医療格差とは?日本で広がる地域差と医師偏在の原因から、解消に向けた具体策まで徹底解説

医療格差は、住む場所や経済状況、年齢や立場によって、受けられる医療に大きな違いが生じる深刻な社会課題です。日本は世界有数の長寿国でありながら、その恩恵がすべての人に平等に届いているとは限りません。都市部では高度な医療が整い、専門医や病院も多く存在しますが、地方や離島では必要な診療科がない、救急車で1時間以上かかるなど、医療へのアクセスに大きな地域差が存在しています。加えて、高齢化の進行や医師・看護師の偏在、経済的な事情も重なり、「医療を受けたくても受けられない」現実に直面している人が少なくありません。本記事では、医療格差の定義や日本における現状、格差が生まれる原因、そして私たちにできる解消のための取り組みについて、具体的なデータとともにわかりやすく解説していきます。

医療格差とは?日本で問題になっている理由

日本の医療制度は誰でも医療が受けられる国民皆保険の基盤が整っているものの、近年の少子高齢化や人口の都市集中が進む中で「医療格差」という問題が顕在化しています。ここでは、医療格差の定義と、その背景にある日本社会特有の構造的な課題について解説します。

医療格差の定義

医療格差とは、住んでいる地域や経済状況、年齢や立場によって、受けられる医療サービスに違いが生じることを指します。特に日本では、地域差や医師偏在が深刻な課題であり、都市部では多くの病院や専門医にアクセスできる一方、地方や離島では最低限の診療さえ受けにくい状況があります。経済的に困窮している家庭では、医療費の自己負担が重く、必要な治療をあきらめざるを得ないケースもあります。

これらの格差は、健康寿命の地域差や救命率の違いといった深刻な影響を及ぼします。なお、医療格差と似た言葉に「健康格差」がありますが、健康格差は医療へのアクセスに加え、生活習慣や教育、雇用環境といった社会的要因による健康状態の違いも含む、より広い概念です。医療格差はその一要素であり、社会全体で取り組むべき重要な課題です。

なぜ日本で医療格差が広がっているのか?

日本の医療格差が深刻化している背景には、都市部への人口集中と、地方や離島での人口減少という構造的な問題があります。若年層が都市に移住する一方、高齢化が進む地域では医療ニーズが増すにもかかわらず、医療従事者の数は減少しています。特に、外科医や産婦人科医、小児科医など一部の診療科では偏在が顕著で、地方では必要な医療が受けられないケースも見られます

また、内閣府の「令和5年版 高齢社会白書」によると、75歳以上の後期高齢者人口は今後急増する見込みであり、医療や介護の需要が一層高まると予測されています。しかし、それに対応する医師・看護師の確保は進んでおらず、特に地方では深刻な人材不足が課題です。医療体制の地域差は、命に直結する問題であり、早急な対策が求められています。

日本で見られる医療格差の実情

地方と都市部では、医療機関の数も医師の配置も大きく異なり、その差が医療アクセスや専門ケアに影響しています。次項で、具体的な地域差や診療科偏在の実態を見ていきましょう。

地域ごとの医療機関・医師数・アクセスの違い

日本では、日本では、地域ごとに医療機関の数や医師の配置に大きな医療格差が存在しています。厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計(2022年)」によると、人口10万人あたりの医師数は京都府が355.6人と全国最多であるのに対し、埼玉県は186.2人と約1.9倍もの格差があります。西日本や大都市圏(東京・大阪・京都など)では医師数が多い一方、関東の一部や地方県では著しく少ないのが現状です。

さらに、病院や診療所の数も都市部に集中し、地方では近隣に医療機関が少ないため、通院に長距離移動や交通手段の確保が必要となります。特に離島や中山間地域では公共交通機関が未整備な場合が多く、医療機関へのアクセスが困難なケースが頻発します。こうしたアクセスの悪さは、慢性疾患の管理や予防医療の受診率低下、救急時の搬送遅延といった深刻な問題に直結します。

地域差による医療資源の偏在は、国民が平等に医療を受ける権利を阻害していると言えます。今後の医療政策において医師偏在の是正と地方の医療提供体制の強化が喫緊の課題となっています。

