発達性トラウマ障害(DTD)は、幼少期の虐待・ネグレクト・継続的ないじめなどの慢性的なトラウマ体験により、感情や行動、対人関係に長期的な影響を及ぼす障害です。
発達性トラウマ障害(DTD)の最大のデメリットは、成人後に「生きづらさ」を抱えても原因が明確にならず、発達障害や性格の問題と誤解されてしまう点です。その結果、適切な支援を受けられずに苦しむケースも少なくありません。
一方でメリットとしては、原因が分かれば治療方針が立てやすく、回復の見通しも立てられることが挙げられます。
本記事では、発達性トラウマ障害(DTD)の具体的な症状や診断基準、発達障害・愛着障害との違い、チェックリスト、そして治療方法を解説します。
発達性トラウマ障害(DTD)とは?

発達性トラウマ障害(DTD)は、慢性的なトラウマ体験が子どもの発達に深刻な影響を及ぼす心理的障害です。児童期の繰り返される虐待やネグレクト、家庭内暴力、継続的ないじめなどがきっかけとなり、安全感や信頼感が育たず、情緒・対人・自己認識のあらゆる面で困難を抱えるようになります。
特に問題なのは、本人が自分の状態を「異常」と認識しにくく、周囲も見逃してしまう点です。例えば、大人になってから「人を信じられない」「自己否定が強い」「感情のコントロールが効かない」などの形で苦しんでいても、それが過去のトラウマによる影響だと気づかないまま日常を送っているケースが多くあります。
この障害はまだ正式な診断名ではないものの、PTSDとは異なり「発達段階の脳と心の歪み」が蓄積される点に重きが置かれています。つまり、「育ちの中で生まれた“こころの深い傷”」を無視していては、根本的な改善に至りません。
発達性トラウマ障害(DTD)と発達障害の違い
| 項目 | 発達性トラウマ障害(DTD) | 発達障害 |
|---|---|---|
| 原因 | 幼少期の虐待やネグレクトなど、 後天的な心理的ストレスが要因 | 脳機能の特性による、 先天的・生まれつきのもの |
| 行動の背景 | 危険に対する防衛反応や過覚醒、 突発的な怒りやフリーズ反応など | 脳の情報処理の偏りや 構造的な特性が影響 |
| 対人関係の特徴 | 愛着の混乱や不信感から 関係構築が困難になる | 距離感の取り方や 空気の読みづらさに起因 |
| よく見られる症状 | 衝動的な行動、不安定な感情、 自己否定感、過覚醒など | 感覚過敏、こだわり、不注意、 多動などの特性 |
| 支援の方向性 | トラウマ体験への心理療法が中心。 安全な人間関係の構築が重要 | 認知行動療法、環境調整、 薬物療法の併用が一般的 |
| 診断の難しさ | 他の障害と重なることが多く、 トラウマ歴の丁寧な聴取が必要 | 生育歴と現在の特性から 比較的診断されやすい |
| 改善の見込み | 適切な心理的支援により 回復が見込まれる | 特性そのものの改善は難しいが、 適応力を高めることが可能 |
発達障害は、生まれつきの脳の機能的な特徴によるものです。情報の処理方法や脳の構造が関係していて、遺伝も影響すると考えられています。家族に同じような特性を持つ方がいることもあり、成長の過程で環境よりも、元々の性質として現れやすいです。
発達障害への支援は、特性を受け入れながら、生活しやすいように工夫することが大切です。発達障害は、成長の過程や今の行動などから、比較的診断しやすいですが、特性を根本的に治すのは難しいとされています。
一方、発達性トラウマ障害(DTD)は、生まれた後の環境が大きく影響します。幼い頃に虐待や無視といったつらい経験が繰り返されると、安心できる心が育たず、それが慢性的なストレスになります。
