みは、未来の依存症予防に大きく貢献しているといえます。
薬物依存症の相談窓口と支援情報
薬物依存が疑われるとき、多くの人が「どこに相談すればいいのか分からない」と悩みます。本人だけでなく、家族や友人が困惑するケースも少なくありません。身近な人ほど問題を抱え込みやすく、相談が遅れてしまうこともあります。本章では、全国の公的機関での相談先、ダルクなどの民間リハビリ施設、そして匿名・オンラインで相談できる窓口まで幅広く紹介します。状況に応じて頼れる場所を知ることが、回復への大きな一歩となります。
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは、都道府県や政令指定都市などに設置されている公的機関です。薬物依存症に関する相談を専門的に受け付けており、費用は無料です。医師や精神保健福祉士などの専門職が在籍しているため、科学的根拠に基づいたアドバイスが得られます。
この機関の特徴は、本人はもちろん、家族や周囲の人からの相談にも対応している点です。依存症は「意志が弱いから起きる問題」ではなく、脳や心に影響する医学的な疾患です。そのため、家族が適切な知識を得ることが、本人の回復に大きく役立ちます。
また、センターは地域の医療機関、リハビリ施設、自助グループなどとつながりをもっています。相談者の状況に応じ、最適な支援先へとつなげる役割も担っています。「どこに助けを求めればいいか分からない」という状態のとき、まず頼れる窓口として大きな存在です。
ダルク(DARC)などリハビリ施設
ダルク(DARC:Drug Addiction Rehabilitation Center)は、薬物依存症から回復した当事者が中心となり運営されている民間のリハビリ施設です。全国に拠点があり、地域に密着した活動が行われています。
多くのダルクでは、入所者が共同生活を送りながら「薬物を使わない生活」を実際に体験します。生活リズムを整え、働くための準備を進めることも目的の一つです。また、仲間同士がミーティングを通じて悩みを共有し、支え合うプログラムが中心となっています。
ダルクの大きな特徴は、支援者も依存症に向き合い、克服した経験を持っている点です。「自分も同じ経験をした」と理解してくれる相手の存在は、回復を目指す人にとって強い支えになります。また、就労支援や社会復帰のサポートも行われ、退所後の生活の不安にも寄り添います。
参考:東京ダルク
匿名相談・オンライン相談など新たな選択肢
「相談したいけれど、対面は抵抗がある」「家族に知られたくない」——そう感じる人も多いでしょう。そのような状況に対応するため、匿名で利用できる相談窓口が広がっています。厚生労働省が運営する「こころの健康相談統一ダイヤル」はその一例です。電話で相談でき、氏名を伝える必要もありません。また、SNSやチャットで相談できる支援団体も増えており、文章で気持ちを整理しながら話せる利点があります。
さらに最近では、自治体がオンライン相談フォームを設けるケースも増えています。時間や場所を問わず利用できるため、相談のハードルが低くなり、多くの人が支援にアクセスしやすくなっています。
薬物依存症は、一人で抱え続ける問題ではありません。相談先があることを知り、必要な支援につながることで、本人も家族も孤立せず回復への道を歩むことができます。
困ったとき、迷ったとき、まずは一度連絡をしてみることから始まります。
参考:こころの健康相談統一ダイヤル|自殺対策|厚生労働省
参考:SNS相談|困った時の相談方法・窓口|まもろうよ こころ|厚生労働省
薬物依存症に関するよくある質問
薬物依存症を正しく理解するには、よくある疑問に触れながら知識を深めることが大切です。「これは依存症なのか」「治療で元の生活に戻れるのか」など、不安や疑問を抱える人は多いはずです。この章では、特に多く寄せられる質問にやさしく答えていきます。本人だけでなく、家族や周囲の人にとっても知っておくべき内容ですので、ぜひ参考にしてみてください。
Q1. 薬物依存とアルコール・ギャンブル依存の違いは何ですか?
薬物依存、アルコール依存、ギャンブル依存は、依存の対象が異なります。薬物は化学物質、アルコールは飲料、ギャンブルは行為そのものが対象です。しかし、依存が起きる仕組みは共通しています。これらは脳の「報酬系」と呼ばれる働きに影響し、快感を得る回路が変化することで起こります。
一度依存状態になると、自分の意思ではコントロールが難しくなります。また、これらの依存症は同時に発症することも少なくありません。治療する際は、精神面や身体面、生活面を含めた総合的なサポートが必要です。
Q2. 未成年でも薬物依存になる可能性はありますか?
はい、未成年でも薬物依存になる可能性はあります。むしろ、脳が成長途中の時期ほど依存症リスクが高いと言われています。研究でも、子どもの脳は薬物の影響を強く受けやすいことが確認されています。
若い年代で薬物を使用すると、脳の発達が妨げられることがあります。そのため、依存になった場合、回復にも時間がかかりやすい傾向があります。「一度だけなら大丈夫」と思って使うことが、依存へつながる大きな入り口となるため注意が必要です。
Q3. 薬物依存症は再発しやすいですか?
残念ながら、薬物依存症は再発しやすい病気です。再発は意思の弱さではなく、脳の機能変化によって起きるものです。そのため、治療では「薬物を使わない期間を長く続けること」と同時に、再発につながる状況をどう乗り越えるかが重要になります。
たとえば、ストレス、人間関係のトラブル、孤独感などが再発のきっかけになりやすいです。治療では、こうした場面にどう対応するか学ぶ「対処スキル(コーピング)」を身につけます。仲間や専門家とのつながりを保つことも、回復を続ける力になります。
Q4. 治療中でも仕事や学校に通えますか?
治療内容や依存の状態によりますが、通院治療やオンラインサポートを利用すれば、仕事や学校を続けながら治療することも可能です。最近では、依存症に理解のある医療機関や支援団体が増えており、生活と治療を両立できる体制が整いつつあります。
ただし、無理をしすぎると再発リスクが高まるため、周囲の協力も欠かせません。学校や職場に伝えることに抵抗があるかもしれませんが、病気として理解されることも増えています。必要に応じて相談窓口や支援者と連携しながら、負担の少ない環境を整えていくことが大切です。
Q5. 家族が薬物依存症になった場合、どう接すればよいですか?
家族が薬物依存症になったとき、家族だけで抱え込む必要はありません。まずは、専門機関や病院、支援団体に相談しましょう。依存症は本人の意思や性格の問題ではなく、治療が必要な病気です。この理解を持つことが、支える側にとって大きな助けになります。
また、家族が「助けたい」と思うあまり、本人の行動を支えてしまう場合があります。これを「共依存」と呼びます。家族自身が疲れないよう、自分の心身も大切にしましょう。家族会やサポートグループに参加することで、気持ちを整理しながら適切な対応を学べます。
まとめ
薬物依存症は「意思が弱いから起きる問題」ではなく、脳に変化が起こり、自分の力だけではやめられなくなる病気です。心理的な依存だけでなく、身体が薬物を必要とする状態になるため、適切な治療と支援が欠かせません。
近年、日本では若い世代を中心に大麻や市販薬の乱用が増えています。その結果、健康被害だけでなく、犯罪や社会からの孤立といった深刻な影響が広がっています。
しかし、相談や治療を受けることで回復の道は開けます。ひとりで抱え込まず、早めに支援につながることが大切です。依存症は治療できる病気であり、回復しながら再び新しい生活を築くことができます。
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