強度行動障害とは?発達障害との関係と正しい向き合い方

強度行動障害は、自傷・他害・強いパニックなど、日常生活に大きな影響が出る行動が継続して現れる状態を指します。背景には発達障害や環境のストレスなど複数の要因が関係しており、本人だけでなく家族や周囲にも大きな負担が生じます。一方で、早期から適切な支援につながることで、行動が安定しやすくなり、本人の生活の質が向上するというメリットがあります。行動の理由が理解され、安心できる環境や専門的な支援が整うほど、問題行動が軽減する可能性は高まります。しかし、支援人材の不足や家族の孤立といったデメリットも依然として大きな課題です。本記事では、強度行動障害の特徴、支援方法、利用できる制度まで総合的に解説し、より良いサポートにつなげるためのポイントをまとめています。

強度行動障害とは

強度行動障害とは、自傷行為(自分を叩く、噛む、異食など)、他害行為(他者への攻撃)、多動、長時間の激しいかんしゃくなどの行動が頻繁かつ強度高く現れる状態が、日常的に長く続くことを指します。単に「困った行動がある」という段階ではなく、生活に大きな影響が出るほど頻度や強さが高い点が特徴です。こうした行動は本人の健康や安全を大きく損なうだけでなく、周囲の家族や支援者の日常生活にも深刻な影響を及ぼします。こうした行動は、一般的なサポートだけでは十分に対応しきれないことが多く、専門の知識を持つ支援者や、落ち着いて過ごせる環境づくりが欠かせません。強度行動障害に対する考え方は、1980年代後半に、重度の知的障害と自閉症(現在の自閉スペクトラム症)を併せもつ子どもへの支援を検討する中で整理されてきました。特定の病名ではなく、知的障害や発達障害といった特性の影響から生まれる、非常に強い行動上の困難を示す状態として位置づけられています。つまり「単独の病名」ではなく、複数の要因が重なって生じる行動上の困難を表す概念として理解されます。

医学的・福祉での位置づけ  

医学的には、強度行動障害は、発達障害や知的障害などの基礎疾患に関連して現れる行動症状のひとつとみなされています。脳の特性や感覚の過敏さ、コミュニケーションの難しさが背景にあることが多く、症状を単なる問題行動として捉えるのではなく、本人の困難の表れとして理解する姿勢が重要です。

福祉の分野では、強度行動障害は「支援ニーズの非常に高い状態」として位置づけられています。国は強度行動障害を持つ人への支援体制を強化するため、専門研修(強度行動障害支援者養成研修)や加算制度(強度行動障害加算)を整備しています。これは、通常の支援では対応が難しいため、より高度な専門性が必要と判断されているためです。また、医療・教育・福祉の連携が求められるケースが多く、支援の質を高めるための体制整備が全国で進められています。つまり、医学と福祉の双方から「継続的で切れ目のない支援が不可欠な状態」として扱われているのが特徴です。

主な行動特性

強度行動障害では、さまざまな行動特性が組み合わさって現れます。代表的なものとして、自傷行為があります。これは頭を叩く、体を噛む、異食といった行動を指し、本人の身体に危険が及ぶ場合も少なくありません。他害行為も特徴のひとつで、周囲の人を殴る、噛む、突き飛ばすなど、強い攻撃性が見られることがあります。

また、多動や衝動性が強く、落ち着いて座ることが難しい状況が続くこともあります。状況を自分で調整する力が弱いため、急な行動や思いつきで動いてしまうケースもあります。さらに、強いかんしゃくやパニックが長時間続く場合があり、数時間に及ぶこともあります。物を壊す、突然外へ飛び出してしまうなど、命に関わる危険が伴う行動が見られることもあります。これらの行動は、本人の困りごとがうまく言葉で表現できなかったり、環境が合わなかったりすることで強まることが多いとされています。そのため、行動の背景を理解する姿勢が支援において非常に重要になります。

