ユマニチュードは「人間らしさを取り戻す」という意味を持つフランス発祥のケア技法です。見る・話す・触れる・立つという4つの柱を軸に、相手の存在を尊重しながら心と身体に寄り添うコミュニケーションが特徴です。
特別な道具を必要とせず、現場や家庭介護でも実践しやすく、認知症の方の安心感や穏やかな表情につながる手法として注目されています。信頼と優しさのケアを求めるきっかけに、ユマニチュードの技法や哲学を詳しく解説します。
ユマニチュードとは?

ユマニチュードは、介護や看護の現場で注目されている人間らしさを大切にするケア技法です。その語源や定義について解説します。
ユマニチュードの語源と定義
ユマニチュードとは、フランスで生まれた介護や看護のためのコミュニケーション技法で、「人間らしさを取り戻す」という意味を持っています。語源はフランス語の「Humanitude(ユマニチュード)」で、Human(人間)とAttitude(態度)を組み合わせた言葉です。つまり「人間に対する姿勢」「人間性を尊重する態度」を指しています。
単なる介助技術ではなく、目を見て、言葉をかけ、優しく触れ合い、立位を維持するなど、人としての尊厳を守るための方法論です。その本質は「介護を受ける人の尊厳を守る」ことにあり、特に認知症の介護や看護の現場で注目されています。
日常のケアを通じて安心感を与え、相手との信頼関係を深めることを目的にしているのがユマニチュードの大きな特徴です。
誰が提唱し、どのように生まれたのか
ユマニチュードは、フランス出身のイブ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏によって提唱されました。1970年代、彼らは看護師や介護職として実際に現場に立ち、認知症をはじめとする高齢者ケアの困難さに直面しました。
その経験をもとに「人間らしさを大切にしたケア」の必要性を感じ、研究と実践を重ねながら体系化したのがユマニチュードです。当初はフランスの介護や看護教育で用いられましたが、対象者の表情や態度の変化、介護者側の心理的負担軽減といった具体的効果が注目され、看護学や認知症ケアの分野で広く知られるようになりました。
その後、日本を含む各国に紹介され、ユマニチュード研修という形で医療・介護従事者の間でも広まりつつあります。
日本での導入と広がり
ユマニチュードは2007年頃に日本へ紹介され、その丁寧で人間らしさを重視するケア方法が徐々に注目されるようになりました。最初は主に看護や介護の専門職向けに紹介されましたが、認知症介護の場面で「穏やかな関わり方ができる」「介護を受ける人の表情が柔らぐ」といった効果が数多く報告され、全国的に広がりを見せています。
特に高齢化が進む日本社会では、ユマニチュードとは何かを知りたいという関心が高まり、医療機関、介護施設だけでなく在宅介護の場でも導入が進んできました。国内ではユマニチュード研修が定期的に開催され、医療従事者や介護士、時には家族介護者が参加するケースも増えています。また、研修だけでなく書籍や動画教材なども整備され、専門用語に馴染みがなくてもユマニチュードをわかりやすく学べる環境が整ってきました。
その一方で「実践には時間がかかる」「現場全員が理解していないと難しい」といった声もあり、今後は導入をスムーズにするための仕組み作りが課題となっています。それでも「尊厳を守る介護」という理念は日本の文化や価値観に強く響き、多くの介護現場で選ばれる方法となりつつあります。
ユマニチュードの「4つの柱」とは
ユマニチュードが提唱する4つの柱は、ケアの現場で「あなたを大切に思っている」気持ちを伝える大切な技術です。
ユマニチュードの柱 | 実践ポイント | 具体的な実践例 |
---|---|---|
見る技術 | 相手の目をやさしく正面から見る | ケアの最初に、相手の目を3秒以上見て「おはようございます」と声をかける |