トラウマになった経験を整理することが大切で、適切な心理的なサポートを受けられればつらい体験を整理して、心の回復が期待できます。
つまり、発達障害は生まれ持った特性であり、DTDは成長過程での環境によって形づくられる障害だといえます。両者は症状が似ている場合もありますが、その出発点は根本的に異なります。
発達障害は特性との共生が軸となり、DTDは回復の可能性を目指すことが大きな違いです。
発達性トラウマ障害(DTD)と愛着障害の違い
| 項目 | 発達性トラウマ障害(DTD) | 愛着障害 |
|---|---|---|
| 原因 | 幼少期の虐待・ネグレクトなど、反復的で長期的なトラウマ体験が要因 | 養育者との愛着形成に失敗(拒否・無関心・過干渉など)によって発症 |
| 行動の背景 | 防衛反応や慢性的なストレスに対する生理的過覚醒・フリーズ反応が影響 | 安心・安全の欠如により対人不信や過剰依存など、特定の関係に強く反応 |
| 対人関係の特徴 | 愛着の混乱に加え、広範な人間関係で自己否定・孤立感が生じやすい | 養育者や特定の他者に対する過剰な不信や距離感の問題が中心 |
| よく見られる症状 | 感情の不安定さ、自己否定、解離傾向、対人回避、攻撃性、過覚醒など | 拒絶への過剰反応、過剰な依存・無関心、怒り・悲しみの表出困難 |
| 支援の方向性 | トラウマ記憶の整理、安全感の再構、愛着支援を統合的に行う心理療法が中心 | 安定した関係の中で愛着の再構築を促す、関係志向的アプローチが中心 |
| 診断の難しさ | 愛着障害や他の発達障害と誤認されやすく、トラウマ歴の詳細な把握が必要 | 明確な養育環境の問題が手がかりに なりやすく、症状が特定の関係に限定される |
| 改善の見込み | 心理的安全性と長期的な支援により回復可能 | 安定した愛着関係の構築で信頼感や自己肯定感が回復しやすい |
愛着障害と発達性トラウマ障害(DTD)は、どちらも養育者との関係に由来する点で混同されがちです。しかし、対象となる症状の幅や深さに違いがあり、区別して理解することが支援の質に直結します。
発達性トラウマ障害(DTD)は、幼少期の虐待やネグレクト、家庭内の慢性的な暴力的体験など、反復的で長期的なトラウマ体験が原因で生じます。この経験により、不安定型や混乱型のアタッチメントが形成され、自己調節能力や感情の調整、対人関係能力に広く影響します。
一方、愛着障害は、重度のネグレクトや施設養育などによって適切な愛着形成が行われなかったことが主因で、アタッチメント行動が十分に発動しない仮死状態が特徴です。
つまり、DTDはトラウマの影響が多面的に広がるのに対し、愛着障害は特定の関係性におけるアタッチメント欠如が中心という違いがあります。
発達性トラウマ障害の支援は、トラウマ記憶の整理や安全感の再構築に加え、愛着支援を統合的に行う心理療法が中心です。
愛着障害の治療は、安定した関係を継続的に提供し、アタッチメントシステムを治すことに重点が置かれます。DTDは広範な心理機能の回復を目指すことで、愛着障害は特定の関係における信頼感や、自己肯定感の回復を中心としたアプローチをするのが適しています。
発達性トラウマ障害(DTD)と複雑性PTSDの違い
| 項目 | 発達性トラウマ障害(DTD) | 複雑性PTSD |
|---|---|---|
| 原因 | 幼少期の虐待・ネグレクトなど、反復的で長期的なトラウマ体験が要因 | 長期に渡る虐待やDV、戦争といった長期反復的なトラウマが原因 |
| 行動の背景 | 防衛反応や慢性的なストレスに対する生理的過覚醒・フリーズ反応が影響 | 通常のPTSDと同じくフラッシュバックなどだけでなく、感情の過剰もしくは乏しさ |
