吃音とどう付き合う?原因・症状・遺伝の可能性から周囲ができる支援策まで総まとめ

吃音の不安や日常生活での困りごとを抱えている方は少なくありません。吃音は、「話したいことは頭にあるのに、言葉の出だしでつまずきやすい」コミュニケーションの特性であり、決して珍しい状態ではありません。この記事では、吃音の種類や症状、発症の原因、日常生活への影響まで徹底解説します。

自分や周りの人の吃音について理解を深め、誰もが安心して自分らしいコミュニケーションをとることができる社会づくりを目指しましょう。

吃音とは

引用:「吃音」幼少期20人に1人 治療ガイドライン作成へ – 日本経済新聞

吃音とは、話そうとした言葉がスムーズに出てこず、音や言葉の一部を繰り返したり伸ばしたり、最初の一音がなかなか出てこなかったりする「話しことばの流れの障害」を指します。医学や言語聴覚の分野では「流暢性の障害」とも呼ばれ、単なる性格や「話すのが遅い」といった問題ではなく、発話をコントロールする仕組みに関わる症状として位置づけられています。

「話したい内容は頭の中にあるのに、口からうまく出てこない状態」が繰り返し起こることだと考えると分かりやすいかもしれません。頭の回転が遅いわけでも知能が低いわけでもなく、「話す」という行為の部分だけに特有のつまずきが見られることが特徴です。

また、誰にでも起こる一時的な「噛み」や言い直しとは区別されます。緊張や焦りで言い間違えることは多くの人にありますが、吃音の場合は特定の音や場面で同じようなつまずきが繰り返し起こり、そのために強い不安や恥ずかしさを感じやすくなります。この心理的な負担がさらに発話時の緊張を高め、吃音の症状を悪化させてしまうという悪循環が生まれやすい点も、吃音を理解するうえで大切なポイントです。

吃音の種類

吃音には、発症のタイミングや背景の違いから、いくつかの種類があります。それぞれの特徴を知ることで、自分や身近な人の吃音をより具体的に理解しやすくなります。

発達性吃音

発達性吃音は、幼児期のことばが急速に増える時期にあらわれる、もっとも一般的な吃音の種類です。 多くの場合、2〜5歳ごろに「ことばがつっかえる」「同じ音を何度もくり返す」といった症状が出はじめ、そのまま大人になっても続くケースがあります。​

原因はひとつではなく、脳の発達の特徴や、ことばを組み立てる力の成長スピード、家系内の遺伝的な傾向など、いくつかの要因が重なっていると考えられています。 成長とともに自然に症状が落ち着く人もいれば、思春期以降も吃音が続く人もいるため、早めに吃音の特徴を知り、必要に応じて言語聴覚士など専門職に相談しながら「上手に付き合っていく」視点を持つことが大切だとされています。

獲得性神経原性吃音

獲得性神経原性吃音は、幼児期ではなく、脳の病気やけがなどをきっかけに後からあらわれる吃音の一種です。 脳卒中、頭部外傷、脳腫瘍、神経変性疾患など、脳の神経ネットワークにダメージが生じたあとに、「話そうとすると音が引っかかる」「急につっかえが増えた」といった症状として出てくるケースがあります。​

発達性吃音と違い、ことばの発達途中で自然に出てくるものではなく、「ある時点を境に急に話しづらくなった」というはっきりしたきっかけがあることが多い点が特徴です。 また、発音そのものの障害(構音障害)や声の出しづらさ、麻痺など、ほかの神経症状と一緒にみられる場合も多いため、診断や治療では神経内科や脳神経外科、リハビリテーション科などでの評価が重要になります。

獲得性心因性吃音

獲得性心因性吃音は、強い精神的ストレスやトラウマ、心理的な衝撃がきっかけで突然発症する吃音の種類です。 事故、喪失体験、対人関係のトラブルなど、心に大きな負担がかかった後に「言葉が詰まる」「話せなくなる」といった症状が現れ、発達性吃音とは異なり、幼少期ではなく大人になってから起こることが多いのが特徴です。​

原因は主に心理的要因で、脳の神経的な異常ではなく、心の緊張が発話の流れを乱すとされています。 治療では言語聴覚士によるリハビリやカウンセリングが中心となり、根本のストレスを解消することで改善が見込めますが、自然に治るケースは少なく、早めの専門相談が推奨されます。