参考: 【資料】強度行動障害支援者養成研修のねらい
参考:強度行動障害を捉える視点についての一考察

強度行動障害の発生状況と背景

強度行動障害がどのくらい発生しており、その背景にどのような要因があるのかを知ることは、適切な支援体制を整えるうえで欠かせません。本章では、各自治体や国の調査をもとに、人数や年代ごとの分布、そして支援現場が抱える課題について整理していきます。

日本国内における発症率

強度行動障害の全国的な発症率を示す調査は多くありませんが、既存のデータから大まかな状況が見えてきます。療育手帳所持者のうち、約1%にあたるおよそ8,000人が強度行動障害に該当すると推計されています。これは2019年度の全国実態調査でも示されており、知的障害や自閉スペクトラム症(対人コミュニケーションや感覚の特性を持つ発達障害)を背景に持つ人の中で一定の割合が強い行動上の困難を抱えていることが分かります。

岡山県の調査では、知的障害や発達障害のある人の中から388人が強度行動障害に該当したと報告されました。支援の場は福祉施設、医療機関、入所施設など多岐にわたり、地域ごとに支援資源が偏っていることも課題です。特に医療的ケアが必要なケースは受け入れ先が限られ、家族の負担が大きくなる傾向があります。

また、精神科病院に長期入院しているケースもあり、本来は地域生活に移行できる人でも、受け皿が不足しているため退院が難しい状況が続いています。こうした背景から、医療・福祉・教育の連携を強化し、地域で切れ目なく支援できる体制づくりが求められています。

年齢別の発生状況

年齢別のデータを見ると、強度行動障害は特定の年代だけでなく、幅広い年齢層に存在していることが分かります。最も多いのは6歳以下で、幼児期から行動上の課題が顕著になるケースが少なくありません。一方で、30~39歳、40〜49歳の成人層が全体の4割以上を占めており、成長しても行動面の困難が続く人が多いことが特徴です。

若年層の中では18歳以下の割合が比較的少ないものの、注意が必要なのは10代後半から20代前半にかけて行動障害が強く表れる傾向がある点です。この時期は学校から社会へ移行する時期であり、環境が大きく変わることが不安やストレスにつながり、行動に影響する場合があります。また、令和4年度調査では60歳以上の高齢層にも一定数の該当者が確認されており、生涯を通じて継続的な支援が必要であることが明らかになっています。大阪府の調査でも同様の傾向が報告されており、年齢が上がっても行動障害が自然に軽減するとは限らない現状が示されました。

さらに、地域の支援体制や医療資源によってサービスの利用状況にばらつきがある点も課題です。特に成人期以降は受け入れ先が限られやすく、家族や支援機関が孤立しやすい状況があります。これらのデータから、年齢に応じた切れ目のない支援や、地域格差を減らす取り組みの重要性が浮かび上がっています。

参考:令和4年度強度⾏動障害実態調査報告書
参考:【資料】強度行動障害に関する研究と支援の歴史
参考:強度行動障害がある方の現状 説明要旨
参考:強度行動障害児者の実態把握等に関する調査研究 事業報告書

強度行動障害が起こる要因

強度行動障害は、本人が持つ発達障害などの特性と、その人を取り巻く環境とのかかわりによって生じる複雑な状態です。行動の強さや表れ方は一人ひとり異なりますが、背景にはいくつかの共通した要因があります。ここでは、強度行動障害を引き起こす主な三つの要因について整理しながら、理解を深めていきます。

発達障害などの個人特性

強度行動障害は、自閉スペクトラム症(ASD)、知的障害、ADHDなどの発達障害を持つ人に多くみられることが分かっています。これらの障害には共通して、コミュニケーションの苦手さや感覚の感じ方の偏り、社会的なルールの理解の難しさ、強いこだわりなどがみられることがあります。たとえば、言葉で思いを伝えることが難しい場合、 frustration(フラストレーション=我慢しきれない気持ち)が高まり、自傷行為や大声を出す行動につながることがあります。

また、感覚の過敏さも大きな要因です。光や音、触られる感覚に強く反応し、本人にとって耐えがたい状況となり、パニックや強い拒否反応が起こりやすくなります。環境の変化が苦手な人も多く、予定の変更や予測できない出来事に直面すると、安心感が失われて行動が激しくなることがあります。