話す技術 | 穏やかな声のトーンで、肯定的な言葉を繰り返す | 「ありがとうございます」「一緒にやりましょうね」と繰り返し声かけする |
触れる技術 | 思いやりを込め、柔らかく落ち着いたタッチをする | 服を着せる際に肩や腕に手を添え「大丈夫ですよ」と声をかけながら触れる |
立つ技術 | 可能な限り立位を保ち、身体機能や尊厳を支える | 食事前やトイレ移動の際に安全に支えて立つ練習を取り入れる |
上記の特徴を知ったうえで、次の項目ではそれぞれどのような技術なのかをみていきましょう。
「見る」技術
ユマニチュードにおける「見る」技術とは、ただ視線を送るだけでなく、相手の尊厳を守るためにどのように目を合わせるかを重視する方法です。具体的には、相手の目を正面から優しく見つめることで「あなたの存在を大切に思っています」というメッセージを伝えます。
この視線のやり取りは、認知症の方や介護を受ける人に安心感を与え、心を開きやすい環境を作ります。逆に視線を避けたり急に強い目つきで見たりすると、不安や拒否的な反応を引き起こすことがあります。ユマニチュードとは、こうした日常的な行為を細やかに意識化し、相手との信頼関係を築くための技術を体系化したものです。
特に認知症ケアにおいては、視線の使い方ひとつで相手の行動や感情に大きな違いが生まれるため、この「見る」技術は非常に重要な柱のひとつとされています。
「話す」技術
ユマニチュードにおける「話す」技術は、単に言葉をかけるのではなく、声のトーンやスピード、言葉の内容を工夫して相手に安心感を与えることを目的としています。
認知症ケアの場面では、短く優しい言葉をゆっくりと繰り返すことで、相手に理解してもらいやすくなります。また、肯定的な表現を多く使うことで「自分が受け入れられている」という感覚を持ちやすくなり、不安や拒否的な反応を和らげられます。相手の名前を呼ぶ、感謝を伝えるなど、日常の会話の中に尊重の気持ちを込めていくことが大切です。
ユマニチュードとは、人間性に基づいたコミュニケーションを積み重ねることで信頼関係を築くことにあります。そのため、「話す」技術は、単なる情報伝達ではなく、心をつなぐ重要な役割を持っているのです。
「触れる」技術
ユマニチュードにおける「触れる」技術は、介護者の手の使い方や身体への接し方を工夫し、相手に安心と尊重を伝える方法です。認知症の方は言葉だけでは不安を解消できない場合が多く、柔らかく落ち着いたタッチによって「あなたは大切な存在です」というメッセージを感じ取ります。一方で、突然強くつかむ、乱暴に動かすといった行為は恐怖や拒否反応を招く可能性があります。
そのため、ユマニチュードとは「人間らしい優しい接触」を明確な技術として体系化し、看護や介護の現場で実践されています。具体的には、手を添えてゆっくり支える、抱えるときに声をかけながら触れるなど、小さな動作の積み重ねが信頼関係を深めます。「触れる」という柱は、身体を介した非言語コミュニケーションの重要性を教えてくれるのです。
「立つ」技術
ユマニチュードの「立つ」技術は、可能な限り立位の姿勢を維持・支援することで、身体機能の低下を防ぎ、生活の質を守ることを目的としています。人が立つという動作は、単なる身体運動ではなく、自尊心や社会性の維持にも深く関わっています。長く座ったままや寝たきりの状態が続くと、筋力の低下だけでなく「自分は何もできない」という気持ちが強くなり、認知症の進行や意欲の低下にもつながりかねません。
ユマニチュードとは、この「立つ」行為を積極的に取り入れることで、介護される人の尊厳を守り続ける方法論だと言えます。安全に支えながら立つことで、血流や呼吸も改善し、生活リズムの安定にも貢献します。
看護や介護の現場では、短時間でも立位を促す取り組みを積み重ねることで、心身の健やかさを保つ効果が期待されています。
ユマニチュードの「5つのステップ」
出会いからケアの終了、次回への予告まで、ユマニチュードは5つのステップで「信頼」を積み重ねます。