吃音の症状

吃音の症状は、「どもる」という一言では表しきれないほどさまざまで、それぞれ特徴的なパターンがあります。ここでは主な症状について詳しく見ていきましょう。

連発

連発は、吃音の代表的な症状の一つで、同じ音や言葉の一部を「か、か、か…」「ぼ、ぼ、ぼく…」といった形で何度もくり返してしまう話し方を指します。話したいことは頭の中にあるのに、最初の音がスムーズに出てこず、エンジンが空ぶかししているような感覚になることが多いと言われています。特に幼児期の吃音発症初期に多く見られます。

周りからは「焦っているだけ」「落ち着いて話せばいい」と見られがちですが、本人は強い緊張や不安の中で発声していることが少なくありません。連発が続くと、「またどもったらどうしよう」という予期不安から、自己紹介や発表、電話などの場面そのものを避けたくなることもあります

伸発

伸発は、吃音の症状の一つで、言葉の最初の音を「わーーたし」「おーーおはよう」のように引き伸ばしてしまう話し方を指します。話したい内容は頭の中にしっかりあるのに、スタートの一音に力が入りすぎてしまい、その結果として音が長く伸びてしまうのが特徴です。発声筋の緊張や不安、強い自己意識の影響で現れるとされ、連発よりやや起こりづらいものの、頻度が増えると話すときのストレスが大きくなりやすいと言われています。

ゆっくり話しているだけのように見えることもありますが、本人の内側では「止まってしまうよりは、なんとか声を出そう」という必死の試みである場合が多いです。そのため、周囲が途中で言葉を継いだり「落ち着いて」「ゆっくり」などと安易に声をかけると、かえってプレッシャーになってしまうことがあります

難発

難発は、吃音の症状の中でも特に苦しいタイプで、話し始めの一音がなかなか出てこない状態を指します。「……ぼく」「……こんにちは」のように、頭の中では言いたい言葉がはっきりしているのに、口を開いても声が出ず、長い“無音の間”が続いてしまうのが特徴です。中高生以降の思春期や成人で目立ちやすく、授業中の発言、自己紹介、面接など「沈黙が目立つ場面」で頻発しやすいため、コミュニケーションに大きな支障をもたらします。

難発が続くと、「話そうとしてもまた声が出ないのではないか」という強い不安や恐怖心が積み重なり、人前で話すこと自体を避けたくなってしまうことも少なくありません。表面的には黙っているように見えても、内側では必死に声を出そうと力んでいる状態のため、とても消耗しやすい症状です。難発は吃音の中で最もつらい症状のひとつとされており、周囲がこの特徴を理解しているかどうかが、本人の安心感や自己肯定感に大きく影響してきます。

吃音の現状

日本にも世界にも一定の割合で吃音のある人が存在します。ここでは、日本と世界における吃音の有病率・発症率など最新の動向を見ていきます。

日本における吃音の有病率・発症率  

日本の調査では、幼児(特に3歳ごろ)における吃音の有症率は約6.5%、累積発症率は約8.9%と報告されています。これは、3歳までに吃音症状を一度でも経験する子どもが、およそ10人に1人いることを示します。吃音は決してめずらしい状態ではなく、多くの子どもが成長のどこかの段階で吃音を経験しているのです。

一方で、成人における吃音の有病率は約1%、つまり100人に1人程度と推定され、男性は女性の約2〜4倍多いとされています。 幼児期にいったん吃音症状が出ても、その一部は成長とともに自然に軽快する一方、症状が残った人が青年期・成人期まで吃音と付き合っていくことになります。

参考:Ⅱ. 分担研究報告 吃音症の実態把握と支援のための調査研究 菊池 良和

世界の吃音の有病率・発症率  

世界全体で見ると、吃音の有病率はおよそ1%前後とされており、子どもの頃に一度は吃音症状を経験する人(発症率)は約5%程度と推定されています。 これは「人生のどこかの時期で吃音を経験する人は20人に1人ほどいるが、そのうち多くは成長とともに症状が軽くなり、継続して吃音が残る人が約1%程度になる」というイメージです。​