さらに、感情のコントロールが難しい人も多く、気持ちが高ぶると自分を落ち着かせる方法が見つけられず、衝動的な行動が表れやすくなります。自己表現の手段が限られている場合、「行動そのもの」が伝えるための手段となってしまうことがあり、このような個人特性が強度行動障害につながると考えられています。

環境要因

強度行動障害は、本人の特性だけでなく、環境との相性によっても悪化しやすいといわれています。たとえば、生活環境に大きなストレスがあると、行動が激しくなる傾向があります。騒音や強い光、人が多く出入りする場所は過敏な人にとって刺激が強く、落ち着いて過ごすことが難しくなります。また、生活リズムが不安定だと不安や混乱が生じやすく、それが行動に影響することがあります。

「予測できる環境」が大切だといわれており、急な予定変更や見通しの持ちにくい生活は、行動の不安定さにつながります。支援が不足している場合も問題は大きくなりやすく、適切な声かけがなかったり理解のあるサポートが得られなかったりすると、行動障害が重くなりやすいことが指摘されています。

さらに、環境の調整が不十分なまま過ごすと、本人が安心できる場が少なくなり、ストレスをため込みやすくなります。強度行動障害の支援においては、行動そのものよりも「その行動が起こる背景」を見きわめ、環境の整備や適切な支援方法を整えることが重要だとされています。

二次的要因

強度行動障害でみられる行動には、本人の特性だけでは説明できない部分もあります。周囲の関わり方や環境の変化によって、行動が二次的に悪化したり固定化したりすることがあるためです。たとえば、叱責や強い制止、隔離といった対応は、一時的に行動を止められるように見えても、本人の不安や恐怖を増やしてしまい、かえって行動障害を深刻にすることがあります。

また、支援者が本人のサインに気づけず、適した対応ができない状態が続くと、本人は安心できず、ストレスがたまり行動が激化する場合があります。環境調整がうまくできないまま過ごすと、問題行動が「習慣化」してしまい、改善がさらに難しくなるケースもあります。

思春期などの成長期には心身の変化が大きく、ただでさえ不安定になりやすい時期です。このタイミングで支援が途切れてしまうと、行動障害が悪化しやすいことが知られています。家族や支援者の不安が大きくなると、負の連鎖が起こり、本人にも周囲にもストレスがかかり続ける状況が生まれます。

こうした二次的な要因を減らすためには、適切なサポート体制を整え、安心できる環境づくりを進めることが欠かせません。

参考:【講義】強度行動障害とは

強度行動障害の直面する課題

強度行動障害をもつ本人と、その家族や支援者は、日々さまざまな困難に向き合っています。行動の激しさや予測の難しさから、日常生活が大きく制限されることも少なくありません。この章では、本人の生活に直接影響する課題と、家族や支援体制に重くのしかかる問題について整理し、深刻な現状を理解できるように説明します。

家族・介護者への大きな身体的・精神的負担

強度行動障害がある人の介護は、常に細かな気配りが必要で、家族や介護者の負担が非常に重くなりがちです。行動の激しさや予測の難しさから、目を離せない状態が続くことも多く、24時間体制での見守りが必要になる場合もあります。食事や入浴などの日常的なケアに加えて、突然のパニックや自傷行為、暴力的な行動に対応しなければならず、身体的な疲労が蓄積しやすい環境です。

また、「言うことを聞かない」「落ち着かない」といった行動が続くと、介護者のストレスも高まり、「介護疲れ」や「介護うつ」と呼ばれる状態に陥ることが少なくありません。家族の中には、自分の生活のほとんどを介護に取られ、社会とのつながりが薄れてしまうケースもあります。外出すら難しく、孤立感を抱く人も多いと報告されています。

レスパイトケア(介護者の休息を目的とした支援)やショートステイの利用は、負担軽減につながる重要な制度ですが、「申し込みが難しい」「受け入れ先が足りない」といった課題も残っています。特に強度行動障害に対応できる施設は限られており、必要なときに必要な支援が得られない状況が続いています。こうした家族の負担は、社会全体で支えていく仕組みの不足を浮き彫りにしているといえます。  