Step1:出会いの準備
ユマニチュードの出会いの準備とは、ケアを始める前に「これから関わりますよ」という合図を相手に伝えるプロセスです。突然介助を始めると、認知症の方は驚いたり不安になったりしやすいため、まず安心できる雰囲気を作ることが大切です。
具体的な実践方法としては、ドアをノックして間をおいてから入室し、相手の正面に回って目を合わせ、やわらかい笑顔で挨拶をします。さらに名前を呼びながら「今から一緒にお食事の準備をしましょうね」など目的を伝えると良いでしょう。
声のトーンは落ち着き、ゆっくりとしたリズムを心がけます。この準備の一連の流れにより、相手は状況を理解しやすくなり、信頼関係を築く第一歩となります。
Step2:ケアの準備
ユマニチュードのStep2「ケアの準備」は、実際の介助に入る前に、相手が不安を感じにくいように段階的に心と体を整えるプロセスです。突然体に触れるのではなく、まず声で「今から移動のお手伝いをしますね」と伝え、次に手を差し出して優しく触れ、徐々に動作につなげます。
実践方法としては、ケアの目的を明示する(例:「これからお食事です」)、相手の同意を確認する、そして介助の動きをゆっくり始めると効果的です。さらに「一緒にやりましょう」といった前向きな言葉を添えることで安心感が増します。
このステップを丁寧に行うことで、相手は介助を受け入れやすくなり、介護する側もスムーズにケアを進めることができます。
Step3:知覚の連結
ユマニチュードのStep3「知覚の連結」は、視覚・聴覚・触覚といった複数の感覚を同時に使って相手とのつながりを深めるプロセスです。認知症の方は一つの感覚だけでは状況を理解するのが難しいことが多いため、目を見て話し、同時に優しく触れることで理解や安心感が増します。
実践方法としては、相手の名前を呼びながら目を合わせ、その手に軽く触れて同時に声をかける、といった三つの動作を組み合わせるのが効果的です。例えば「〇〇さん、一緒にお食事ですよ」と伝えながら、目を見て手を握ることで、聴覚・視覚・触覚が連動し、情報が脳内により鮮明に伝わります。
この連結は相手の混乱を防ぎ、安心感を与える重要なステップです。ユマニチュードとは、こうした感覚の橋渡しを通じてコミュニケーションを豊かにする技術だといえます。
Step4:感情の固定
ユマニチュードのStep4「感情の固定」は、介護の最中や終了後に「心地よい体験だった」と感じてもらえるよう、ポジティブな感情を相手の記憶に残すプロセスです。
認知症の方は細かな出来事を忘れてしまうことがありますが、嬉しい・安心したといった感情は長く残りやすい特徴があります。実践方法としては、ケアが終わった後に微笑みながら「今日はよく頑張りましたね」「一緒にできて嬉しかったです」と言葉をかける、手を優しく握って感謝を伝えるなどがあります。視線・表情・触れ方を合わせて用いることで、その良い感情は強く固定されやすくなります。
こうして日々の介護が「安心できる時間」として積み重なることで、信頼関係が深まり、次の介助を受け入れやすくなるのです。
Step5:再会の約束
ユマニチュードのStep5「再会の約束」は、ケアが終わった後に「また会いましょう」という前向きなメッセージを伝えることで、次回への安心感と信頼感をつなげるプロセスです。認知症の方は時間の感覚が曖昧になりやすいため、別れ際に「また後でお茶を一緒に飲みましょうね」「次は夕食のときに伺いますよ」と声をかけることが効果的です。
実践方法としては、優しい表情で視線を合わせ、軽いタッチや手を握りながら約束を言葉にするのがポイントです。この小さな行動が「自分は一人ではない」という安心感を強め、介護への前向きな気持ちを持ちやすくします。
認知症ケアにおけるユマニチュードの効果
ユマニチュードの効果は、認知症の方の穏やかな表情や精神安定など、実践現場で多くの変化が報告されています。
ケアを受ける側の行動・表情の変化