| 対人関係の特徴 | 愛着の混乱に加え、広範な人間関係で自己否定・孤立感が生じやすい | 対人関係の維持ができず、他社に親密感を抱けない |
| よく見られる症状 | 感情の不安定さ、自己否定、解離傾向、対人回避、攻撃性、過覚醒など | 自分自身に価値がないと感じる、欠陥があるなど否定的になる。他社を信頼できない |
| 支援の方向性 | トラウマ記憶の整理、安全感の再構、愛着支援を統合的に行う心理療法が中心 | 安全・安心感を確保するのがもっとも重要。情緒や対人関係スキルの習得 |
| 診断の難しさ | 愛着障害や他の発達障害と誤認されやすく、トラウマ歴の詳細な把握が必要 | 症状が広範囲にわたるため、診断は難しい。他の精神疾患との区別がつかない場合がある。 |
| 改善の見込み | 心理的安全性と長期的な支援により回復可能 | 適切な治療を継続することで改善が認められるものの、慢性化する可能性がある |
発達性トラウマ障害(DTD)と複雑性PTSDの違いは、発症する時期が挙げられます。発達性トラウマ障害(DTD)が発症するのが多いのは、幼少期なのに対して複雑性PTSDでは、青年期以降も多くみられます。
症状にも違いがあり、発達性トラウマ障害(DTD)は、特に幼少期からの影響を受けるため、心や脳の成長が妨げられる可能性があります。複雑性PTSDは、自分自身に自信が持てず人間関係がうまく築けないといったことが挙げられます。
主な原因も異なり、発達性トラウマ障害(DTD)は幼少期の慢性的なトラウマが原因となりますが、複雑性PTSDは幼少期に限らず長期的で反復的なトラウマが原因となっています。
わかりやすいのは戦争などのトラウマが原因で発症してしまうのが、複雑性PTSDです。
改善するためには、発達性トラウマ障害(DTD)は心理的な安心感や長期的に支援を行うことで改善が見込めます。一方で複雑性PTSDは、安心安全な環境で継続的な治療を継続することが重要ですが、慢性化してしまう可能性も考えられます。
発達性トラウマ障害(DTD)の症状
発達性トラウマ障害(DTD)は、幼少期に繰り返し受けた心理的ショックが心の成長に影響を及ぼし、大人になっても生きづらさを抱える原因となる障害です。
表面化する症状は多岐にわたり、本人や周囲が気づきにくいことも少なくありません。「性格の問題」や「育ち方のせい」と誤解されやすいため、適切な支援が遅れる傾向もあります。
ここでは、大人に多く見られる代表的な症状を、感情面と対人関係の観点からご紹介します。いずれも日常生活に大きく影響を及ぼすため、早期の理解と対応が大切です。
感情の波が大きく、突然不安定になることがある
発達性トラウマ障害を持つ方は、感情の起伏が激しく、ささいな刺激に過剰反応してしまうことがあります。
不意に怒りがこみ上げたり、涙が止まらなくなったりすることもあり、本人が最も戸惑う場面です。
これは、幼いころに安心できる環境で感情を受け止めてもらえなかった経験が、心の中に積み重なった結果といえます。
こうした感情の不安定さは慢性的な不安や緊張感につながり、心身の消耗を引き起こしやすくなります。
対人関係に強い不安を抱き、距離感の調整が難しくなる
発達性トラウマ障害を持つ方は、感情の起伏が激しく、ささいな刺激に過剰反応してしまうことがあります。
不意に怒りがこみ上げたり、涙が止まらなくなったりすることもあり、本人が最も戸惑う場面です。
これは、幼いころに安心できる環境で感情を受け止めてもらえなかった経験が、心の中に積み重なった結果といえます。
こうした感情の不安定さは慢性的な不安や緊張感につながり、心身の消耗を引き起こしやすくなります。
なぜ発達性トラウマ障害は生きづらいと言われているのか?