参考元:令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況|厚生労働省

診療科・専門分野ごとの医師偏在

日本の医療格差を語るうえで見逃せないのが、診療科や専門分野ごとの医師偏在です。たとえば、産婦人科・小児科・精神科などは、過重労働や責任の重さから敬遠される傾向があり、特に地方では医師が極端に不足しています。この偏在により、地域によっては特定の診療科が存在しない、あるいは診療時間が極端に限られているケースもあります。結果として、住んでいる場所によっては適切な専門医にかかる機会が著しく制限されてしまうのです。

こうした問題は、地域差だけでなく、医療の質にも大きな影響を及ぼします。医療格差の現状を改善するには、専門医の配置や育成に対する新たな取り組みが求められています。

医療格差が生まれる原因は?

医療格差が広がる背景には、人口構造の変化や地域間の経済格差、医療従事者の分布の不均衡といった複数の要因が絡んでいます。ここでは、医療格差がなぜ生まれるのか、その根本的な原因を掘り下げて解説します。

都市に医療が集中し、地方は不足している

日本における医療格差の大きな要因のひとつが、都市集中型の医療体制です。都市部には多数の病院やクリニック、専門医が揃い、医療資源が豊富に存在します。一方で、地方や過疎地域では医療機関の数自体が限られ、医師や看護師の確保も困難な状態が続いています。この地域差により、地方では通院や受診に長時間を要したり、そもそも専門医の診療が受けられなかったりといった状況が生じやすくなります。特に、若手医師が都市部に偏る傾向が続いており、医師偏在が慢性化することが、医療格差の現状を悪化させる原因となっています。

医療費が増え、負担が重くなる

医療格差の原因の一つとして、医療費の増加による個人負担の重さが挙げられます。高齢化や医療の高度化により国全体の医療費は増加傾向にあり、厚生労働省の推計では2025年には国民医療費が対国民所得比で13.2%に達すると見込まれています。

参考元:社会保障に係る費用の将来推計について

これに伴い自己負担も増し、低所得世帯では受診控えや治療中断が現実的な問題となっています。さらに、地方では病院までの交通費や時間的制約が経済的負担に拍車をかけ、家計への影響も深刻です。このように医療費の重圧は、地域差と家計状況による医療アクセスの格差を拡大させる大きな要因の一つとなっています。制度の見直しと支援策の充実が急務です。

働き方改革が医療現場に与える影響

働き方改革は、医療現場にも大きな影響を与えています。長時間労働が常態化していた医師の勤務環境を改善するため、労働時間の上限が設けられましたが、これにより医師の労働力が制限され、特に人手不足の地域では診療時間の短縮や診療科の縮小が余儀なくされています。また、医師の負担軽減を目的とした制度が、かえって地域の医療提供体制を圧迫するケースもあります。都市部では医師の交代要員を確保しやすい一方で、地方では代替要員の確保が難しく、結果として医師偏在や地域差がさらに拡大する傾向にあります。医療格差の原因のひとつとして、働き方改革による人材分布の偏りも見逃せません。

医師や看護師が足りない地域の存在

日本では医師や看護師の総数は増加傾向にあるものの、地方や離島では人手不足が深刻です。勤務環境や生活の不便さから都市部に人材が集中し、地方では継続的な診療が難しい状況が続いています

これに対応するため、厚生労働省は「地域医療支援センター」や「ドクターバンク」制度を通じて医師の派遣や応援体制を整備していますが、長期定着にはつながりにくいのが実情です。また、看護師についても短期派遣や応援制度が活用されていますが、慣れない地域での業務には負担が大きく、離職率の高さも課題です。こうした制度の改善と現場ニーズに即した支援の強化が求められています。

高齢化や人口減少

日本では高齢化と人口減少が同時に進行しており、特に地方における医療格差の要因となっています。内閣府「令和5年版高齢社会白書」によれば、2025年には75歳以上の人口が約2,200万人に達し、全人口の約18%を占めると見込まれています。また、65歳以上の高齢者は30.0%に達し、3人に1人が高齢者という超高齢社会に突入します。都市部に若年層が集中し、地方に高齢者が残ることで、医療の需要と供給のバランスが大きく崩れています。慢性疾患を抱える高齢者が多い一方で、地域医療を支える人材や資源は乏しく、医療機関の縮小や撤退が進んでいます。このような地域差は、住んでいる場所によって医療の質や受けられるサービスに差が出る医療格差を一層深刻にしています。