ユマニチュードの認知症ケアでは、ケアを受ける方の攻撃的言動や拒否反応が減り、表情が柔らかくなり心が穏やかになる事例が多く報告されています。たとえば、平野東図書館前病院では導入から3ヶ月で51名中33名が身体拘束を受けていた状況から、身体拘束ゼロを達成し、患者様の笑顔や自立した生活動作(ADL)が改善したという成果が得られています。
ほかにも、口腔ケアに強い拒否を示していた認知症患者が、継続的なユマニチュード実践で徐々に表情が穏やかになり介助を受け入れるようになったというような事例がみられます。さらに日本各地の医療・介護施設でも、「表情がやわらかくなった」「穏やかになった」という声が多く寄せられ、有効性が現場レベルで確かめられています。
参考:ユマニチュード導入 3 か月で、身体拘束ゼロを達成! – 南港病院|大阪市住之江区北加賀屋
ケアする側の負担軽減と心理的効果
ユマニチュードを導入した認知症介護の現場では、介護スタッフの心理的負担が大幅に軽減されるという声が多く挙がっています。実際の現場では、従来は拒否や暴力行為への対応が中心になりストレスを感じていたスタッフが、4つの柱(見る・話す・触れる・立つ)を意識したユマニチュードの実践によって、ケアの一つ一つに自信と余裕、肯定的な関わりをもてるようになったと報告されています。導入施設では「ケアの失敗体験や悩みをスタッフ同士で共有し、共感し合えることがストレス軽減につながった」「利用者との距離が縮まり楽しさを感じる場面が増えた」といった定性的効果が示されています。
さらに、専門カリキュラムや勉強会を通した研修でユマニチュードの理解を深めることで、ケアの質が向上するとともに達成感・充実感を得るスタッフも増加しています。介護者自身が穏やかな気持ちで日々の仕事に臨めることは、認知症ケア全体の質や現場の雰囲気向上にもつながるとされています。
参考:日本ユマニチュード学会
ユマニチュード研修と学びの方法
研修は対面・オンライン・動画教材など多彩に広がり、初心者から専門職まで幅広く学べる環境が整っています。
対面研修・動画学習などの選択肢
ユマニチュードの学び方には対面研修、動画講座、書籍などさまざまな選択肢があります。近年は介護施設だけでなく在宅介護者を対象としたオンライン講座も増えており、現場で働くスタッフから家族まで幅広く学ぶ環境が整ってきています。
対面型研修では、ユマニチュードの4つの柱や5つのステップを実際のケア現場で体感しながら身につけられる点が特徴です。動画学習やeラーニングは自分のペースで学べるため、忙しい人にもおすすめです。とくに「見る・話す・触れる・立つ」の基礎動作を動画で繰り返し見られることで、具体イメージが定着します。実践的な研修事例としては、フランスや日本各地で数千人規模の介護スタッフがユマニチュードを学び、認知症ケアの質向上や定着率、スタッフ間の共感力を高めているという報告もあります。
このように現場に即した体験型からオンラインまで、ニーズに合わせて最適な研修スタイルを選択できる時代になっています。
個人と法人で異なる学びのニーズ
ユマニチュード研修は、個人と法人で求められる内容や学び方が異なります。法人(医療・介護施設)ではスタッフ全体のケア意識統一や現場習得を目的に、集合研修やグループワークなど参加型の学びが重視されます。
実際に介護付有料老人ホーム「フェリオ百道」のような現場では、ユマニチュードのプロジェクトチームを立ち上げ、食事や排泄介助など日常ケアの場面ごとに「見る・話す・触れる」を組み合わせる具体的な行動項目を提示して成果を上げています。個人(家族介護者や看護師)は、手軽な動画教材やeラーニング、書籍を活用し、介護現場ですぐ試せるスキルや共感体験を強く求める傾向があります。
中でも「受講後すぐに母のケアで実践し、拒否反応が減った」といった事例や、「接し方に自信がつき、毎日の介護で安心感を持てるようになった」という感想も多く、個別相談や体験シェアも積極的に行われています。このように法人は組織的・体系的な研修、個人は実践的・共感型の学びがニーズとして分かれているのが特徴です。