国や地域による差はあるものの、大規模な国際調査やレビューでも、有病率はおおむね0.7〜1.2%の範囲に収まると報告されています。 一方、世界保健機関(WHO)などが扱う推計では、世界人口の約1%前後が現在も吃音を有しているとされ、経験者まで含めると数億人規模にのぼると考えられています。 発達性吃音がほとんどを占め、脳損傷や心因反応などが背景にある獲得性吃音は全体の一部にとどまるとされています。

参考:吃音の人数割合を紹介!大人や男女比で確率はどのくらい変わるのか? – HAPPY FOX

吃音の原因

吃音の原因はひとつではなく、脳のはたらきや遺伝的背景、成育環境、心理的な影響などが複雑に絡み合っています。

脳神経と遺伝的要因

吃音は「気の持ちよう」だけで起こるものではなく、脳の情報処理のしくみや遺伝的な要因が関わる神経発達的な障害と考えられています。話すときには、頭の中で言葉を選び、音に分解し、舌や唇・声帯などを細かく動かす複雑なプロセスが同時進行していますが、吃音がある場合、この音やタイミングの制御を担う脳のネットワークの働き方に、わずかなクセや偏りがあることが脳画像研究などから示唆されています。

家族内に吃音のある人が複数いるケースが一定数みられることから、遺伝的な影響も無視できないとされています。双子や兄弟を対象にした研究では、「吃音になりやすさ」の一部は遺伝子によって説明できるとされ、実際に関連が疑われる遺伝子も複数報告されています。ただし、「この遺伝子があるから必ず吃音になる」という単純なものではなく、生まれ持った脳や遺伝の特性に、成長過程での環境要因や心理的な要因が重なり合うことで、吃音として表に出てくると理解されることが多いです。

環境的要因

吃音は脳神経や遺伝的な要因がベースにある一方で、成長する環境や家族との関係も、症状の出方や続き方に大きく影響すると考えられています。たとえば「早く話して」「はっきり言いなさい」と急かされる場面が多かったり、ことばのミスを強く指摘され続けたりすると、話すことへの不安や自己意識が高まり、吃音が目立ちやすくなることがあります。​

また、家庭や学校、職場などでからかい・いじめ・否定的な反応を繰り返し受けると、「話す=怒られる/笑われる」という学習が進み、発話のたびに強い緊張が生じやすくなります。 逆に、ゆっくり話を聞いてもらえる経験や、「どもっても大丈夫だよ」という受容的な態度が多い環境では、吃音そのものがあっても自己肯定感を保ちやすく、症状も悪化しにくいと報告されています。

心理的要因

吃音そのものは心理面だけで生じるわけではありませんが、「どもってしまった経験」や周囲の反応が積み重なることで、強い不安や自己否定感が生まれやすくなります。話すたびに「また失敗するかも」「笑われるかも」と考えてしまうと、体がぐっと固まり、発声筋に過度な力が入り、その結果として連発・伸発・難発などの症状が強まりやすくなります。​

さらには、吃音が続く中で、からかい・いじめ・否定的な指摘を受けると、「話す=怖いこと」というイメージが刷り込まれ、自己肯定感が下がりやすくなることが指摘されています。 一方で、「どもってもいい」「うまく話せなくても価値がある」というメッセージを周囲から繰り返し受け取れると、吃音があっても自尊感情や自己受容を保ちやすく、そのこと自体が不安を和らげ、症状の悪化を防ぐ方向に働くと報告されています。​

個人の性格・気質との関連  

吃音は「性格が弱いから起こる」「内向的だからどもる」といった単純なものではありませんが、もともとの気質や物事の感じ方が、症状の出方や悩み方に影響を与えることは指摘されています。たとえば、人一倍まわりの目を気にしやすい、慎重で失敗を避けたい気持ちが強い、真面目で完璧主義になりやすいといった気質があると、「どもってはいけない」というプレッシャーを自分にかけやすくなり、その緊張が発声筋のこわばりや難発・連発・伸発の増加につながりやすくなります。​