参考元:令和5年版高齢社会白書(全体版)(PDF版) – 内閣府
参考元:人口動態調査 結果の概要|厚生労働省

医療格差が与える影響

医療格差は、単に医療サービスの受けやすさの違いにとどまらず、人々の健康状態や生活の質、さらには命にまで大きな影響を及ぼします。ここでは、こうした格差が個人や社会全体に与える具体的な影響について見ていきましょう。

健康寿命や死亡率への影響

医療格差は、地域ごとの健康寿命や死亡率に明確な差を生じさせています。厚生労働省の「健康寿命データ」(2022年)によると、最も長い神奈川県(男性73.1歳)と最も短い青森県(男性70.5歳)では約2.6年の差があります。人口動態統計でも、地方の一部では死亡率が都市部より高く、これは医療機関へのアクセスの悪さや医師不足に起因します。通院が困難な地域では、慢性疾患の管理が不十分になり、がんや心疾患の早期発見が遅れることも多いです。こうした状況は生活の質を低下させ、平均寿命の地域差にもつながっています。医療格差は、単なる利便性の違いではなく、命の長さと質に直結する重大な課題なのです。

参考元:健康寿命の令和4年値について

病院に行けない・治療を続けられない人が増える

医療格差が広がることで、物理的・経済的な理由から「病院に行けない」「治療を続けられない」人が増加しています。たとえば、地方では病院までの距離が遠く、公共交通の便も悪いため、通院に多くの時間と費用がかかります。高齢者や障がいを持つ方にとっては、それが医療へのアクセスを阻む大きな障壁となります。

また、都市部でも経済的困窮によって受診を控える人が少なくありません。継続的な通院や服薬が必要な慢性疾患の場合、治療中断は病状悪化のリスクを高め、結果的に重症化や救急搬送が必要になるケースもあります。

このように、医療を受ける機会が確保されないことが、さらなる医療費の増加や社会的損失を招く悪循環を生んでおり、医療格差の現状として非常に深刻な課題といえます。

高齢者や子ども、妊婦さんなど弱い立場の人への影響

医療格差は、特に高齢者や子ども、妊婦さんといった弱い立場の人々に深刻な影響を与えます。これらの人々は体調の変化に対する耐性が低く、適切なタイミングで医療を受けることが命に関わるケースも少なくありません。

たとえば、妊婦健診や乳幼児健診が十分に行えない地域では、リスクの早期発見が難しく、母子の健康を守ることが困難になります。また、認知症や持病を抱える高齢者が通院できない状況では、病状の悪化や転倒による重症化のリスクが高まります。都市部に比べ、地方では医療機関や専門医の数が限られており、このような地域差が健康格差を拡大させています。

こうした医療格差の現状を放置すれば、最も支援が必要な人たちが取り残される社会になりかねません。

医療格差をなくすためにできること

医療格差を解消するためには、制度の見直しや地域に根ざした取り組み、そして技術の活用が不可欠です。ここでは、私たちが今後どのような視点で行動すべきか、現実的な対策や取り組み例を交えてご紹介します。

医師を地方に増やすための工夫

医療格差の大きな要因の一つに医師偏在があります。都市部に医師が集中し、地方では慢性的な医師不足が続いています。これを解消するには、医師を地方に配置するための制度的な工夫が欠かせません。

たとえば、地域枠制度を通じて医学生に一定期間地方勤務を義務づける仕組みや、地方での診療にインセンティブ(給与や住宅補助など)を設ける対策が進められています。また、キャリアパスの選択肢を広げ、地域医療での経験が医師としての成長に繋がるような評価制度も必要です。さらに、医師だけでなく、看護師や保健師など他の医療スタッフも含めて、地域全体の医療提供体制を支える視点が求められます。