参考:トラストガーデン
研修スタイル別の特徴と費用
ユマニチュード研修には、対面型とオンライン型の大きく2つのスタイルがあります。対面研修は集団または現場での参加型が多く、講師やインストラクターによる実技指導やロールプレイを通じて基本動作・考え方を体ユマニチュードには「効果を感じにくい」「忙しすぎて実践しにくい」など現場の課題や批判も一定数存在します。
参加費は1万円台から数万円程度(法人単位では年間契約や出張型もあり、数十万円規模になる事例あり)。オンライン講座や動画教材は、1講座数千円から受講可能で、自宅介護者や個人の学習ニーズにも対応しています。特に個人向けは短時間でも隙間学習でき、専門用語や事例を交えて基礎~応用まで幅広い内容が充実しています。
法人向け導入では、研修効果の測定や継続フォロー体制が付くことも多く、「学んで終わり」ではなく現場への定着までサポートされています。費用や学習目的は施設や受講者によって変わるため、事前に公式サイトや案内資料で内容・価格・研修実績を確認するのがおすすめです。
ユマニチュードへの批判とその対応
ユマニチュードには「効果を感じにくい」「忙しすぎて実践しにくい」など現場の課題や批判も一定数存在します。
ユマニチュードは本当に効果があるのかという疑問がある
ユマニチュードは「本当に現場で効果があるのか?」という疑問に対し、多くの医療・介護施設で具体的な成果が報告されています。例えば、導入事例の中では認知症の方の攻撃的言動や拒否反応が減り、表情が穏やかになる、身体拘束ゼロの施設に変化したといった効果が複数あります。
また、全国でユマニチュード研修参加者の満足度が高く「現場ですぐ活かせた」「自信を持って介護に臨めるようになった」といった声も多く寄せられています。
参考:日本ユマニチュード学会
「実践が難しい」「高コスト」といった現場の声
ユマニチュードは現場での定着が難しい、研修費用が高いといった声も出ています。特に介護施設や医療機関では、スタッフ全体で同じケア意識を持つまでに時間と労力がかかる、仕事量との両立が大変、と感じるケースが少なくありません。また、集合型対面研修は数万円~十万円以上かかることもあり、小規模事業所や個人では参加のハードルを感じる人もいます。
オンライン型や自主学習教材の普及が進みつつありますが、ロールプレイや実践指導まで受けるには相応の投資が必要です。推奨されるのは、まず動画や書籍で基礎知識を得て、小さな成功体験を積みながら少しずつ継続すること。公式サイトや認定研修ページで内容や費用を事前に確認し、必要に応じて自治体・法人単位での助成やサポート活用も検討すると導入がスムーズです。
ユマニチュードの導入成功事例
ユマニチュードを導入した現場では、認知症の方の攻撃性や拒否反応が減り、精神的に安定した・穏やかな表情を示すケースが実際に増えています。
例えば、福岡県の介護施設ではスタッフ全体でユマニチュードを導入した結果、身体拘束ゼロを達成し、利用者自身の「自分でできること」が増えたといった報告があります。医療機関や有料老人ホームでの研修・実践事例が増えており、「利用者の安心感と自発性が増した」「スタッフのケアストレスやバーンアウトが減った」といった定性的・定量的成果も得られています。
一方で、現場定着や費用面の課題を乗り越えるため、オンライン研修や eラーニング、自治体による支援制度など新たな導入パターンも出てきています。実際の成功事例は公式サイトや医療福祉関連情報サイトで確認できます。
参考:認知症ケアの「ユマニチュード」とは?自治体や施設でも取り入れられています
ユマニチュードに関するよくある質問
ユマニチュードに関しては初心者から現場スタッフまで、多くの疑問や悩みが寄せられています。代表的な質問とその解説を紹介します。
ユマニチュードとはどんな介護技法ですか?