医療・教育・福祉の連携の不足  

強度行動障害の支援には、医療、教育、福祉といった複数の分野が関わります。しかし、それぞれの機関が十分に連携できておらず、支援が途切れたり重複したりすることが大きな問題になっています。本人の行動に関する情報や支援計画が共有されないまま、別の施設に引き継がれるケースもあり、結果として本人が混乱してしまう状況が生まれます。

医療では、薬物療法や精神的なケアが提供され、教育現場では学習やコミュニケーションの支援が行われます。しかし、この二つが連動していなければ、生活場面の変化に応じた支援が難しくなり、行動の改善につながりません。福祉サービスでも、支援者の経験や考え方が異なるために、家庭での対応と施設での支援方針が一致せず、家族が負担を抱え続けることがあります。

こうした問題を防ぐためには、医師・心理士・福祉職・教員などが連携し、共通の支援方針を作る「多職種チーム」の存在が欠かせません。さらに、地域の支援ネットワークを整備し、家族が複数の機関を個別に回らなくても済む仕組みづくりが求められています。現在の制度ではまだ十分とはいえず、連携不足が支援の遅れを招く深刻な課題となっています。

施設や専門スタッフ不足による待機問題  

強度行動障害に対応できる入所施設やデイサービスは全国的に不足しており、多くの家庭が「利用したくても入れない」という待機問題に直面しています。特に、行動の激しさに応じて専門的な支援を行える施設は数が限られており、数か月から数年待ちになる例も報告されています。

また、専門的な知識や技術を持つスタッフの育成が追いついていないことも大きな問題です。強度行動障害への対応には、行動の分析、コミュニケーション支援、環境調整といった高度なスキルを必要とするため、一般的な介護現場では対応しきれないことがあります。スタッフが十分に育たなければ、施設の受け入れ人数も増えず、結果として待機者が減らない状況が続いてしまいます。

家族が介護の限界を感じても、すぐに施設へつなぐことができないため、在宅で無理を続けざるを得ないケースもあります。こうした「在宅での押し付け状態」が家族の負担をさらに重くし、本人の状態悪化にもつながる可能性があります。本来は支援につながるべきタイミングでサービスが利用できないという現状は、大きな社会問題として改善が求められています。

本人のQOL(生活の質)の低下と社会的孤立  

強度行動障害がある人は、行動の激しさから外出や人との交流が制限されることが多く、社会とのつながりが途切れやすい状況に置かれます。周囲の理解が得られないと、外でトラブルになることを心配して家族が外出を控えてしまい、本人が「家の中だけで過ごす生活」になりがちです。その結果、本人の社会参加の機会が失われ、孤立につながることが指摘されています。

また、適切な支援がないまま過ごすと、本人の自尊心や意欲が下がりやすく、生活の質(QOL)が低下する恐れがあります。自分の思いをうまく伝えられなかったり、行動を否定される経験が続くことで、自己肯定感が育ちにくくなります。発達の機会が得られず、社会性の成長が妨げられることもあります。

こうした状況を改善するには、本人のペースに寄り添いながら、安心して過ごせる環境づくりが不可欠です。外出や活動の機会を少しずつ増やし、成功体験を積み重ねることで、社会参加への一歩をサポートすることができます。周囲が理解を深め、本人の特性に合わせた支援を整えることで、生活の質を大きく向上させることが可能です。

参考:自由記載について(強度行動障害のある人の家族)

強度行動障害の課題解決に向けた取り組み

強度行動障害の支援には、本人の特性や生活状況に合わせた多角的なアプローチが欠かせません。行動面の分析や環境調整、医療的支援など複数の手段を組み合わせながら、地域や家庭が一体となって支えることが求められています。本章では、そのために行われている主な取り組みと、重要な支援の方向性についてまとめていきます。