感受性が豊かで、人の表情や雰囲気に敏感なタイプの人は、過去に笑われた・真似されたといった経験を強く記憶しやすく、「また同じことが起きるかも」と予期不安を抱えがちです。その結果、吃音そのものよりも「吃音がある自分」を否定してしまい、自己肯定感が下がることで、さらに話す場面を避けるようになることもあります。

吃音による問題と社会的影響

吃音は、発話の問題だけでなく、日常生活・学校・仕事などさまざまな場面で大きな影響を及ぼします。ここでは、吃音が本人や周囲にもたらす多様な課題について詳しくみていきます。

本人が感じる心理的負担

吃音があると、「話したいことはあるのに声が出ない」「またどもったらどうしよう」といった不安や恐怖心を日常的に抱えやすくなります。自己紹介や電話、面接のように失敗が目立ちやすい場面では、症状そのものよりも「人前で失敗するかもしれない」という予期不安が強くなり、発声の瞬間に体が固まってしまうことも少なくありません。

その結果、「自分は人より劣っているのでは」「普通に話せない自分はダメだ」という否定的な自己イメージを持ちやすく、自己肯定感や自尊感情が下がりやすいことが、多くの研究や当事者の声から報告されています。さらに、からかい・いじり・心ない指摘といった経験が重なると、他人との会話そのものを避けるようになり、孤立感や抑うつ感が強まる悪循環に陥ることもあります。

教育・就職・社会参加での障壁  

吃音があると、まず学校場面では音読・発表・自己紹介など「話すこと」が評価や人間関係に直結する場面で大きなプレッシャーを感じやすくなります。うまく話せない経験が続くと、授業中に手を挙げるのを控えたり、人前に出る活動を避けたりしがちになり、その結果として本来の理解度や能力よりも低く見られてしまうことがあります。​

就職活動では、面接やグループディスカッションなど口頭での自己アピールが重視されるため、「話せない=仕事ができない」と誤解され、実力とは別のところで不利を感じる人も少なくありません。入社後も、電話応対や会議での発言、プレゼンテーションなどが不安要因となり、職種選択の幅が狭まったり、昇進や配置で不利に働いたりする可能性が指摘されています。​

さらに、地域活動やボランティア、サークル活動など「初対面の人と話す機会」が多い場面では、「どもったらどう思われるだろう」という不安から参加自体を避けてしまうこともあります。その結果、社会とのつながりが細くなり、孤立感や生きづらさが強まりやすくなります

偏見や差別

吃音に対する理解が十分でない環境では、「ゆっくり話しているだけ」「緊張しすぎ」「努力が足りない」といった誤解から、心ないからかいや物まね、あだ名づけなどのいじめにつながることがあります。こうした偏見は、学校だけでなく、アルバイト先や職場、日常の人間関係の中でも起こり得るもので、「ちゃんと話せない人」「頼りない人」といったレッテルを貼られてしまうこともあります。

この結果、本人は「話すのが怖い」「自分は人より劣っている」と感じやすくなり、自己肯定感が下がったり、対人不安や抑うつ感が強まったりするなど、心理的な負担が大きくなります。また、こうした差別的な経験を避けるために、人前で話す機会や新しい場への参加をあきらめてしまうこともあり、本来なら得られたはずの学びや仕事のチャンスが失われることもあります。

吃音の改善方法や治療・対策

吃音の改善や治療は、「完全になくす」ことだけでなく、「話す不安を減らして暮らしやすくする」ことも大切なゴールです。ここでは、訓練や医学的治療、日常でできる対策について紹介していきます。

言語聴覚士による訓練・リハビリ手法  

言語聴覚士(ST)による言語療法は、吃音の改善や「話しやすさ」を育てるための中心的な支援方法です。吃音そのものを一瞬で消す魔法のような治療ではありませんが、話し方のクセや発声のタイミングを整えたり、「どもっても大丈夫」と思える心の土台を育てたりすることで、日常生活で感じる困りごとを少しずつ減らしていくことができます。

代表的なアプローチとして、「流暢性形成法」と「吃音変容法」がよく用いられます。流暢性形成法は、ゆっくりとしたテンポややわらかい声の出し方を練習しながら、「どもりにくい話し方パターン」を身につけていく方法です。これに対して吃音変容法は、「どもりをゼロにする」よりも「どもっても自分を責めすぎない」「症状とうまく付き合う」ことを重視し、吃音そのものへの恐怖や恥ずかしさを減らしていくアプローチです。