ユマニチュードとは、「人間らしさを取り戻す」という理念に基づいた、認知症の方や高齢者を対象とするフランス発祥のケア技法です。
見る・話す・触れる・立つという「4つの柱」を軸に、相手の尊厳を守りながら対話や身体介助を行うための体系的アプローチが特徴です。その実践を通じて、介護される人の安心感や穏やかな気持ちを引き出すとともに、介護者自身の負担軽減にもつながります。
ユマニチュードの「4つの柱」や「5つのステップ」は具体的に何を指すのですか?
ユマニチュードの「4つの柱」とは、見る・話す・触れる・立つという4つの基本技術で、これらが介護のコミュニケーションの軸になります。
また「5つのステップ」は、出会いの準備、ケアの準備、知覚の連結、感情の固定、再会の約束で構成され、ケアの流れを体系的に組み立てる具体的手順です。これら両方が、認知症ケア・看護現場で利用者の安心感や人間らしさを守る基礎となっています。
認知症の方や高齢者に対して、ユマニチュードの実践で一番大きな効果やメリットは何ですか?
ユマニチュードを実践することで、認知症の方や高齢者が安心して人と関われるようになり、拒否や攻撃的な言動が減り穏やかな表情が増えるのが最大のメリットです。
介護者との信頼関係が深まり、自発的な生活動作や社会的なつながりも高まるなど、心身両面でQOLが向上します。
家族介護者や介護初心者でも、ユマニチュードを実践できますか?特別な資格や準備は必要ですか?
ユマニチュードは専門職だけでなく、介護初心者や家族介護者でも取り入れやすい技法です。
特別な資格や大がかりな準備は不要で、書籍・動画・研修で基本を学び、日々のコミュニケーションや介護場面に少しずつ取り入れることが可能です。初めてでも実践例を参考にすることで効果を感じやすくなります。
ユマニチュードを現場で続ける際、よくある失敗・実践上の難しさや注意点にはどんなものがありますか?
ユマニチュードの現場実践で多い失敗は、忙しさから「見る・話す・触れる」を意識しないまま流してしまうことや、効果を性急に求めすぎることです。
また、施設内でスタッフ全体の意識が揃わない場合、孤立感や実践の壁を感じやすい点も。根気よく、仲間と工夫しながら継続する配慮が重要です。
まとめ
ユマニチュードは、介護を受ける人・する人双方の尊厳と安心を守るための本質的なコミュニケーション技法です。4つの柱と5つのステップを日常ケアに取り入れることで、認知症の方の拒否や不安が減り、家族や現場スタッフも穏やかに関われる時間が増えていきます。そしてこの「人間らしさ」を守るまなざしや丁寧な関わり合いは、介護現場のみならず多様な人々の生活・地域社会にも広がり、SDGsがめざす「誰一人取り残さない社会」の基盤になります。
持続可能なケア社会を拓くためには、ひとりひとりが「見る・話す・触れる・立つ」の実践を小さく始め、安心して学び合える場を身近に作ることが重要です。自治体や介護事業者が取り組むユマニチュード研修も、未来にむけて共感と協力を生む重要なサポートとなります。この記事を読んだ方は、まず「今日の身近な一場面」から、理想的な寄り添い方・声かけ・触れ方を意識し、周囲の家族や職場、地域とも情報を共有してみてください。
ユマニチュード的なケアは、次世代の介護や地域づくりにつながる大きな可能性となります。小さな一歩をともに重ね、持続可能な温かなケア社会を目指しましょう。