行動療法による段階的支援  

行動療法の中でも、**応用行動分析(ABA)**は強度行動障害の支援でよく取り入れられています。ABAでは、問題となっている行動が「どんなきっかけで起きるのか」「なぜ続いてしまうのか」といった流れを、生活場面に沿って丁寧に拾い上げていきます。行動が起きる仕組みを理解することで、どの場面でストレスが高まり、どんな刺激が負担になっているのかが見えてきます。その上で、段階的に取り組める小さな目標を設定し、達成しやすい形で支援するのが特徴です。たとえば「5分間椅子に座る」「自分から意思表示をする」など、具体的で分かりやすい行動に焦点を当てて練習していきます。

ABAでは「ポジティブ・リインフォースメント(望ましい行動をほめる、好きな活動を提示するなどの強化)」を重視します。叱るより、良い行動を増やすことで、本人が安心して行動を選びやすくなるためです。また、問題行動の代わりに使える「代替行動」を教えることも有効です。たとえば、物を投げる代わりにカードで意思表示をする方法を身につけるなど、本人が選べる手段を増やします。

効果的な行動療法のためには、家庭・学校・福祉施設が同じ支援方針で取り組むことが重要です。支援が場面ごとにバラバラだと、本人が戸惑いやすくなり、行動改善が遅れてしまいます。定期的な振り返りや評価を行いながら、本人の状態に合わせた計画を続けることで、少しずつ安定した行動が増えていきます。このように、行動療法は「理解→分析→改善」の流れを軸に、長期的な支援を目指す取り組みといえます。

環境を整える

強度行動障害のある人にとって、周囲の環境は行動の安定に大きな影響を与えます。また、生活環境の影響も大きく、突然の大きな音や強い光、人が多く騒がしい空間などは、本人の負担になりやすいと言われています。落ち着いて過ごせる環境を整える工夫は、支援の基本として欠かせません。そのため、「環境調整(本人が落ち着いて過ごせる環境に整える工夫)」は基本的かつ重要な支援になります。

たとえば、静かなスペースを確保したり、視覚的な刺激を減らしたりすると、不安や混乱を軽減できます。また、ひとりで落ち着ける場所を設けることは、パニック時の安全確保にも役立ちます。家庭でも学校でも、過ごし方の見通しが立つように「一日の予定を絵カードで示す」「活動ごとの移動ルートをシンプルにする」といった工夫が効果的です。環境を整える際には、生活リズムの安定も欠かせません。起床・食事・入浴・就寝の流れを一定に保つだけでも、ストレスの減少につながります。また、外出や移動が苦手な人の場合、混雑時間を避けたり、安心できる移動手段を検討したりすることが、行動の安定化を助けます。

さらに、特別支援学校や福祉施設など、日中の活動場所を複数持つことも環境調整の一環です。家庭だけでは負担が大きいため、外部の支援資源を活用することで、本人にも家族にも余裕が生まれます。視覚支援や活動の流れを明確にすることを組み合わせることで、本人が「どうすればいいのか」を理解しやすくなり、安心して行動できる環境が作られます。

医療分野での治療や支援

強度行動障害の行動が極端に激しい場合、医療的な支援が必要になることがあります。精神科では、抗精神病薬や抗不安薬などの薬物療法を用いることがありますが、あくまで“症状を和らげるための一手段”として位置づけられています。薬だけで改善を目指すのではなく、心理的支援や行動療法と組み合わせることが基本となります。

医療の場では、精神科医や心理職、看護師などが協力し、心身の状態を幅広く確認します。行動が急に荒れてしまう場合、てんかんや睡眠のトラブル、胃腸の不調など、体の問題が背景にあることも少なくありません。こうした併発する症状を見逃してしまうと、つらさが長引き、行動がさらに強まることもあります。そのため、医学的な視点からの丁寧なチェックが欠かせません。

短期的に入院治療を行うケースもあります。入院が必要になるケースもあり、家族や施設だけでは安全の確保が難しいときや、急激な変化の原因をきちんと掘り下げる必要があるときに利用されます。ただ、入院はあくまで一時的な環境を整える手段であり、退院後の生活や行動面の支援をどうつないでいくかが、より重要になります。医療と福祉が連携し、入院前後の支援をつなげる取り組みが求められています。