発達性トラウマ障害(DTD)は、幼いころに繰り返された心の傷が、成長過程で心や脳の発達に深い影響を与える障害です。外見からはわかりづらいため、まわりの人に理解されにくく、「努力が足りない」「性格の問題」などと受け取られてしまうこともあります。そのため、本人は傷ついたまま孤独を抱えやすくなります。
日常の中で感情を保つことが難しく、人との関係がぎこちなくなりやすいのは、かつての危機的な経験に身体が敏感に反応してしまうからです。わずかな刺激にも不安や怒りが湧き、自分でも理由がわからないままフリーズしたり、突発的に反応したりすることがあります。こうした状態が続くと、安心できる関係を築くことや、集団に自然に溶け込むことが重荷になります。
誰かと共にいる場面でさえ緊張が解けず、気を張り続ける日々が続くと、自分らしさを出す余裕すら失われていきます。その結果、ふつうに暮らすだけでも苦しさが重なり、「生きづらい」と感じてしまうのです。苦しみの原因は本人の弱さではなく、これまで十分に守られてこなかった経験の積み重ねにあります。
発達性トラウマ障害(DTD)の診断基準
発達性トラウマ障害(DTD)は、現在のDSM-5には明確な独立診断名としては掲載されていないものの、専門家の間では一定の共通認識のもとで臨床的診断が行われています。
診断の主なポイントは、子ども時代に繰り返された深刻なトラウマ体験と、それによって形成された3つの領域にまたがる心理的機能の障害です。これらは以下のように整理されます。
感情の調整能力に関して困難が生じる
最も顕著に現れやすいのが、感情のコントロールが極端に難しいという傾向です。過剰な怒り、突然の涙、慢性的な不安や恐怖、過度の緊張状態などが日常的に繰り返されることがあり、本人もその振れ幅の大きさに疲弊してしまいます。
これは、子ども時代に安心できる大人との関係を築けなかったことにより、感情の処理を学べないまま大人になった結果とされています。
自己認識や自己価値の歪みがある
発達性トラウマ障害を抱える人の多くが、「自分には価値がない」「自分は人に迷惑をかける存在だ」という思い込みを強く抱いています。
この自己評価の歪みは、幼少期に繰り返された否定的なメッセージやネグレクトの影響で形成されます。失敗や拒絶を過剰に恐れ、常に人の顔色をうかがいながら生きる傾向があります。
対人関係における著しい不安定さがある
もう一つの大きな特徴は、人間関係の極端な反応です。ある時は依存的にすがりつき、別の場面では過剰に他者を避けたり攻撃的になったりと、安定した関係性の構築が困難です。これは、幼少期に信頼できる大人との継続的な関係を築けなかったことで、「人は信じられない」「見捨てられるかもしれない」という無意識の恐れが根底にあるためです。
こうした3つの領域で、明確かつ継続的な困難が認められ、それが本人の社会生活や日常に支障をきたしている場合、発達性トラウマ障害(DTD)の可能性が高いと判断されます。診断には、精神科医や臨床心理士による詳細なヒアリングに加え、発達歴・家庭環境・生活の様子などを総合的に確認する必要があります。
また、しばしば発達障害や境界性パーソナリティ障害などと誤診されやすい点も、診断上の難しさの一つです。そのため、DTDに詳しい医療機関での診断・評価を受けることが、適切な治療への第一歩となるでしょう。
発達性トラウマ障害(DTD)は治るのか?治療方法
発達性トラウマ障害の治療では、単に症状を抑えるのではなく、心の奥に残されたトラウマの記憶や反応パターンに丁寧に向き合うことが大切です。過去の体験に由来する感情や認知の歪みを少しずつ修正しながら、安心できる人間関係や自己理解を育てていくことで、回復の道が開かれます。
そのため、治療は一つの方法だけで完結するものではありません。専門家による心理的支援を受けながら、本人が安心して気持ちを表現できるような環境を整えることが基本となります。信頼できる相手と関係を築くなかで、これまで言葉にできなかった思いや感情に気づき、自分の感情との付き合い方を学んでいくのです。
以下では、発達性トラウマ障害における代表的な治療アプローチを2つ紹介します。
安全な関係性の構築と環境調整
