【対談レポート】うるま市(沖縄)×チャイルドサポート 養育費問題に対する実

法務省ADR認証機関として離婚支援事業を行う株式会社チャイルドサポート(東京都中央区、代表:佐々木裕介)は、全国の複数の自治体と連携し、養育費問題の解決に取り組んでいます。

2025年4月より沖縄県うるま市と開始した、離婚前後の家庭を支援する実証実験。連携開始から約半年がたち、施策の幅も広がり、養育費取り決めのための公正証書作成支援に至った事例もございました。一方で、新たな課題も見えてきました。

今回、チャイルドサポートはうるま市でひとり親支援を担当されている職員との対談を実施しました。本記事は、実証実験の進捗や成果、新たに見えてきた課題などについて、対談に基づきお伝えします。

<本対談の参加者>

右から、うるま市役所 こども家庭課 ひとり親支援係 上間真士さん、新垣裕大さん、株式会社チャイルドサポート代表佐々木裕介、石垣由紀子(チャイルドサポート沖縄支店)

実証実験の概要

<実証実験に至った背景>

沖縄県のひとり親の出現率は全国と比較すると高く、うるま市は県内11市中2番目※1に高い状況です。

また、沖縄県の母子世帯で養育費の取り決めをしている割合は32.1%※1と、全国平均(46.7%)と比較して低い状況※2です。さらに、沖縄県は1人あたりの県民所得が全国最下位※3であり、うるま市は県内41市町村中40位※4と、全国的に見ても突出して平均収入が低いという課題もあります。

これらのことから、経済的困難を抱えるひとり親が多いという問題を抱えていました。

こうした地域課題を解決するため、うるま市は、令和7年度より「離婚前後家庭支援事業」を開始しました。また、内閣府の「地域課題解決型スタートアップ支援事業」で紹介を受けたチャイルドサポートと連携し、実証実験を開始しました。

※1 沖縄県「ひとり親世帯等実態調査」(2023年度)より
※2 こども家庭庁「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」より
※3 内閣府「県民経済計算」(2022年度)より
※4 沖縄県統計課「県民経済計算」(2022年度)より

2025年4月1日~

2025年9月末~

  • オンライン離婚条件シミュレーションツール「離婚の問診票」の提供開始 https://rikomon.childsupport.co.jp/
  • 弁護士・行政書士による離婚手続に関する無料電話相談
  • 弁護士による自治体職員向けセミナーの実施(2025年11月19日実施)
    ※「離婚前後家庭支援事業」では、チャイルドサポートとの連携のほか、以下の支援施策も実施。
  • 養育費に関する公正証書等の作成費補助(上限額5万円)
  • 離婚前後に係る無料法律相談会(うるま石川法律事務所委託)
  • 離婚問題等に関する親支援講座(うるま石川法律事務所委託、2026年2月開催予定)

実証実験のきっかけ

うるま市

当初、離婚前後家庭支援事業では、弁護士相談会と公正証書作成費用補助の2つの実施を予定していました。

その予算確保を進める中、正直なところこの2つだけだと養育費の確保までしっかり結びつけることが難しく、少し施策として弱いかもしれないという思いもありました。

そんな中、市子育て包括支援課が「地域課題解決型スタートアップ支援事業」にエントリーしたのがきっかけで、チャイルドサポートの存在を知りました。

ここなら養育費確保までの道のりを支援できると思い、ぜひとも連携をと始まった形です。

チャイルドサポート佐々木

お声がけいただいてそれはもうありがたく、ぜひお願いします!という感じでした。

連携が決まってからのうるま市の動きが早かったですね。3月に連携決定で、4月には実証実験をスタートできました。弊社は今いくつかの自治体と連携していますが、うるま市は初めて連携を開始できた自治体でした。そのため、「自治体連携はこうすればうまくいく」という成功パターンがつかめていない中、手探りで、文字通り“実証”する取り組みが始まりました。

養育費の必要性を啓発し、行動してもらうことの難しさ

4月から、まずはチラシとHPの制作、公正証書の作成サポートを開始。チラシは市民が離婚届を取りに来た際に、窓口で一緒にお渡ししています。

うるま市:チラシを読んでもらうのがまず養育費確保の入り口になるだろうと考え、そこから始めました。ただ、最初はチラシを配布しても思ったほど問い合わせにつながらなかった。内容が良くないのかと思い、漫画を加えた形に改良しました。

チャイルドサポート佐々木

なかなか問い合わせに繋がらない要因は2つあると思います。チラシから興味関心を持ってもらうことの難しさプラス、行動変容の難しさです。離婚前の、配偶者同士や家族など色々な揉め事やトラブルがある状況で、問い合わせをするハードルの高さがある。