実際の訓練では、腹式呼吸などの呼吸法、声をスムーズに出すための発声法、発話の入りをゆっくり始める練習などを組み合わせて行っていきます。また、話し始めのタイミングを調整する練習や、緊張しやすい場面を少しずつシミュレーションして慣れていくトレーニングが行われることも多いです。

医学的治療

吃音には、今のところ「これで完全に治る」といえる根治療法は確立されていません。ただし、近年は脳科学の発展に伴い、発達性吃音の背景にある脳の働きに直接アプローチする試みも進んでおり、その一つがアメリカ食品医薬品局(FDA)が認可している経頭蓋磁気刺激(TMS)による治療です。この方法は、頭皮の上から磁気刺激を与えることで特定の脳領域の活動を調整し、吃音の症状の軽減に役立つ可能性が報告されています。

とはいえ、TMSはまだ研究段階の要素も大きく、どの程度の期間・頻度で行えばどのくらい改善するのか、誰に効果が出やすいのかといった点は引き続き検証が必要とされています。そのため、日本を含む多くの国では「標準治療」というより、専門施設で慎重に適応が検討される選択肢の一つと考えられています。

また、吃音そのものを直接なくす薬は現時点で存在しませんが、吃音に付随して生じる強い不安や抑うつ、対人恐怖などに対して、抗不安薬や抗うつ薬などの向精神薬が使われることがあります。これらは吃音を消すためではなく、「話す場面になると極端に怖くなる」「失敗体験を思い出して眠れない」といった二次的な心理的負担を和らげることが主な目的です。

早めの治療や対策が重要

吃音には「これをすれば必ず治る」という決定的な治療法はまだありませんが、幼児期や学齢期から、また大人であっても気づいた時点で早めに専門的な支援につながることが、とても大きな意味を持ちます。早いうちから吃音の特徴を正しく理解し、言語聴覚士による訓練や環境調整、心理的サポートを組み合わせることで、症状そのものだけでなく「話すことへの恐怖」や「自己否定感」が強くなるのを防ぎやすくなります。​

最近では脳の働きにアプローチする新しい治療(経頭蓋磁気刺激など)や、吃音に伴う不安・抑うつを軽減する心理療法・薬物療法など、選択肢が少しずつ広がってきています。 こうした方法はどれも「魔法のように吃音を消す」ものではありませんが、早い段階から専門家と相談しながら、自分に合う支援を組み合わせていくことで、学校生活や就活、人間関係の中で感じる生きづらさを軽くし、「吃音があっても自分らしく暮らしていける」という感覚を育てやすくなります。

家族・社会ができる吃音の支援策

家族や社会の支えは、吃音そのものをなくすこと以上に「安心して話せる場」を広げるうえで欠かせません。ここでは、教育現場や職場、身近な人ができる具体的な支援策を紹介していきます。

学校教育現場での支援体制と配慮  

学校現場で吃音のある子どもを支えるうえで重要なのは、「無理に話させないこと」と「話したいときに安心して話せる場をつくること」を両立させる環境づくりです。具体的には、音読や発表の順番を事前に相談して決めたり、どうしても不安が強い場面ではプリント提出や少人数での発表など代替手段を用意したりすることで、「授業に参加したい気持ち」を守りながら負担を減らすことができます。

教師が吃音について正しい知識を持ち、クラス全体にさりげなく多様な話し方を尊重する雰囲気を広げることも大切です。からかいや物まねが起きたときには、その場で行動を止めるだけでなく、「どもることは悪いことではない」「人それぞれ話し方が違う」といったメッセージを明確に伝えることが求められます。

さらに、通級指導教室や特別支援コーディネーター、スクールカウンセラーと言語聴覚士など外部専門職との連携を図ることで、授業内外での配慮、友人関係のサポート、進路・就職を見据えた支援までを一貫して検討しやすくなります。