回復の第一歩は、本人が「ここなら安心していられる」と感じられる環境づくりです。日々の生活の中で、予測可能なルールがあり、急な変化や強い刺激が少ないことが大切とされています。
また、周囲の人が感情的に反応しすぎず、落ち着いて関われるようにすることも、本人の不安を和らげる要素になります。
治療の現場では、「トラウマインフォームド・ケア」と呼ばれる考え方が重視されます。
これは、過去の体験に配慮した関わりを意識し、本人の選択を尊重する姿勢を基本とする方法です。
こうした関係性の中で、信頼を築くことが治療の土台になります。
否定的な思考や記憶の再構築
過去のトラウマによって形成された「自分は価値がない」「人は信じられない」といった思い込みを和らげることも大切です。
認知行動療法(CBT)では、そうした否定的な考えに気づき、より現実的で前向きな捉え方に変えていく練習を行います。自分の中にある思考のクセを客観的に見つめ直すことで、少しずつ自己肯定感を回復していくことができます。
さらに、強く心に残っているつらい記憶については、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などの治療法が効果を上げています。
この方法では、記憶に伴う過剰な感情反応を緩和し、安心できる形で記憶を整理していくことが目的となります。
発達性トラウマ障害(DTD)に対して私たちにできること
発達性トラウマ障害(DTD)を抱える人にとって、周囲の理解と支援は回復への大きな後押しとなります。専門的な治療も大切ですが、日常の中で周囲ができる関わり方もまた、本人の安心感と自己肯定感を育む大切な要素です。
ここでは、私たち一人ひとりにできる具体的な支援の在り方を紹介します。
傾聴と共感を大切にする
発達性トラウマ障害(DTD)のある人は、過去の体験から「自分の感情を話しても否定される」「理解されない」などの思い込みを持っていることが少なくありません。そのため、何よりもまず求められるのは、批判や評価をせずに話を聞く姿勢です。表面的な慰めや励ましではなく、「そう感じたんだね」「そのとき辛かったね」などの共感の言葉が本人の安心感につながります。
感情が爆発したり落ち込んだりする場面でも、「そんなふうに感じるのも無理ないよ」と言葉をかけることで、相手は自分の存在を否定されずに受け入れられたと感じます。このような小さな積み重ねが信頼関係を築き、自己表現への扉を開きます。
否定せず、境界線を守る関わりをする
DTDの特徴の一つに、感情のコントロールが難しいことや、人との距離感がうまく取れないことがあります。支援する側が、必要以上に感情的になったり、相手の感情に巻き込まれたりしないことも大切です。つまり、「共感」はしても「同化」しないバランスを保つことが求められます。
相手が不安定な言動をとっても、「それはダメ」「どうしてそんなことするの」と否定するのではなく、「今はちょっとしんどいんだね」と受け止めつつ、「でもこれはこうしていこうね」と一定のルールや境界線を示すことが安心感につながります。
このような関わり方は、子どもに限らず大人との関係でも効果的です。境界を持ちながら寄り添うことで、本人は「自分の存在を受け入れてもらえている」と感じ、自らの行動を見つめ直すきっかけになります。
安全な環境を整える
DTDの背景には、家庭や学校、社会などで「安心できる環境」がなかったことが多くあります。そのため、支援の基本は「安心・安全な場所を提供すること」にあります。急に刺激の強い言葉を使ったり、不意打ち的に話しかけたりすることは避け、穏やかで予測可能な関係性を築くことが大切です。
学校や職場ではルールを明確にし、安心して過ごせるルーティンをつくることが効果的です。また、保護者や同僚は本人の変化に気づいたとき、専門機関への相談を促すことも大切な役割です。
発達性トラウマ障害(DTD)に関するよくある質問
発達性トラウマ障害(DTD)はまだ新しい概念であり、一般的な理解は広がっていないのが現状です。そのため、日常的な疑問を持つ人が多く、誤解や混同も少なくありません。ここでは、発達性トラウマ障害(DTD)に関してよく寄せられる代表的な5つの質問を、解説します。
発達性トラウマ障害はいじめが原因?