行政の取り組み

行政による支援も、強度行動障害の支援体制を支える大きな柱です。障害者総合支援法のもと、国や自治体は専門スタッフの育成、地域支援拠点の整備、情報の共有体制づくりなどを進めています。

特に「強度行動障害支援者養成研修」は重要な施策で、専門的な知識を持つ支援者を育成するための研修制度です。支援スキルの標準化と質の向上を目指し、全国で研修が実施されています。また、家族の負担を軽減するためのレスパイト(介護者の休息支援)やショートステイの拡充も進められていますが、地域によっては受け皿不足が依然として課題です。

行政では、医療・教育・福祉をつなぐための地域ネットワークの整備や、情報共有のプラットフォーム構築にも取り組んでいます。これにより、支援方針のズレを減らし、本人がどの場面でも同じ方向性で支援を受けられる仕組みづくりが進んでいます。

さらに、児童期からの早期支援、家族への相談支援、権利擁護や虐待防止の強化など、制度的な見直しも求められています。強度行動障害は長期にわたる支援が必要なため、ライフステージを通じて継続的にサポートできる体制の構築が今後の大きな課題です。

参考:強度行動障がいがある方への 支援事例集
参考:強度行動障害のある児童・生徒への効果的な指導の在り方
参考:(参考資料5)強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会報告書

強度行動障害の支援

強度行動障害を持つ方とご家族の生活を支えるには、専門的な知識を持つ支援機関との連携が欠かせません。相談窓口や地域の支援センターを上手に活用することで、困りごとに早く気づき、必要なサポートにつながることができます。本章では、実際に利用しやすい主な支援機関と、その役割について紹介していきます。

自治体の障害福祉課  

各市区町村に設置されている「障害福祉課」は、強度行動障害のある方やその家族がまず相談できる窓口です。ここでは、支援が必要な度合いを判断する「障害支援区分」の申請手続きや、福祉サービスを利用するための調整を行っています。支援区分は、日常生活の困りごとや介助の必要度を数値化した指標で、サービス利用の目安となる大切な仕組みです。

障害福祉課は、生活介護(通所支援)、短期入所(ショートステイ)、重度訪問介護など、本人の生活に応じたサービスの橋渡し役も担っています。特に強度行動障害の場合、専門的な支援が必要になることが多いため、事業所選びや利用調整を丁寧に行うことが求められます。自治体では、地域にある「基幹相談支援センター」と協力しながら、支援が難しいケースにも幅広く対応しています。基幹相談支援センターは専門性の高い相談機関で、強度行動障害に関する困難事例への助言や調整を行う、いわば支援の要のような存在です。複数の機関が関わるケースでは、自治体が全体を調整し、途切れない支援につなげることが不可欠です。

障害福祉課は行政の入口であり、最初の相談場所として心強い存在です。困った時に一人で抱え込まず、まずは気軽に相談することが支援の第一歩となります。

発達障害者支援センター  

発達障害者支援センターは、都道府県や政令指定都市に設置された専門的な相談窓口で、自閉スペクトラム症や知的障害など、発達障害に関わる支援を総合的に行っています。強度行動障害の相談にも対応できる体制を持っており、専門職による助言や家族支援が充実しています。

センターでは、本人だけでなく家族、学校、福祉事業所、自治体など関係する機関と協力しながら、支援の方向性を整理していきます。特に強度行動障害のケースでは、複数の課題が重なりやすいため、センターが後方支援として関わることで、支援の質が高まります。

提供される支援内容には、個別相談、行動面の分析、支援プランの作成補助、関係機関へのアドバイスなどがあります。たとえば、事業所が支援方法に悩んだ場合、センターの専門職が訪問して環境調整の助言を行うことも可能です。また、本人の発達特性に合った支援方法を整理することで、生活の安定につながります。

センターは「どこに相談したらいいかわからない」という家族にとっても重要な窓口です。支援機関とのつながりを作る役割も担っており、地域全体の支援体制を強化するための中心的な存在となっています。