先日、全国の離婚当事者に対して、このチラシについてヒアリングを実施しました。そうしたら、漫画版のチラシは「行政が配るチラシとしてどうなの?逆に怪しい」というフィードバックも受けました。私たちの意図としては、漫画のほうが分かりやすいし興味を持ってもらえるだろうと思っていました。 また、「このチラシだけだと、どのようなサービスなのか、いくらなのか、どういうタイムラインで公正証書作成が完了できるのかが分からない」という指摘も受けました。そこまで見える化すれば「公正証書作成やってみようかな」っていう人が増えるかもしれない。そこは改善している状況です。

うるま市

私は、沖縄特有の事情もあるのかなと感じています。移住者でない限り、両親が比較的近い場所にいる方が多い。そうすると、離婚後の住居や養育費の問題が、どうにかなってしまっているんじゃないかなと。また、沖縄は昔から離婚率が高いので、当事者の両親も離婚しているパターンがある。親も養育費をもらわずに育てていたから、養育費はもらえないものだと思っているのかもしれない。良くも悪くも、養育費をもらえないことに慣れているのかもしれません。なので、養育費をもらわないといけないと考えて行動してもらうのは、相当工夫が必要だというのを感じています。

「問い合わせ」へのハードル、導線の作り方

「養育費を受け取りたい」となった場合に重要なのが、公正証書の作成です。

公証人が作成する公正証書で養育費の取決めをしておくと、養育費が支払われなかった時、相手の給与や財産を差し押さえるなどして養育費を回収する強制執行ができます。

ただし、口約束で決めてしまったり、公正証書ではなく当事者同士で作った私文書だと、現在の法律では法的拘束力を持たないため、支払いを無視されたり逃げられてしまう場合があります。

今回の実証実験では、養育費に関する啓発から公正証書の作成・手続きまでをチャイルドサポートが支援しています。

その相談受付先は、チャイルドサポート代表(東京本社)と沖縄支店の2つを用意。電話窓口、LINE、HPの受付フォームという3つの問い合わせ方法を用意しました。

佐々木

公正証書の作成サポートは、①相談を受けるフェーズ、②書面に落とし込むフェーズ、③夫婦間での最後の詰めに伴走支援するフェーズの3つに分かれています。①~③全部行うのにだいたい1~2か月かかります。当社が伴走支援する価値で分かりやすい例では、例えば当事者同士が話し合いをしていると「再婚したら養育費を止める」「子供との面会交流をやらなかったら養育費を止める」など、養育費に関係ないはずの個人的要望が夫婦双方からあったりするところ、公正証書にできるかできないかも含めて、伴走支援をしていきます。

チャイルドサポート石垣

私はこのチラシを見た方が、最初に問い合わせる窓口として、沖縄支店を担当させていただいています。沖縄県民に多い感覚じゃないのかなと思うのが、チラシの内容に興味を持っても、問い合わせ先が東京となると、すごくハードルが高い。なので、窓口が東京ではなく県内にあることで1つハードルを下げられると思っています。

チャイルドサポート佐々木

私(東京本社)に問い合わせる件数より、圧倒的に石垣さんに来る件数の方が多いですね。

うるま市

市役所(行政)と一緒に取り組んでいる事業というのを発信することで、利用者に安心感を与え、利用しやすくなるのかなと思います。

チャイルドサポート佐々木

あと、問い合わせ方法についても議論がありました。いきなり電話できるのか?一旦LINEを友達追加して資料請求だけの方がハードルは低いんじゃないか?と。

チャイルドサポート石垣

でも、企業のアカウントをLINEで友達登録するのも人によってはハードルが高いと思うんです。飲食店は気にならないんですけど、普段馴染みのない企業のアカウントだと、友達追加でも抵抗がある。特に離婚のようなすごくプライベートな話題で、友達追加だけでなく資料請求までとなると、かなり覚悟が必要になる気がします。

チャイルドサポート佐々木

そうしたユーザー動線はすごく重要。他の自治体でも課題になっています。

その後は9月末から、チャイルドサポート本社と沖縄支店で無料電話相談を開始しました。まだ周知や導線まで行き届いていない状況ですが、公正証書の作成サポートでの実績もできています。

うるま市

私たちとしても、この無料電話相談はとてもいいサービスだと思っています。4月から市役所では、月に1回、うるま石川法律事務所が開催する対面式の無料法律相談会を実施しています。当相談会はとてもニーズが高く、現在予約が取りづらい状況となっております。この法律相談会は離婚するうえでのトラブルや揉め事の相談も応じていて、行政主催で対面実施ということで安心感もあり、とても人気です。ただ、チャイルドサポートで引き受けられる相談も多くあります。そこで、すぐに電話相談できますよとチャイルドサポートをご案内することもあります。