職場での理解促進

職場で吃音への理解を広げるうえで大切なのは、「話し方」だけで人の能力を判断しない文化をつくることです。採用や評価の場面で、流暢さよりも業務遂行能力・専門性・協調性といった本来の仕事スキルに目を向ける姿勢を共有できると、吃音がある人も自分の強みを発揮しやすくなります。また、電話以外の連絡手段(チャット・メール)を柔軟に選べるようにしたり、発表や会議での役割を事前にすり合わせたりすることで、「話すこと」に伴う不安や負担を具体的に軽減できます。

本人が希望する場合には、上司や人事と吃音について共有し、困りごとと望む配慮を一緒に整理しておくことも有効です。「ゆっくり話しても大丈夫」「言葉が詰まっても最後まで聞く」といった基本的な姿勢が職場全体に浸透しているだけでも、心理的安全性は大きく変わります。さらに、社内研修やハラスメント防止の取り組みの中で、吃音を含む多様なコミュニケーションスタイルへの理解を扱うことで、「からかい」や「急かし」が起こりにくい環境づくりにつながります。

家族・友人の支え方・声かけのコツ  

吃音のある人を支えるときに一番大切なのは、「話し方」ではなく「気持ち」に寄り添う姿勢です。言葉が詰まった瞬間に慌てて助け舟を出したり、「落ち着いて」「ゆっくり話して」と繰り返したりすると、本人は「また迷惑をかけてしまった」と感じやすくなります。まずは最後まで話を聞き、「伝えようとしてくれてありがとう」「ちゃんと分かったよ」と内容に焦点を当てて受け止めることが、安心感につながります。

声かけをするときは、「どもっても大丈夫」「話したいときに、いつでも聞くよ」というメッセージをさりげなく伝えるのがおすすめです。失敗談を否定するのではなく、「あの場面で最後まで話そうとしたの、すごく勇気がいったよね」のように、行動そのものを認める言葉があると、自己肯定感が少しずつ育ちやすくなります。

吃音はSDGsの目標達成に大きく影響している

吃音(どもり)は、話し方の特徴にとどまらず、学びや仕事、人間関係、健康、社会参加など、生活のあらゆる場面に深く影響する課題です。そしてその影響は、SDGsが掲げるさまざまな目標にも直結しています。吃音への理解と支援が広がることは、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念を実現するための大きな一歩となります。

SDGs4「質の高い教育をみんなに」

吃音のある子どもは、音読や発表といった授業の場面で強い不安を感じることがあり、その結果、積極的に授業に参加しにくくなることがあります。恥ずかしさや周囲の反応への恐れから、手を挙げたくても挙げられない、当てられたくなくて視線を下げてしまう、といった行動につながることも少なくありません。

こうした状況が続くと、学習の機会にちょっとした差が生まれ、それが積み重なることで教育格差へとつながる可能性があります。

SDGs8「働きがいも経済成長も」

大人になっても吃音の影響は続きます。たとえば就職活動では、面接でうまく話せないことが評価に影響すると感じ、応募を控えてしまう人もいます。また、電話や対話が中心の仕事を避けたり、職場での誤解や配慮不足によって、自分の力を発揮しづらいと感じる場合もあります。話すことに困りごとがあるだけで、本来の能力と無関係な不利益が生じる現実は、働きがいの妨げとなり、経済参加の公平性にも影響を与えています。

SDGs10「人や国の不平等をなくそう」

吃音には、「努力すれば治る」「緊張しすぎているだけ」といった誤解が根強く存在します。そのため、からかわれたり、話し方を指摘されたりといった差別的な扱いを受けることもあります。

こうした偏見は、本人の自己肯定感を損ない、新しい挑戦をあきらめさせる要因にもなります。本来なら得られたはずの機会が奪われるという意味で、吃音は“見えにくい不平等”を生み出す要因のひとつなのです。

SDGs3「すべての人に健康と福祉を」

吃音がある人は、人前で話す場面に強い緊張を伴い、日常的にストレスや不安を抱えやすくなります。周囲に理解がない場合は、「また詰まったらどうしよう」という恐れが積み重なり、自己否定感や抑うつ感が強まってしまうこともあります。心の健康を守るためには、本人が安心して話せる環境づくりと、周囲が「話すスピードや形は人それぞれ」と受け止める姿勢がとても重要です。