精神保健福祉センター  

精神保健福祉センターは、地域のメンタルヘルス支援を担う公的機関で、精神面の困りごとに対する相談窓口となっています。強度行動障害のある方は、行動面の課題だけでなく、不安やストレスの影響が大きい場合もあるため、精神的なケアを受けられる場が近くにあることは大きな支えになります。センターでは、精神科医や臨床心理士が相談に応じ、必要に応じて医療機関の受診につなげる支援も行っています。行動が急激に悪化したときや、本人のストレスが強まった場合には、専門職が状況を整理し、対応方法を助言することができます。

また、医療・福祉・教育機関と連携する仕組みが整っており、複雑なケースにも多方面から支援が行える点が特徴です。服薬の管理や生活リズムの改善、社会復帰に向けた相談も可能で、本人の心身の状態を総合的に支える役割を担っています。とくに緊急時には、センターが関係機関と連携し、危機的な状況をいち早く落ち着けるための支援に動きます。精神保健福祉センターは、地域の安心を守る重要な拠点として機能しており、こうした場面で力を発揮します。

家族会・NPO団体  

家族会やNPO団体は、同じ立場の家族同士がつながり、経験を共有できる貴重な場です。強度行動障害の支援では、家族が孤立しやすく、相談できる相手が少ない状況になりがちです。そのため、ピアサポート(同じ経験をもつ仲間どうしの支援)が大きな力になります。

家族会では、日々の困りごとの相談、体験談の交換、勉強会の開催などが行われています。実際に同じ経験をしている家族からの情報は、教科書にはない実践的な知恵となり、支援のヒントになることが数多くあります。

福祉系NPOでは、専門家による相談、法律支援、学習会などの機会も提供しています。地域によっては、どんな福祉サービスを選べばよいか、あるいは支援計画をどのように組み立てていくかを学べる機会が用意されているところもあります。こうした取り組みは、家族の肩の荷を少しでも下ろす助けになることが多いです。また、状況に応じて行政や医療機関との間を取り持ち、地域の支援体制をつなぐ役割を担う団体が動いている場合もあります。

こうした家族会・NPOは、地域の支援体制を補完する大切な存在です。家庭だけでは解決が難しい課題でも、支援者や仲間の力を借りることで、安心して日常生活を続けられる環境が整っていきます。

参考:(参考資料5)強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会報告書
参考:強度行動障害の医療 ~各地域・医療機関 の現状
参考:強度行動障がいについて
参考:独立行政法人国立重度知的障害者総合施設 のぞみの園
参考:障がい者地域生活・行動支援センター か~む
参考:横浜 自閉症支援 社会福祉法人横浜やまびこの里
参考:強度行動障害支援者養成研修について – 神奈川県ホームページ

強度行動障害に関するよくある質問

強度行動障害については、日常生活で直面しやすい疑問や不安が多く寄せられます。特に、支援の受け方や家族の生活との両立、年齢による変化などは気になる点が多いところです。本章では、よくある質問を取り上げ、できるだけ分かりやすく解説します。初めて知る方にも理解しやすいように、専門用語が出る場合は簡単な説明も添えてお伝えします。

Q1. 強度行動障害と発達障害は同じものですか?

強度行動障害と発達障害は、同じものではありません。しかし、強度行動障害は発達障害(自閉スペクトラム症・知的障害など)を背景として現れることが多く、深く関係した状態です。発達障害そのものは「脳の特性による、コミュニケーションや行動の特徴」を指します。一方、強度行動障害は、その特性に不安や混乱が重なったときに、自傷行為(自分を叩く・噛むなど)や他害行為(他者を叩く・噛みつくなど)、激しいパニックが頻繁に起こる状態をいいます。

これは、本人が気持ちを言葉で伝えにくかったり、環境の変化に強いストレスを感じたりすることで表れやすくなります。つまり、発達障害が基盤にあって、その上に「とても強い行動のゆらぎ」が現れた状態が強度行動障害といえます。同じ病名ではありませんが、つながりの強い関係にあるため、支援も発達障害の理解と合わせて行う必要があります。

Q2. 診断を受けなくても支援は利用できますか?