こうした取り組みを通じて、地域差のある医療資源のバランスを整えることが、医療格差の解消に直結します。

地域で支える医療の仕組み

医療格差を解消するためには、医療機関や医師に頼るだけでなく、地域全体で医療を支える体制づくりが重要です。

たとえば、住民同士の見守りや、訪問看護・訪問診療といった在宅医療の充実がその一例です。医師偏在が深刻な地域では、看護師や薬剤師、介護福祉士などの多職種連携が欠かせません。地域包括ケアシステムの導入も進められており、自治体や地域の医療・福祉機関が一体となって支援体制を構築することで、医療へのアクセスの地域差を緩和する効果が期待されています。また、地元住民による健康教室や予防活動の推進も、医療需要を減らし地域全体の健康意識を高める要素となります。

こうした地域密着型の取り組みが、医療格差の現状に立ち向かう有効な一歩となります。

遠隔診療やデジタル化の活用

医療格差の解消に向けて、注目されているのが遠隔診療や医療のデジタル化です。特に、地方や離島など医師が不足している地域では、オンラインで医師とつながることで、受診のハードルを大きく下げることができます。スマートフォンやタブレットを使って診察を受け、処方箋も電子的に発行される仕組みが整えば、通院の負担が軽減され、地域差による不平等も緩和されます。また、電子カルテやAI診断の活用によって、医師の業務効率が上がり、より多くの患者に対応できる体制も整えられます。こうした医療のデジタル化は、医師偏在や医療資源の不足という現状に対する実効性あるアプローチであり、今後の医療のあり方を大きく変える可能性を秘めています。

医療格差のよくある質問

医療格差について関心を持つ人が増える一方で、具体的な対処法や支援制度に関する疑問を持つ方も少なくありません。ここでは、医療格差に関するよくある質問とその回答を通じて、実生活で役立つ情報を整理していきます。

Q1. 地方や離島で医療を受けるにはどうしたらいい?

地方や離島で医療を受けるには、地域の診療所や自治体が提供する訪問診療・巡回診療を活用するのが一つの方法です。また、遠隔診療を導入している医療機関を利用すれば、オンラインで医師の診察を受けることも可能です。自治体の健康相談窓口や保健所も、地域の医療資源を紹介してくれる心強い存在です。

Q2. 経済的に困ったときに使える制度は?

経済的に医療費の負担が難しい場合、「高額療養費制度」や「医療費控除」が活用できます。住民税非課税世帯には「限度額適用認定証」も有効で、支払い上限を抑えることが可能です。また、自治体によっては「子ども医療費助成制度」や「生活保護制度」で医療費の軽減が受けられる場合もあります。こうした制度を知り、正しく申請することが医療格差の緩和につながります。

Q3. 医療費が高くて困ったときは?

医療費が家計を圧迫する場合、「高額療養費制度」を利用することで自己負担額の上限を超えた分が払い戻されます。また、「医療費控除」を確定申告で申請すれば、税金の一部が還付される可能性もあります。低所得世帯には「限度額適用認定証」や、自治体独自の医療費助成制度も活用できます。こうした制度の理解と活用が、地域差による医療格差の軽減につながります。

Q4. 妊婦さんや子ども、高齢者向けの支援は?

妊婦や子ども、高齢者など配慮が必要な人々には、各自治体が医療費助成や健診補助などの支援を行っています。たとえば、妊婦健診の補助券や、乳幼児医療費助成制度、高齢者向けの健康診査制度などが代表例です。医療格差が地域差や医師偏在によって拡大する中で、これらの支援は重要な役割を果たします。制度の内容は地域ごとに異なるため、自治体の窓口で最新情報を確認することが大切です。

Q5. 医療格差について相談できる場所は?

医療格差について悩んでいる場合、まずは各自治体の保健所や福祉課に相談してみましょう。また、地域医療支援センターや社会福祉協議会も支援制度や医療機関の紹介を行っています。NPO団体や地域包括支援センターでは、医療の地域差や医師偏在に関する相談にも対応してくれることがあります。インターネットでも情報収集は可能ですが、具体的な支援策は地域によって異なるため、信頼できる窓口に直接問い合わせるのが安心です。

まとめ

医療格差は、地域差や医師偏在、医療費負担の違いなど複数の要因から生じ、子どもや高齢者など弱い立場の人々に深刻な影響を与えています。遠隔診療や支援制度の充実など解消に向けた対策も進んでいますが、誰もが安心して医療を受けられる社会の実現には、制度の整備と一人ひとりの関心が不可欠です。医療格差の現状を正しく理解し、声を上げることが、未来の医療を変える第一歩です。

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