SDGs16「平和と公正をすべての人に」

吃音は、からかい、無視、過剰に急かされるなどの人権侵害と深く関わります。相手の言葉を遮らず、最後まで聞く姿勢を持つことや、話し終わるまで待つといった配慮があるだけで、吃音のある人は安心して自分らしく話すことができます。多様な話し方を自然に受け入れる社会は、誰にとっても安全で、包摂的で、尊厳が保たれる社会へとつながります。

SDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」

吃音に関する支援は、学校や家庭だけでは完結しません。医療機関、行政、地域のコミュニティ、企業などが連携することで、本人がどの場面でも安心して過ごせる環境が整っていきます。たとえば学校では教員の理解研修、企業では職場のコミュニケーション配慮、地域では啓発イベントなど、多様な立場が力を合わせることで、吃音のある人が取り残されない社会が実現していきます。

吃音に関するよくある質問

吃音について、さまざまな疑問や不安を抱く人は少なくありません。よく寄せられる質問について、わかりやすくお答えします。

吃音は自然に治ることがありますか?  

幼児期に始まる吃音の場合、成長とともに自然に軽くなったり、ほとんど目立たなくなるケースも一定数あります。ただし、すべての人に当てはまるわけではなく、症状が続いて青年期・成人期まで残る人もいます。そのため「必ず自然に治る」「絶対に治らない」と言い切ることはできません。

一方で、自然経過だけに任せるのではなく、早めに吃音を理解してくれる専門家や相談機関につながることが大切です。

緊張で症状が強まるのはなぜですか?  

緊張すると吃音の症状が強まりやすいのは、心と体の両方に「力み」が生まれるからです。人前で話す場面などで不安や自己意識が高まると、呼吸が浅く速くなり、首・肩・口元まわりの筋肉がぎゅっと固くなります。その状態で無理に声を出そうとすると、発声のタイミングが合わなくなり、連発・伸発・難発といった吃音症状が出やすくなってしまいます。

治療に年齢制限はありますか?  

吃音の治療や支援に、厳密な意味での「年齢制限」はありません。幼児期・学齢期から大人まで、どの年代でも言語聴覚士による訓練や心理的サポート、環境調整などを行うことで、症状そのものや「話すことへの不安」を和らげていくことは可能です。ただし、幼い時期ほど脳やことばの発達が柔軟なため、早めに支援につながるほど変化が起こりやすいと考えられています。

子どもの吃音、放置しても大丈夫ですか?  

子どもの吃音は、成長とともに自然に目立たなくなる場合もありますが、「様子を見る=完全に放置する」でよいとは言い切れません。特に、症状が数か月以上続いている、本人が「話したくない」「また笑われるかも」と強く気にしている、家族が不安を感じているといった場合は、早めに専門家へ相談した方が安心です。

早い段階で、ことばの専門職(言語聴覚士)や小児の発達・ことばを診る医療機関に相談することで、「今どの段階なのか」「家庭や園・学校でどんな関わり方をするとよいか」を具体的に教えてもらえます。

医療機関・相談先の選び方を教えてください。

吃音で相談したいときは、まず「ことば」や「こころ」を専門とする窓口を探すのがおすすめです。具体的には、小児科・耳鼻咽喉科・精神科(心療内科)などで吃音を扱っている医療機関や、言語聴覚士が在籍するリハビリテーション科・ことばの外来、地域の発達支援センター・教育相談機関などが主な相談先になります。

ホームページに「吃音」「言語聴覚士」「ことばの相談」などの記載があるかを目安にすると、最初の一歩が踏み出しやすくなります。

まとめ

吃音は、「話したいことは頭にあるのに、言葉の出だしでつまずきやすい」コミュニケーションの特性であり、性格の弱さや努力不足が原因ではありません。発達性吃音を中心に、脳の情報処理のクセや遺伝的な要因に、環境・心理・その人の気質などが重なり合ってあらわれる、多面的な特徴だと考えられています。

幼児期に自然治癒する場合が多いですが、持続する例も少なくないため早期の理解と支援が欠かせません。緊張による悪化を防ぐための心理的サポートも効果的で、治療やサポートは年齢に関係なく行えます。適切な医療機関や支援団体を活用し、正しい知識をもとに、本人と周囲が協力しながら向き合うことが、安心して暮らしていくカギとなります。

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