チャイルドサポート佐々木

広報や周知をしっかりして導線を最適化できれば、電話相談の需要はもっとあるはずだと思っています。やはり、どうやってこの施策の情報を届けていくかは課題ですね。

ひとり親家庭へ支出している市の児童扶養手当給付費は年間約8.8億円。養育費確保は当事者・行政双方にメリットがある。

うるま市

市としても、市民が養育費を受け取ることにメリットがあります。養育費を受け取ると、その額の80%がその方の「所得」とみなされます。ひとり親世帯に給付している児童扶養手当の支給額は、所得が高くなれば支給額が減額、もしくは停止することがあります。そうすると、行政の財政的負担が減ります。養育費は一度受け取れば15年18年と長期にわたって続くため、長期的にみると数百万の負担減になります。

うるま市は児童扶養手当の給付費が年々上がっていて、2025年度は13.3億程度を見込んでいます。その内1/3が国庫補助となるので、うるま市としての支出は8.8億円程度。受給世帯は2,500世帯ほどあります。これは全国的に見ても高い数字だと思います。

先日、別の自治体の方が視察にいらっしゃったんですが、人口規模はうるま市と大きく変わらないのですが、児童扶養手当受給世帯は800世帯ほどだとおっしゃっていました。うちはその3倍多く負担しているということになります。

チャイルドサポート佐々木

養育費をもらうと児童扶養手当の支給が減るから、受給者にとって意味がないということではないんです。例えば、児童扶養手当全額支給世帯(控除後所得106万円、対象児童、扶養親族ともに1人のケース)は、月に4万6690円支給されています。養育費の受け取りによって児童扶養手当の全額支給から一部支給に切り替えが生じる世帯の場合、養育費を月4万円貰えるようになると、児童扶養手当の支給額は9,610円減額され、行政の財政負担はその分軽くなります。他方、当事者目線では養育費と児童扶養手当をあわせると、月に7万7080円になります。養育費の受け取りは、行政にとっても当事者にとってもメリットがある。この行政負担をKPI化してきちんとモデルが組めるようになると、もっと他の自治体に横展開していきやすくなると思っています。

これまで養育費確保は、行政がなかなか手を出せない領域だと思われていました。離婚問題は民民の話でしょうという考えです。でも、こういった行政にとっても市民にとってもメリットがあって、取り組み自体に公益性があるという観点を打ち出していけると、広がりが見えるようになると考えています。

2026年4月に始まる「共同親権」の影響

2026年4月1日から、離婚後も「父母双方」が親権を持つ共同親権が認められます。この法改正に伴い、「法定養育費制度」がスタートします。離婚時に養育費を取り決めていない場合でも、子供1人あたり月額2万円を、離婚日に遡って請求できる制度です。また、これまで公正証書や調停調書など債務名義がないと養育費請求のための差押え等はできませんでしたが、法改正後は養育費に「先取特権」が付与されることにより私文書でも差押え手続きが可能になります。

チャイルドサポート佐々木

法定養育費によって、多くの方が最低2万円は支給されるようになります。ただ、無職の方や、収入が著しく低い方に請求することはできません。沖縄の場合どの程度いらっしゃるかが気になります。

チャイルドサポート石垣

沖縄は飲食店や小売業を営む個人事業主の方が多い。そうすると売上はあっても経費等で差しひかれ、自分の収入はほとんどないという方もいますね。

うるま市

県外と比較しても、その割合は高いと思います。

チャイルドサポート石垣

改めて養育費確保の必要性を周知するのももちろんですが、養育費は子どもの権利だっていうことももっと知ってもらう必要があると思っています。親の口座に振り込まれるから親の権利だと思っている方が多いんですけど、本来は子どもの養育・進学のためのお金です。

チャイルドサポート佐々木

この法改正のインパクトは、この自治体連携にも良い影響があります。今までは公正証書を作成しないと法的拘束力がなかったので、離婚当事者にとっては費用も時間もかかる大変な作業だった。それが法改正によって私文書でも良いとなると、劇的にハードルが下がると思います。複雑なケースもあるので、引き続き支援は必要ですけど、シンプルなケースであればデジタル空間で完結するような手続きにもしていけるはずです。

うるま市

この実証実験は一旦今年度をもって終了致します。また、来年度の継続はまだ決まっていません。予算との兼ね合いもありますが、次年度以降も継続していきたいです。

チャイルドサポート佐々木

今回の法改正によって、この自治体を起点にした養育費確保の座組は、取り組みがしやすくなると思います。来年度も継続していくために、より多くの市民に知っていただき、成功事例をたくさん作っていきたいと考えています。

自治体との取り組みのより多くの市民への周知し、養育費が1人でも多くのこどもたちに届くため、チャイルドサポートは活動を続けてまいります。

<本実証実験に関するお問い合わせ先>

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