診断がなくても、地域の福祉サービスに相談することは可能です。市区町村の障害福祉課や相談支援事業所では、状況に応じて利用できるサービスの説明をしてくれます。ただし、多くの支援制度(ヘルパー利用、短期入所、福祉サービスの申請など)は、障害者手帳や医師の診断書をもとに利用判断が行われます。そのため、支援を安定して受けるには、できるだけ専門機関での診断を受けることが望ましいといえます。

学校や保育園での支援についても、診断がない状態で対応される場合がありますが、教育機関でも医療機関の意見があると支援方法がより明確になります。強度行動障害は環境の影響を受けやすいため、相談だけでも早めに動くことが大切です。「診断がない=相談できない」ということはありませんので、まずは地域の窓口に問い合わせるところから始めるのがおすすめです。

Q3. 強度行動障害は治りますか?

強度行動障害は、風邪やけがのように「治る」というイメージとは少し異なります。背景には発達障害や知的障害の特性があるため、症状そのものを完全に消すことは難しい場合があります。ただし、適切な支援や環境調整によって行動が落ち着き、生活が大きく改善するケースは多く報告されています。

例えば、本人がどのような場面で不安を感じるのかを整理し、安心できる環境を整えることでパニックが減ることがあります。また、感覚の過敏さ(音や光に強いストレスを感じる特性)に合わせて刺激を調整すると、自傷行為が減ることもあります。さらに、支援者が行動の意味を理解しながら関わることで、少しずつ自分で気持ちを調整する力が育つこともあります。強度行動障害は「治す」ではなく「整える」「軽くする」「生きやすくする」ことを目標にすると、本人も家族も前向きに支援を活用できます。

Q4. 兄弟姉妹や家族の生活はどう守れますか?

強度行動障害がある本人への対応は、家族にとって大きな負担になることがあります。そのため、家族全体の生活を守るには「家族だけで抱えない仕組み」を利用することが大切です。まず役立つのが、レスパイトケア(家族の休息を目的とした支援)や短期入所サービスです。本人を安心して預けられる場所があることで、兄弟姉妹の時間を確保したり、家族の休息をとることができます。

また、家族会やNPOが主催する交流会では、同じ経験を持つ家族と話し合えるため、孤立感が減り、気持ちの整理にもつながります。心理的なサポートを専門家から受けられる窓口も全国にあるため、不安や疲れが積み重なる前に相談することも重要です。

兄弟姉妹については、本人との距離の取り方や接し方を一緒に考えることが必要です。家族全体にとって無理のない関係づくりを支援者と連携しながら進めることで、安心できる家庭環境を保ちやすくなります。

Q5.強度行動障害の症状は年齢とともに変わるものですか?  

強度行動障害の症状は、年齢や発達段階によって変化することが多いとされています。幼児期は言葉で気持ちを伝えることが難しいため、かんしゃくや自傷行為として表れやすくなります。思春期になると、ホルモンバランスの変化や生活リズムの乱れが加わり、行動が一時的に強く出ることがあります。成人期では、生活環境の変化やストレスの種類が変わるため、行動の出方も異なる場合があります。

ただし、適切な支援が早期から行われていると、年齢を重ねるにつれて自己調整が上達し、行動が落ち着くケースもあります。特に、療育・教育・福祉の連携がスムーズに行われている場合、生活の安定が長く続きやすいとされています。

つまり、症状は固定されたものではなく、環境や支援によって変化していきます。「年齢が上がれば悪化する」というわけではなく、本人に合ったサポートがあれば改善も十分期待できます。

まとめ

強度行動障害は、本人だけでなく家族や地域社会にも大きな影響を与える重要な課題です。行動の背景には、発達特性や環境の変化など複数の要因が関わっており、医療・福祉・教育が連携した総合的な支援が欠かせません。今後は、社会全体が理解を深め、専門的な支援体制をさらに充実させることで、本人が安心して生活できる環境づくりを進めていくことが求められます。

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