いじめが原因で、発達性トラウマ障害が発症する可能性は十分にあります。
発達障害がある場合は適切な人間関係の距離感がつかめず、いじめに発展してしまうことが多く、いじめは長期的に続く場合が多いです。
ただ一過性のいじめであれば、発達性トラウマ障害にまでは発展しない場合もありますが、継続していじめが起こった場合は、発達性トラウマ障害に発展してしまう可能性があります。
いじめによって発達性トラウマ障害が発生した場合は、専門家に相談して一刻も早い治療を開始しましょう。
発達性トラウマ障害(DTD)の治し方は?
発達性トラウマ障害(DTD)の治し方は、まず安心安全と患者本人が感じられる環境の中で治療を行う必要があります。
本人が安心できる環境の中で、体と心を育て直すことが主な治し方になります。トラウマをピックアップしすぎずカウンセリングを行ったり、薬物療法や心理療法を行います。
自分自身の感情を認めるためのスキルを学んだり、呼吸法を試してみるのも治療の一環として必要になる場合があります。
発達性トラウマ障害(DTD)は発達障害と何が違うの?
発達性トラウマ障害(DTD)は、幼少期の慢性的なトラウマ体験が原因で感情や対人関係に問題が生じる障害であり、生まれつき脳の発達に偏りがある発達障害とは根本的に異なります。
たとえば、ADHD(注意欠如・多動性障害)では神経系の機能に起因する不注意や多動性が見られますが、DTDでは虐待やネグレクトなどによる心理的反応が中心です。したがって、支援方法や治療アプローチも大きく異なります。
DTDは大人になってからも現れる?
はい、発達性トラウマ障害(DTD)は大人になってもその影響が続くことがよくあります。子どもの頃に経験した継続的なトラウマが未解消のまま成長した場合、感情のコントロールが難しかったり、人間関係に極端な不安を感じたりすることがあります。
これは単なる「性格の問題」として片付けられがちですが、根本には治療が必要な心理的な傷が存在している可能性があります。
発達性トラウマ障害(DTD)はどのように診断される?
現時点ではDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)には正式に収載されておらず、診断には臨床家の経験と慎重な評価が求められます。問診や心理検査、家族からの情報などを総合して、幼少期の慢性的なトラウマ体験が現在の症状にどう関係しているかを見極めて判断されます。
なお、専門医でないと見落とされる可能性もあるため、心療内科やトラウマ専門クリニックの受診が推奨されます。
発達性トラウマ障害(DTD)は治るのか?
DTDは治療によって回復が期待できる障害です。ただし、改善には時間がかかる場合もあり、本人の努力と同時に、専門的なサポートが大切です。トラウマに特化した心理療法(例:EMDR、セラピーなど)や、安心できる人間関係の中での再体験・再構築が大切になります。「治るかどうか」は個人差がありますが、支援を受けながら生きづらさを軽減し、社会的自立に近づくことは十分可能です。
周囲の人ができるサポートは?
DTDを抱える人への最も大切な支援は、安心・安全な人間関係の構築です。批判や過干渉を避け、相手の反応を一方的に否定せずに受け入れる姿勢が求められます。
加えて、無理にトラウマを掘り返そうとせず、本人のペースで語れる環境を作ることが大切です。学校や職場など周囲が正しい理解を持つことで、その人の可能性を引き出す環境づくりが可能になります。
まとめ
発達性トラウマ障害(DTD)は、幼少期の深刻なトラウマ体験が原因で、心と脳の発達に長期的な影響を及ぼす複雑な障害です。多くの人がこの障害の存在に気づかず、大人になっても「性格の問題」や「発達障害」と誤解されたまま苦しんでいます。こうした背景からも、まずは社会全体での正しい理解と認知が不可欠です。
子どものころに虐待やネグレクト、いじめを受けた人が、成人後も自己肯定感が極端に低く、人間関係に強い不安を抱えながら生きる例は少なくありません。しかし、診断基準が明確化されつつある今、専門機関での適切な診断や治療を通じて、回復に向かうケースも増えています。安全な環境で自己理解を深め、認知行動療法やEMDRなどの治療に取り組むことが効果的とされています。
発達性トラウマ障害(DTD)を正しく理解し、周囲が寄り添う姿勢を持つことが、本人の回復への第一歩となります。
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